12.村の現状
やせ細った村人たちが重たい荷車を引いて、領主の館の前に集まっていた。
今日は税収徴収の日。税として支払うものは小麦なのだが、他の野菜も一緒に積んでいた。誰もが何故野菜も一緒に持っていくのだろう、と不思議そうな顔をしていた。
だけど、領主である男爵の指示に反すると、首が飛びかねない。だから、不思議に思っても、持っていかなくてはいけなかった。
そうして、領主の館の前に村人が集まった。それを見て、その前に立っていた役人たちが持ってきた作物を確認する。
一つずつ確認すると、役人の顔が険しくなる。
「貴様、税収は全収穫量の九割と伝えていたはずだ! これは、七割にも満たない! 脱税ではないか!?」
「だ、脱税でございますか!? いえ! これはちゃんと九割を持ってきました!」
「そんなことがあるはずもない! これは去年よりも少ない! これは、明確な脱税である!」
その言葉が信じられなかった村人は黙ってなどいられなかった。
「そ、そんなっ! 去年よりも少ないのは土地も天気も良くなかっただけで!」
「口答えをするな! よって、足りない税はこの野菜で補うことにする!」
「や、野菜を税に!? そんな話、聞いたことがありません! この野菜がなかったら、どうやって生きていけば!」
「税を払えないお前が悪い!」
「そ、そんなっ!」
野菜は買い取ってもらえるのだろう、そんな淡い期待は見事に裏切られた。そのお金で食べるものを買おうと思ったのに……。そう思った村人は荷車に覆いかぶさった。
「こ、これを税として奪われたら、生きていけない! 頼む! これだけは、これだけは!」
「……そんなことをして、許されるとでも思っているのか! おい!」
役人が声を上げると、下っ端がその男性を取り押さえた。そして、鞭で背中を叩き出した。
「うっ! ぐっ! あぁっ!」
その場に男性の悲鳴が木霊する。その光景を見て、他の村人たちはすくみあがった。
そして、その鞭打ちが終わると、男性の持ってきた小麦や野菜は問答無用で運び込まれた。
「そ、そんな……野菜まで税として奪われたらどうやって生きていけば!」
「明日食べるものにも困っているのに……」
「我々に死ねというのか……!」
領主側のやり方に村人は憤りを覚えていた。税は過剰に取られるどころか、自分たちが生きるために育てた野菜も税として取られてしまう。これでは、全く生きていけない。
村人はある男性の近くに集まった。
「村長、もう限界だ! このままでは、餓死してしまう!」
「今こそ、領主を討つべきだ! そうしないと、死ぬまで搾取されるぞ!」
「このままだと、妻も子どもも……!」
村人は切羽詰まったように村長に詰め寄った。だけど、村長は腕組をして真剣に考えている。
「……だが、男爵を討ったところでどうする? それが見つかったら、俺達は全員死刑だ」
「だったら、他の村に逃げ込めばっ!」
「それが知られたら、その村も全員死刑になってしまう。他の村人も犠牲にしろというのか?」
「そ、それはっ……! だが、このままでも死んでしまう!」
村長は落ち着いて状況を見つめていた。税のために小麦を作っていたが、まさか普段食べる野菜も税に取られるとは思わなかった。これでは、村人は飢え死にしてしまう。
だけど、領主を討つのは大罪であり、それが見つかれば村人全員が死刑にされてしまう。それは、避けたい。
どうにも出来ない状況に村長は苦しんでいた。助けられるものだったら助けたい。でも、自分には力も何もない。
だから、誰かにすがることしか出来なかった。
(この状況を打破出来る人がいたら……助けてほしい。誰でもいい、神でも悪魔でも……!)
◇
「男爵様、今年の税の徴収が終わりました。ご覧ください、これほどに集まりました」
役人が倉庫に集まった作物を男爵に見せる。すると、お腹が突き出て首が肉で埋もれた男爵がそれを見て笑う。
「いい、いいね。これだけ集まれば、返ってくるお金に期待が持てる。それにこの野菜を商会に売れば、さらに金になる」
「えっ? 野菜も税として納税するのでは?」
「そんなことをしては取り分が減ってしまうではないか。税は小麦で、と決まっているから、小麦以外は入れずともよい。この野菜は直接売って金にする」
欲深い領主は野菜を税として徴収すると言いながら、本当はそのまま売って自分のふところを温めることしか考えていなかった。
それを聞いた役人たちは戸惑った様子だ。もしかしてそれは、犯罪なのでは、と。
「いいか。このことは他言無用だぞ」
「で、ですが……村人は本当に困窮していて……」
「村人がどうなろうと知ったことではない。あれは、金儲けの道具に過ぎない。道具をどう扱おうが、私の勝手だ」
男爵は村人を人とは思っていなかった。だから、どうなろうとも構わないと。
「で、ですが……このままだと村を逃げ出す可能性も……」
「村を出るには私の許可が必要だ。その許可がなければ罪人して裁ける。だから、そう簡単には出ていけない。いや、絶対に村から出ていけない」
にやりと笑う男爵。村人がそう簡単に村を出られないことを知っているからこそ、厳しい税収を課していいたのだ。
「全部、私の思うがままだ」




