第6章: 修行
1
「——アナはどこ?」、ディランが最初に口にできた質問はそれだった。
彼はテーブルの席につき、祖父と父親の隣に座っていた。
「何かを探しに行っているのよ」とロベルトが答えた。「1ヶ月後に戻ってくるわ。全員連れて行かれたから、オギーも他の者たちもいないけれどね」
「じゃあ、なんで母さんは残ったの? アナの派閥の一員なんじゃないの? まあ、僕はそういうことよく分からないけど」とディランが言った。
「あなたのために残ったのよ」と男は言った。「それに、あなたの母親を一人にしておけなかったからね」
ロベルトの短い言葉を聞いた後、ディランはため息をついた。
父親の気遣いを軽んじているわけではなかった。ただ、彼に対して大きな恩義を感じていたのだった。
どうしてこの男は、自分のためだけに行動を変えることができるのだろうか? ディランは誰かに親切にしてもらえるような特別な存在ではないはずだ。なぜこんなことをしてくれるのだろう?
なぜ誰もが彼に優しくしてくれるのだろうか?
「おい、小僧。どうした? あの屋敷で舌でも食い千切られてきたのか?」
まあ、全員というわけではなかったが。
「ううん、ダリウス叔父さん、僕は大丈夫だよ」ディランはダリウスから視線を逸らしながら言った。
「ふん、まあそう見えるな」とダリウスが言った。
「それでダリウス」とトロイが言った。「もう仕事は見つかったの? 最近家でほとんど見かけないけれど」
「——」
「まあまあ、我が子たちよ。落ち着いて静かに食事をしようじゃないか、ね?」モリソンの宥めにより、二人とも冷静さを取り戻した。
ディランはひき肉のパスタを静かに食べ続けた。
それは程よい塩気があり、少年の歯が食べ物を噛みしめるたびに、その柔らかさが口いっぱいに広がった。
肉も負けてはおらず、トマトベースの甘いソースによって控えめな辛さに仕上がっていた。
完璧なバランスだった。
皿に残っていた最後のひと口を飲み込んだ瞬間、ディランはあることに気がついた。
「ん、あ、そうだ! 父さん、後で僕を迎えに来てくれたんだよね?」
「ええと、そうね……実はあの時——」
「お前の自堕落な父親はな、お前の母親と情熱的な夜を過ごしたせいで寝坊したんだよ」ダリウスがロベルトの言葉を遮って言った。
狼男はすぐに口をつぐみ、トロイはダリウスに向かって金属のスプーンを投げつけた。ダリウスはそれを素早くかわした。
「黙りなさい!!!」と眉をひそめて叫んだ。
「あー、わかった、わかった。これ以上の説明はいらないよ」
「待てよ小僧、どんな行為だったか教えてやるのを忘れてたぜ」
「ダリウス!」とモリソンが叫んだ。「わしは食事中だぞ!!」
「おっと、ごめんごめん」そう言った本人の謝罪には、全く誠意がこもっていなかった。(少なくともディランにはそう見えた)。
少年は、すでに冷め切っていた会話にそれ以上何も足すことなく、テーブルを離れた。叔父の突然の下品な発言に少し気分が害されていた。
「食事中だったのに」と彼は呟いた。
派閥の廊下を通りながら、彼は窓の外をじっと見つめた。
そしてそこで……自分が理解していることを頭の中で軽く整理してみることにした。
魔法:M 技術:T 政治:P
M) 物事を維持する石がある(ポータル)。
T) どうやら魔法を秘めた石が存在し、様々なことを可能にしているらしい。
P) ?????????
