感想
二つの部を見学し終えた頃には、校舎に残っている生徒も少なくなっていた。俺達は昇降口へ向かいながら、交代で報告書を持った。一人で持てない重さではない。ただし、ずっと片手に抱えて歩きたい重さでもなかった。
「どうだった?」
俺が尋ねると、紬はしばらく答えなかった。
「凄かった」
「感想が簡単だな」
「簡単にしないと、長くなる」
それもそうだった。
歴史部や地理部は、目的に即して本格的な調査を行い、成果物を作成し、それを毎年積み重ねている。
俺達は昨日、テーブルで思いついた活動を、申請書の余白へ二行書いただけだった。並べて考えると、山府研究部という名前を付けたことさえ、少し恥ずかしくなってくる。
「俺達の計画、夏休みの自由研究みたいじゃないか?」
「自由研究に失礼」
「そこまでか?」
「まだ、何も調べてないから」
反論できなかった。
正門へ向かう坂道を下りながら、紬は俺が持つ報告書を見る。
「やめる?」
「分からない」
紬は弱々しく答えた。俺達の発想は悪くないはずだ。しかし、あの部誌や報告書を見ると、自信が無くなってくる。
「とりあえず、母さんに地理部の報告書を見せてみるか」
俺達は、ようやく五分咲きほどになった夕暮れの桜並木の下を、トボトボと帰路に就いた。
帰宅すると、母はダイニングテーブルで遅い昼食を取っていた。仕事の区切りを逃し続けた結果、夕食に近い時間になってから昼食を食べているらしい。
俺達が持っている報告書を見ると、箸を置いた。
「何、それ?」
「地理部が作った山府の報告書」
「山府の?」
母の目が輝く。
俺から報告書を受け取ると、すぐに表紙を開いた。
「凄いじゃない。これがあれば、取材しなくてもいいんじゃない?」
「まず読んでみて」
母は目次へ視線を走らせる。最初の数項目までは、興味を持っているようだった。
ページをめくる。
山府市の地形と市街地の形成、中心市街地における人口動態、産業構造の地域差、公共交通網と通勤・通学圏、商業施設の分布と買い物環境、自然災害の危険性と避難経路……
ページを進むごとに、母の指の動きが遅くなっていく。
やがて、報告書を静かに閉じた。
「凄い資料だとは思うのよ」
先程までの勢いはなかった。
「山府のことも、たぶん、もの凄く詳しく書いてあると思う」
「うん」
「でも、これは漫画の資料には使えないわね」
ですよね、と俺も心の中で同意した。




