聞き取り調査
最初の組は、女子生徒が二人、男子生徒が一人だった。三人は並べた椅子へ座ったものの、どこか落ち着かない様子でいる。
普段使っている教室ではない上、ほとんど話したことのない同級生から質問されるのだから、緊張するのも当然だった。大竹さんだけが、俺の横の椅子で優雅に腰を下ろしている。
俺は机の上へ質問用紙を置いた。
用意した質問は、どれも簡単なものだった。普段の放課後は何をしているか。友人とはどこへ遊びに行くか。登下校には何を使っているか。山府で暮らしていて、自慢できることや不便に感じることはあるか。地元の人にしか分からない習慣はあるか。
渡部君から言われたとおり、山府について自由に説明して貰うのではなく、普段の生活から答えられる内容にしてある。
これなら、室井君の時より話を聞きやすいと思った。
「じゃあ、普段はどんなところへ遊びに行く?」
最初の女子生徒へ尋ねる。女子生徒はすぐには答えず、隣の生徒を見る。相談して良いのか迷っているらしい。
「一人ずつで大丈夫だよ」
「あ、はい」
女子生徒は姿勢を正した。
「駅前に行くことが多いです」
「駅前のどの辺り?」
「ええと……」
女子生徒が考え込む。
大竹さんが横から身を乗り出した。
「こちらの方は、よくお友達と一緒に――」
「大竹さん」
俺が呼ぶと、大竹さんがこちらを見る。
「本人に答えて貰うから、少し黙ってて」
「承知しましたわ!」
大竹さんはすぐに背筋を伸ばし、膝の上へ両手を置いた。
女子生徒へ続きを促す。
「駅前では、何をするの?」
「買い物とかです」
「どんな店へ行く?」
「いろいろ……」
答えが続かない。
具体的な店名を出して良いのか、それとも俺が求めているのは別の答えなのか、判断できずにいるようだった。
「食べ物を買う店でも、服を見る店でもいいよ」
「両方行きます」
「よく行く店は?」
「その時によります」
間違った答えではない。しかし、どのような時間を過ごしているのかまでは見えてこなかった。紬がノートへ記録する。
『駅前。買い物。店はその時による』
書かれた内容だけを見ると、神奈川で暮らしていた俺達とほとんど変わらない。
次の男子生徒へ尋ねる。
「放課後は?」
「部活です」
「何部?」
「バスケットボール部です」
「部活が終わった後は?」
「帰ります」
「途中で、どこかへ寄ったりは?」
「ほとんどないです」
一つ質問するたび、一つの答えが返ってくる。しかし、そこから先へ話が広がらない。男子生徒が不真面目なわけではなかった。俺が尋ねたことには、きちんと答えている。むしろ、余計なことを話さないよう慎重になっているようだった。
三人目の女子生徒は、部活が終わると友人と一緒に帰ると答えた。
「いつも同じ人と帰るの?」
「だいたいは」
「途中で何かする?」
「真っ直ぐ帰ります」
大竹さんの口がわずかに開く。何か言いたそうだったが、先程注意されたことを覚えているらしい。自分の口を両手で押さえ、黙ったまま耐えている。
教室の後ろで、ページをめくる音がした。雪白さんは自分の席から動かず、本を読んでいる。こちらへ顔を向けてはいない。ただ、大竹さんが口を開きかけるたび、本の上に落ちている視線がわずかに上がっていた。
最初の三人から一通り話を聞き、次の組と交代する。席を立った三人は、教室の端に寄せた椅子へ移った。
その後、二組目と三組目も同じように質問した。しかし、人数が増えても返ってくる答えは大きく変わらなかった。九人の生活が同じというわけではないはずだった。
大竹さんが何度も口を挟みかけていることからも、それぞれに話せることがあるのだろう。俺の質問では、そこまでたどり着けていない。用意した質問へ順番に答えて貰う形が、かえって学校の面接やアンケートのようになっていた。
「ありがとう。少し休憩にしよう」
九人の表情が、目に見えて緩んだ。席を立ち、近くの友人同士で話し始める。
紬は記録した内容を読み返している。量だけなら、かなり集まっていた。
「どう?」
俺が尋ねると、紬はしばらく考える。
「答えはある」
「うん」
「でも、誰の話でも同じに見える」
そのとおりだった。
欲しかったのは、山府の一般的な説明ではない。そこで暮らす高校生が、普段何を見て、何を感じ、どこへ立ち寄り、どんな生活をしているのかという細部だった。
質問を具体的にすれば、具体的な話が出てくると思っていた。
実際には、質問へ正確に答えようとするほど、回答は短くなっている。