M) 魔法には属性があり、それらを使うための呪文が存在する。
T) 普通に機能している。
P) アナは女王になれるかもしれない……になれるかも……
M) 魔導士には階級があり、魔力には限りがあり、使い方も様々。
T) どうやら、それほど遅れても進んでもいないようだ。
P) 規則や法律があり……
……
よし。:D
今それどころではないのは分かっていたが、それらの考えが頭の中で脈絡もなく駆け巡っていたのだ。
「少なくとも魔法の使い方は分かった」と自分の手を見つめながら言った。「まあ、呪文をひとつ知っているだけじゃ大して役に立たないけど」
「イングリ・語」が普通の英語であることは、すでに確認済みだった。
「でも、あの属性が何なのかはまだ分からないな」
通貨制度がどうなっているのかも分かっていない。
それに、あの日記に何が書いてあるのかも分からない。
マーリンの末裔にしては、何の使命も持っていなかった。
「エージェンシーが何か関係しているのかな?」
明日になれば、すべての疑問に対する答えが得られるかもしれない。
父親に割り当てられた部屋に着くと、彼はベッドに横たわった。まばたきをするたびに、まぶたが重くなっていった。
そして最後に……
眠りに落ちる前の……
最後の思考は……
[モーティとリサに手紙を書きたいな……]
何の手ごたえもなく、彼の意識はゆっくりと……
消えていった。
2
何かが叩かれる音で目が覚めた。
天井に向けられた彼の瞳はまだ疲れており、もう少し昼寝をさせてくれと訴えていた。
「ふあぁ」ディランはあくびをした。
首をかきながら、なんとかベッドから足を外に出した。足が床に触れる。
何かをする前に、彼は両腕を上げて跳びはね始めた。
1分後、動きを止めて両頬を軽く叩いた。これで完全に目が覚めた。
[あの二人にどうやって手紙を書くか考えよう]目標がアイデアとして頭の中に描かれた。
再びブーツを履くとドアに向かい、取っ手を掴んで開けた。エリアの長い廊下を進む足取りは心地よかったが、あまりの静けさに昨夜の会話を思い出してしまい、時折きまずさを感じた。
テーブルのある食堂まで歩いてたどり着いた。
そこでは母親が本に完全に没頭して読書をしていた。
「おはよう、母さん」とディランが言った。
「おはよう、愛しい子」
金属のぶつかる音が聞こえ、少年は窓の外を見ることにした。
派閥の緑の広場では、父親とモリソンが上半身裸で戦っていた。ロベルトは鋭い剣を使い、老人は黄金のグローブを嵌めていた。
視点を変えて、ディランは叔父のダリウスに目を向けた。彼はテーブルで、黄色い封筒に手紙のようなものを書いていた。
「母さん」とディランが言った。「父さんとおじいちゃんは何をしているの?」
「トレーニングよ」とトロイが言った。
「あの……遠く離れた人と連絡を取るにはどうすればいいの?」
トロイは本を置き、少年を見つめた。
「誰かと話したいの?」
「ええと、うん……屋敷に友達がいるんだ」とディランが言った。
「まずは朝ごはんを食べなさい」トロイはテーブルの上のワッフルの皿を指さしながら言った。
「わかった」
あっという間に朝食を平らげると、男は息子に黄色い羊皮紙と羽ペンを手渡した。
『やあリサ、ディランだよ』
……
これ以上、何を書けばいいのだろう?
「あ、そうだわ。あなた、書き言葉を知らないのよね。だから私に送りたい内容を言ってちょうだい」
ディランはそのことを分かっていた……けれど。
「あ、大丈夫だよ母さん。僕が書く相手もこの言葉を知っているから」と少年は主張した。「だから心配しないで」
「そう、分かったわ。何かあったら言ってね、いい?」
「うん、ママ。……ううん、母さん」
まあ、彼女がこれ以上の語彙を知っているかどうかは分からなかったが、こうしておくのが一番だろう。
母親と叔父と一緒に廊下をいくつか通り抜け、salmonの壁に囲まれた楕円形の空き部屋に着いた。その中央には箱のようなものが置かれていた。
トロイはディランの紙を受け取り、言った。
「あなた、郵便番号がないわ」
「え……それってなに?」
「手紙をどこに送るか指定するものだよ、小僧」ダリウスが説明した。「基本的には、手紙を目的の場所に直接届けるためのコードさ」
ディランは数秒間床を見つめていたが、あることを思い出した。
[私やモーティと連絡が取れるようになった時のために、そこに書いてあるからね、いい?]
