10.どこから攻めていこうか
「それにしても、アルフレドの執務室で良かったの?」
「はい。いつもここで仕事をしていたので、同じ環境の方がいい仕事が出来ると思うんです。あっ、でも……いずれちゃんとした執務室を作って頂けると嬉しいです」
「そうだよね。こんな部屋でずっとは働きたくないよね」
「いえ、そういう訳ではなくて……。ユマ様にはもっとちゃんとした執務室が必要だと思うんです。今は二人しかいないので、この部屋で一緒に仕事をするのが効率的なだけです。ユマ様にはぜひ、素晴らしい執務室を作り……!」
「わ、分かった! 分かった!」
いきなり圧が強くなって戸惑った。大人しい人だと思っていたけれど、言いたいことはちゃんと言えるみたいだ。
「そうですよ。ユマ様にはちゃんとした部屋が必要です。なので、新しい人を入れる時は建築技術がある人がいいと思います」
「そうですよね! まずはユマ様の環境を最高に整えたいです!」
「いや、私は別に……。今まで物置部屋で寝起きしていたから、どんな場所でも大丈夫だよ」
「「駄目です!」」
……あっ、はい。
「じゃ、じゃあ……具体的に国づくりを始めようか。まずは、こちら側に来てくれる町や村を見繕うところからだね」
「でしたら、私がまとめた資料が資料室にありますので、それを取ってくれませんか?」
「もちろん。それはクラリスのものだから、あっちに残しておくのはもったいないね」
そういう資料があるなら、それは私たちのものだ。意識を王城に向けると、クラリスの資料室を補足する。そして、部屋ごと執務室の隣に移動させた。
「じゃあ、隣に行ってみようか」
席から立ち上がると、執務室の扉を開けて外に出る。すると、そこには廊下がある。
「ユマ様、廊下も移動させたんですか?」
「うん。これから部屋も増えるし、廊下はあったほうがいいと思ってね。それで、クラリスの資料室は隣に設置しておいたよ」
「本当ですか!? 私の資料室は遠く離れた場所に設置されていたので、とても不便だったんです! ありがとうございます!」
良かった、クラリスには喜んでもらえたみたいだ。そのまま廊下を進み、隣の扉を開くと、そこにはちゃんと資料室が繋がっている状態だった。
「うん。移動はちゃんと出来たみたいだね」
「では、この中から必要な書類を見繕いますね」
「その間、資料を見ていていい? どんなものがまとめられているのか見たくてね」
「大丈夫ですよ。少しでも役に立つものがあればいいのですが……」
「では、その間にお茶の準備をさせていただきますね」
私たちはそれぞれのやることを見つけると、動き出した。
◇
その頃、王城では――。
「なっ!? 何故、俺の執務室がない!? ど、どういうことだぁっ!?」
休憩から戻ってくると、自分の執務室がないことにアルフレドは気づいた。周りでは部下たちが右往左往していて、使い物にならない。
「くそっ……! どうして、俺のものが突然消えるんだ! 俺は何もしていないというのに!」
クラリスが突然消えたのは、迷惑をかけたせいだ。神が望みを叶えてくれたに過ぎない。
(だが、仕事をしたくないからと思っていても、執務室をなくすことはないだろう!?)
アルフレドは自分の考えたことに神が勝手に気を使ってくれたと思っている。
「ど、どうしましょうか……」
「あれと同じ部屋を用意しろ! 今すぐに!」
「そんなの無理ですよ! あんなに広い部屋を用意するには、新しく建物を建てなければいけません!」
アルフレドの言葉に部下たちは戸惑った。それが出来たら苦労はしない。
そんなことよりも、今はクラリスがいなくなったことのほうが重要だと部下たちは思った。
アルフレドの仕事はほとんどがクラリスが行っていた。だけど、それだけではなかったのだ。
クラリスがあまりにも万能だったから、部下たちは仕事の全てをクラリスに押し付けていたのだ。
例えば、困った案件があった場合、クラリスにこっそりと助言を貰いに行く。そして、そのことを自分の成果のように報告するのだ。そうすることで、今、アルフレドの周りにいる部下たちは出世してきた。
本当の能力が備わっていない部下たちがアルフレドの周りにいることになる。だから、問題が起こっても誰も正しい対処が出来ない者ばかりだった。
アルフレドが憤慨しているところを見ながら、部下たちは相談する。
「ど、どうする?」
「と、とりあえず大きな部屋を押さえればいいんじゃないか?」
「いや、それよりも執務はどうする。クラリス様がいないんだぞ。何をすればいいか……」
「そ、そういえば! こういう時のために資料室があるんじゃないか? あそこにある資料を見ればどうにかなるんじゃないか」
その話に部下たちは、他の使用人たちに部屋を用意させることを押し付け、資料室へと向かった。
だが、そこは――。
「な、何っ!? 廊下が……ない!」
「お、おい! 資料室が消えていないか!?」
「な、なんだと!?」
資料室がある場所に行くと、資料室どころか、そこの廊下がごっそりとなくなっていた。城中は大騒ぎで、誰も彼もが慌てていた。
だけど、その中でもアルフレドの部下たちは絶望も味わっていた。
「ど、どうする!? クラリス様もいない、資料室もない……本当に何も出来ないぞ!」
「お、俺の出世が……! 大臣になる夢がっ!」
「だ、大丈夫だ。俺達には今までの実績がある。それがあれば、きっとアルフレド様の側で働けるはずだ。とにかく、アルフレド様の機嫌を取りに行こう!」
部下たちは方針転換した。仕事の功績で出世するよりも、アルフレドの機嫌を取ることで今の地位を維持しようと。
それが、破滅の始まりだとは知らずに……。




