5.いらないなら貰っちゃうね(1)
これ以上ないほど柔らかなベッドに身を包まれ、私はゆっくりと目を覚ました。
体を起こすと、寝具が優しく体を支えてくれる。こんなにも心地よく眠れたのは、生まれて初めてかもしれない。
「あぁ、良い睡眠がとれたー」
見渡せば、部屋は驚くほど広い。天井には豪華なシャンデリアが吊るされ、朝日を受けて無数の光を煌めかせている。壁には精巧な装飾が施され、床には厚手の絨毯が隙間なく敷き詰められていた。
大きな窓からは朝日が差し込み、部屋全体を優しい光で包み込んでいる。その窓辺には季節の花が飾られ、甘く穏やかな香りが漂っていた。
まるで最初からここが私の部屋だったかのような落ち着いた空間になっている。
「流石、国王の寝室だね。奪っておいて正解だった」
昨日の夜、住む場所が必要だと思った私は、王城にあった国王専用の寝室を部屋ごと、この土地へ移動させた。
どうせ私を追放したのだから、気にする必要もない。今まで散々好き勝手してきた人なんだから、このくらいのお返しは許されるよね。
「ちゃんとした部屋で寝れたのは、いつ振りなんだろう……」
前世でも毎日のように仕事へ追われ、狭いアパートで眠るだけの生活だった。今世では物置暮らし。だからこそ、この心地いい空間が身に染みる。
「ユマ様、お目覚めになりましたか?」
その時、扉の向こうからエリザの優しい声が聞こえてきた。
「うん、起きたよ。入ってきて」
「失礼いたします」
扉が開き入ってくると、部屋の中を見回したエリザは嬉しそうに微笑んだ。
「よくお休みになれたようで安心いたしました。昨日まで物置で暮らしていらっしゃったユマ様が、このようなお部屋で眠れる日が来るなんて……」
「私も夢みたい。昨日までとは別世界だね」
「はい。本当に別世界でございます」
エリザは何度も頷きながら目元を潤ませる。そんなエリザを見て、私も自然と笑顔になった。
ここには、私を見下す人もいない。命令ばかりする人もいない。怯えながら眠る必要もない。この部屋も、この土地も、もう私のものだ。
「さて――朝食を取ってから、この国づくりを始めようか」
今日から本格的に動き出す。どんな国にしようか、考えるだけで楽しみだ。
◇
「ユマ様、どんな命令でもしてください。このエリザ、必ず実現させてみせます」
奪った食堂で朝食を食べ終わると、自信満々にエリザがそう言ってきた。その気持ちは嬉しいけど――。
「エリザには、いつも通りに私の世話をしてくれると嬉しい」
「で、ですが……ここには他の者がおりません。ユマ様一人で実行するのはあまりにも――」
「大丈夫。まず手始めに、必要な人を集めようと思うから」
国づくりに必要なのは人だ。人がいないと話にならない。それも、中心で物事を考えてくれる人がいい。
「当てはあるのですか?」
「あの人たちの事だから、絶対に良い人を追放すると思うんだよね。だから、そこを狙う」
自分勝手で他人の事を考えない人たちのことだ。絶対に他の人も追放してくるに違いない。
だから、その人をこの地に呼び寄せて一緒に協力してくれるようになれば……きっと国を築いていけると思う。
「でも、どうやって追放された人を呼び寄せるんですか? 王城に戻って、見回るんですか?」
「そんなことをしなくても大丈夫そう。だって、もう世界は私の収納魔法の内側に適用されているんだから。観測すればいいだけだよ」
「えっ……状況も見通せるってことですか!? それはもう、神の目と言ってもいいのではないでしょうか」
収納魔法を裏返したら、本当にとんでもない能力になった。遠くの場所を観測出来るなんて、エリザが言ったように神の目かもしれない。
「じゃあ、ちょっと王城を見てくるよ」
そう言って、私は静かに目を閉じた。意識を王城に向けると、頭の中で映像が流れていく。
様々な人が行き交い、自分の仕事に邁進している。その中をどんどん進んでいき、家族の状況を確認する。
家族は自分の部屋と食堂が無くなったことにご立腹のようだ。狭い部屋で寝て、狭い食堂で食べることを味わって、精神的にも辛そうな顔をしている。
その家族の様子を見ていると、アルフレドのところが賑やかになっていた。執務室に誰かを呼んでいる……あれは、婚約者であり公爵令嬢のクラリス・アインベルクだ。
部屋を見渡すと、アインベルク公爵夫妻も一緒にいる。……これはただ事ではない。すると、アルフレドの怒声が響く。
「クラリス・アインベルク! お前には心底失望した!」
アルフレドは執務机を叩きつけるように立ち上がり、冷たい目でクラリスを睨みつけた。
「王城の政務も、俺の仕事も、お前がして当然だというのに、お前はそれを放棄した。そのせいで各地への書類は滞り、予定していた会議は延期、各部署からは苦情が殺到している!」
怒鳴り声が部屋中に響き渡る。
「王太子妃となる者が、この程度の責務すら果たせないとはな。お前の怠慢によって王城全体に多大な損害が出た。その責任はあまりにも重い!」
アルフレドは鼻で笑い、吐き捨てるように告げた。
「無能なお前など、もう必要ない。本日をもって、お前との婚約を破棄する! そしてアインベルク公爵家にも通達する。この件の責任を取り、クラリスを王都から追放しろ! 俺の未来に、お前のような足手まといは不要だ!」