少年はポケットに触れ、リサが残してくれた紙切れを見つめた。
&#^$@&
そこに書かれていたのはそれだった。
「これのこと?」ディランは紙切れをトロイに向けて掲げた。
「そうよ、手紙と一緒に巻いておけば同じように機能するわ」
彼は母親に言われた通りに実行した。
終えると箱に近づき、蓋を開けて中に紙を投げ入れた。その後、小さなオレンジ色の光が上がった。
「これで終わりよ、完了ね」ディランが紙を手放すと、トロイは彼に微笑みかけた。
「よし、次は俺のを送るか」とダリウスが付け加えた。
[誰も気にしてないよ]とディランは心の中で思った。
少年は叔父と仲良くできたことがなく、特に自分に対するあの忌々しい態度が気に入らなかった。
「じゃあ、失礼して」
赤髪の男は甥の脇をすり抜け、彼と同じように紙を投げ入れた。ディランの目から見れば、その動きのすべてが見苦しかった。
つま先立ちで、お尻を突き出しながら歩くような格好だったのだ。
うん、さっさとここを出たほうがいい。
少年は母親と一緒にあっという間にその場を去った。
「母さん、エージェンシーの試験ってなに?」ディランの質問に、男は足を止めた。
「そうね……競技のようなものよ。基本的には5つのエージェンシーがあって、様々な適性試験が終わると、あなたの成績に応じて彼らがあなたを選ぶの」トロイは一息ついた。「もしどこにも選ばれなかったら、翌月以降に再び試験を受け直さなければならないわ。試験の直後にどこかに選ばれれば、最初の任務が割り当てられるの」
少年をじっと見つめながら、男は息子の目を真っ直ぐに見つめた。
「もう試験を受けなきゃいけないって言われたのでしょう?」とトロイが尋ねた。
「ええと……うん……」
「そう……なら、もう知っているのね……」
トロイは悲しげな微笑みをディランに向けた。細められた瞳は今にも涙がこぼれそうだった。彼はゆっくりと少年に近づき、彼を抱きしめた。
「大きくなるのが早すぎるわ」彼は呟き、少年の額に KISS をした。
「母さん……」
二人の間には静けさが漂い、どんな大きな音も、二人の境界を破る針にはなり得なかった。
「ところで、郵便番号ってどうやって機能しているの?」とディランが尋ねた。
「ああ、鏡のようなものよ」とトロイが答えた。
「ふーむ、なるほど」ディランはあごに指を当てた。「属性のついたあの石って、魔法を使うためにも役に立つの?」
「ええ、そうよ。待って、どうしてそれを——?」
「属性には弱点があるの?」
「あるわ、で——」
「今僕たちがいる場所の名前はなんていうの?」
「ディラン、いい加減にしなさい!」とトロイが厳しく叫んだ。「現在私たちがいるのはラストレアンという国よ」
知らぬ間に少年はすり抜け、庭へと走り去っていた。
3
「父さん!」とディランが叫んだ。「魔法を使いたい!」
彼は全速力で走っていた。父親が魔法について何か知っているなら、いくつかレッスンをしてくれるかもしれない。そうすれば試験で自分の身を守れるはずだ。
胸が激しく高鳴り、彼は満面の笑みを浮かべていた。母親からすでに色々と説明を受け、必要なことは理解できた。あとは死ぬまでアバダ・ケダブラを放ちまくる番だ。
「ああ、ディラン」とロベルトが言った。
老人と男は、少年がやってくるのを見ると戦いを止めた。ディランはロベルトの前に立った。過呼吸を起こし、汗が肌を滑り落ちていた。
「父さん……ま……魔法の使い方を教えて……お願い」息を整えながらディランが言った。
「落ち着けスピード狂、まずは『おはよう』だろう」男は叱った。「なんで走っているんだ?」
「ごめんなさい、興奮しちゃって」ディランは手の甲で汗を拭った。「父さんがおじいちゃんと練習していたから来たんだよ。僕がいた屋敷でも、ある男の子が同じことを一人でやっていたから」
「まあね、我が愛しい孫よ」とモリソンが言った。「お前の父親とトレーニングをしていたところだ」
「ねえ、魔法の使い方を教えてほしいんだ」
「どうしてだ?」ロベルトが片眉を上げた。
「だって……僕はマーリンの末裔だから」腕を組みながらディランが宣言した。
完璧で完璧な言い訳だった。ディランの勝利で終わるはずだった。
「それでもお前は俺の息子だ」ロベルトの返答に、ディランは凍りついた。「神でも救世主でもない。部屋のドアを開けっぱなしにされるのを嫌がる、ただの13歳の子供だ」
全く即興ではない完璧な計画と口実が、粉々に打ち砕かれた。
父親は理解していないのだろうか? どうやらこの世界には『食うか食われるか』の法則があるらしい。少し暗いくらい、戦い方を教えてくれたって罰は当たらないはずだ。
「まあまあロベルト、子供なんだからさせてやりなさい。孫はただ戦い方を知りたいだけなんだ」
その言葉を聞いて少年の尻尾と耳が動き、先ほどの笑顔がより強く戻ってきた。彼はピョンピョンと跳びはねた。
どうやらおじいちゃんはこの願いの大きさを理解してくれているようだ。モリソンは近づいてくると、ディランの頭をぽんぽんと叩いた。
「わしが手伝ってやろう、愛しい孫よ」とおじいちゃんが言った。
「ありがとう、おじいちゃん!」ディランは叫び、モリソンに飛びついて抱きついた。
吹く風に草が揺れていた。ディランはそこが屋敷の正面であることに気づいた。マートフード屋敷のように広い裏庭があるわけではなく、アナの派閥には非常に広い前庭があるだけだった。
「呪文はひとつ知っているし、自分がどんなタイプの魔導士かも分かってるよ。あ、それと僕の属性も」そう口にする前に、少年は祖父から離れた。「ところで、すごく汗くさいよ」
「おいおいおい、そう焦るなスピード狂。マーリンの血筋というのは、お前たちの血の中で本当に騒ぐようだな」
老人は片方のグローブを難なく外した。
「しっかり持てるか試してみよう」祖父はその重い物体を少年の手に落とした。
受け取るものの重さに気づく前に、とてつもなく重いものが少年の手の中に収まった。態勢を立て直す余裕もなく、ディランは床に倒れ込んだ。
「痛っ、痛た……」と彼は言った。
おいおいディラン、以前ボウリングのボールを持ったことがあるだろ? なんでそれが持ち上げられないんだ?
