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その前に

 翌日の昼休み。

 紬は自分の席で、昨日の記録を整理していた。使えそうなものを選んでいると、机の横で足音が止まる。顔を上げると、小夜が立っていた。その少し後ろには、時彦もいる。

「紬さん。昨日の山府研究部について、少し伺ってもよろしいでしょうか」

「うん」

「家の用事で立ち寄る場所も、普段の放課後に含まれるのでしょうか」

「いつもしてることなら、入ると思う」

 小夜は小さく頷いた。

「毎日ではありません。ですが、週に何度かは、昨日の社のような場所へ立ち寄ります」

「それなら、見てみたい」

 紬は即答する。

 小夜は一度、時彦へ目を向けた。時彦が静かに頷く。それを確かめてから、小夜は再び紬を見た。

「昨日のような活動は、またなさいますか?」

「する。次の案内人は、まだ決まってないけど」

「でしたら、一度見学させていただいてもよろしいでしょうか。皆さまが、どのようなことを記録なさるのか、もう少し拝見したいのです」

 紬は手帳を閉じる。

「私はいいと思う。兄さんにも聞いてみる」

「ありがとうございます」

 続いて、時彦が口を開いた。

「小夜が参加なさる時は、俺も御一緒してよろしいでしょうか」

「二人で?」

「はい。帰りは、普段から二人で行動することが多いものですから」

「分かった。二人ともで聞いてみる」

 小夜と時彦が自分達の席へ戻った後、紬は司へ短いメッセージを送った。

『昨日会った二人が、次の活動を見たいって』

 すぐに、もう一通送る。

『小夜さんと時彦君』

 間もなく司から返事が来た。

『二人とも?』

『うん』

 少し間を置いて、もう一通届く。

『見学ならいいよ』

 紬は小夜へ、司から了承を貰ったことを伝えた。


 その日の放課後。

 いつもの教室で、山府研究部への参加を決めている五人が揃った。

「まずは、昨日の報告から始めようと思う」

 俺は写真を机の中央へ寄せる。

「前回の聞き取りで話してくれた生徒に、普段の帰り道を案内して貰った。学校からバス停まで歩いて、その後商店街を――」

「その前に、報告がある」

 紬が口を挟んだ。

「小夜さんと時彦君が、山府研究部の校外活動を見学したいって」

 雪白さんが紬を見る。

「次の校外活動日は決まっているの?」

「まだ。案内してくれる人も決まってない」

「なら、先に案内役を探す必要があるわね。あの二人は忙しいから、早めに日程を調整する必要があるわ」

「わたくしがお探しいたしましょうか?」

 大竹さんが申し出る。

 前回の聞き取りでも、大竹さんは短時間で九人の生徒を集めてきた。人を探すことに関しては、俺達の中で一番頼りになる。

「二人は、どうして見学したいって?」

「小夜さんは、昨日みたいな神社へ家の用事でよく行くからって」

 紬は昼休みに聞いた話を説明する。湯田さんにとって、社へ立ち寄ることは特別な行動ではない。毎日ではなくても、週に何度かある普段の放課後の一部だった。

 だからこそ、自分達の日常を俺達がどのように記録するのか、見てみたいらしい。

「星君も同じ理由?」

「小夜さんと一緒に動くことが多いから、自分も見たいって」

「二人で見学か」

 人数が増えること自体は問題ない。ただし、次の案内役となる生徒には、見学者が二人加わることを事前に伝える必要がある。知らない生徒に囲まれれば、普段どおりに話しにくくなるかもしれない。

「全員で参加するのか?」

 室井君が尋ねた。

「参加者は案内人と日程が決まったら予定を確認しよう。毎回全員で行かなくても、写真を撮る人と、話を聞く人がいればいい」

 雪白さんも頷いた。

「参加できる人で役割を分ける方が、継続しやすいでしょうね。全員の予定が合うまで活動を延期していては、何も進まないもの」

「それじゃあ、今度こそ昨日の報告に戻るぞ」

 俺が写真へ手を伸ばすと、紬が鞄を開いた。

「その前にまだ、もう一つ」

 取り出したのは、透明な書類ケースだった。中には、担任から渡されていた部活動の設立申請書が入っている。紬はそれを、五人の中央へ置いた。

 俺達の視線が、まだほとんど空欄の申請書へ集まる。次の活動を決める前に、先に終わらせなければならないことがあった。


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