彼は持ち上げようと全身の力を振り絞ったが、駄目だった。彼が引っ張るにつれて耳は折れ曲がり、尻尾は激しく揺れた。
無理だ、持ち上がらない。
[頼む、頼む、頼む……]
おい、やめておけ……つまり、これで10回目くらいの失態だぞ。
「あー、無理だ」と言って、彼はグローブを脇に放り出し、地面に倒れ込んだ。
「へえ、そういうことか」モリソンはあごに手を当てた。「よし、分かったぞ」
「息子に何をするつもりだ?」ロベルトの疑問を完全に無視して、老人は少年の前に向かった。
「行くぞ、我が愛しい孫よ」彼はしゃがみ込みながら言った。「まずは筋力トレーニングから始めるぞ」
「え?」少年が口にできたのは、そんな間抜けな声だけだった。
4
モリソンはディランの前に立っていた。
太陽の日差しは先ほどよりも強くなり、老人と少年の背中を照りつけていた。少年の腕は繰り返される運動で震えていたが、老人の腕はスポーツ用のつなぎのポケットに手を突っ込んだまま、身体にぴったりと付けられていた。
「よ……よんじゅう……ろく」ディランの汗があごから滴り落ちていた。
「がんばれ愛しい孫よ、お前ならできる!」モリソンの応援は賑やかで大声だった。
玄関のポーチで夫の膝に頭を乗せながら、ロベルトはその様子を眺めていた。
「あの子、エージェンシーの試験のことをもう知っているのよ」とトロイが言った。「参加したいみたい」
「そう思うか?」とロベルトが尋ねた。
「だって、結局のところ義務でしょう?」と彼は答えた。
男は母親が子供に注ぐような、あるいは妻が夫に注ぐような穏やかさと忍耐強さで、ウルフウィズの髪を撫でていた。
「最近無理をしすぎよ、あなた」とトロイが言った。「どうしたの?」
「なんでもないよ、大丈夫だ」
「ロベルト・タイラー。私たち結婚して14年以上になるのよ。あなたに何かあったことくらい分かるわ」
ロベルトはディランが腕立て伏せから庭全体の持続的なジョギングへと移行する様子を見つめながら、しばらく目を細めた。
「ただ……ディランが心配なんだ。あの子はまだ子供だ。すべての重圧に耐えられるはずが……」
夫が自分の頬に KISS をしたことに気づき、ウルフウィズは数秒間動きを止めた。
「心配しないで、負担は分かち合いましょう。私はあなたの味方だってことを忘れないで」トロイは軽く微笑んだ。
「……まったく、君は僕に優しすぎるな」とロベルトは言った。
彼の頭の中には、ただひとつの考えが形作られていた——『ディランを守る』こと。
5
身体トレーニングの日が終わり、ディランは風呂に入った後、ベッドに崩れ落ちた。
足から狼の耳に至るまで、全身がボロボロだった。歩く気力すら残っていなかったので、父親にお願いして運んでもらったのだった。
「一番最悪なのは、本当に運んでくれたことだな」とディランは呟いた。
目を天井に向けると、まぶたが重く感じられ、視界が少しずつ消えていきそうに——
「起きろ小僧」とダリウスが言った。「言語のレッスンを始める時間だぞ」
「え?」とディランは口ごもった。
「聞いた通りだ。お前の母親に頼まれたんだよ。ほら取れ」男は部屋のテーブルの上に羊皮紙を一枚落とした。「そこに基本が書いてある。それを暗記して、何度も繰り返し書くんだ」
「——」ディランはダリウスをじっと見つめた。
本当にこの男を信用していいのだろうか? つまり、彼はダリウス叔父さんなのだ。この男とはひどい経験をした不吉な過去がある。
「早くしないと、ランプでお前の網膜を焼き切るぞ」ダリウスは真面目な顔で脅した。ランプを遠ざけたことでできた影が、彼を威圧的な姿に見せていた。
「今やるよ!」とディランは叫んだ。
素晴らしい、不信感を抱く理由がまた増えた。
ディランはダリウスから渡された羽ペンを握り、羊皮紙に書かれていることを一歩ずつ進め始めた。すべて普通の言語への翻訳付きだった。
ひと筆ごとに叔父からの応援や指摘が飛んできた。「向こうで文盲じゃなかったなら、こっちでもそうはならないだろ」「その線は間違ってる、もっとちゃんと書け!」「お前の字が俺の字より汚いと思ってたぜ」といった感じだった。
数時間後、ディランの手は徐々に慣れていった。もちろん、まだ理解できない部分は多かったが、少なくとも「こんにちは」の書き方は分かった。
それは完璧に機能していた。
[うわ、本当に……僕を助けてくれているんだ]
叔父が見せたことのない一面だった。どうやら彼はただの野生で機嫌の悪い猫のような存在で、結局のところ、最後には優しく可愛い一面を見せる性質なのかもしれなかった。
この助けがあれば日記を読むことができるし、リサやモーティにも普通に手紙を送ることができる。遠い存在に思えていた目標が……少なくともこれまでは。
少しずつ、ディランは「こんにちは」や「調子はどう?」といったフレーズを組み立て始めていた。もちろん、知識を吸収しつつあるその言語でだ。
ディランの頭脳は自分自身にとっても奇妙だった。本気を出せば、どんなことでもあっという間に習得することができ、まるでアンドロイドのようだった。
体も同様で、ひょろひょろとして弱そうに見えるものの、想像絶する頑丈さを備えているようだった。かつてディランは階段を20段も転がり落ちたことがあったが、深刻な怪我は一切負わなかった。
「母さんに知られなくてよかった……」
とりあえず、ここでやめておくのが良さそうだった。
……
「ねえ……ダリウス叔父さん。その、変に思われるかもしれないけど……本当に、ありがとう」
少年は引きつった笑顔を浮かべながら、頭に手を当てた。
「僕たち、仲が良くないのは分かってるけど……でも叔父さんのおかげで、前はできなかったことができるようになったよ。簡単なフレーズだけだけど、本当に感謝して——」
「スースー、ガアー、ふあぁ」鮮やかな赤い髪の男は、ベッドの上でいびきをかいて眠っていた。
少年は手に持っていた羽ペンを強く握りしめ、ポキリと折ってしまった。
6
走ってはジョギング、走ってはジョギング。それがディランの毎日の日課だった。
それといくつかの運動が、彼の身体トレーニングだった。
魔法の本格的なトレーニングは母親と一緒に行った。純粋な水の玉を使って石を倒すという課題だった。2日後に彼はそれを成功させたが、勝利を喜ぶ暇はなかった。母親から、2つの呪文(水の竜巻と闇の球)を暗記して練習するよう命じられたからだ。
それらに加え、夜にはダリウスとの勉強があり、ディランにとって唯一の休息は1日3回の食事の時だけだった。
勉強のために夜遅くまで起きていたからだ。
こうして何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……
「あー、もう……限界だ!」ディランは地面に崩れ落ちながら不平を漏らした。
右の頬に芝生の感触を覚え、草や青くさい匂いが鼻を満たした。
「すごく……疲れた……」
すでに3週間のトレーニングが経過しており、その間ディランは休みなくあらゆる能力を磨いてきたのだった。
「もう……無理だ……!」
彼はひっくり返り、眩しい日光を見上げた。イエス・キリストの降臨ではなく、ただの不快な眩しさだった。
「諦めるな愛しい孫よ! 試験への準備はまだ終わっておらんぞ!」モリソンが咎めた。
「でも……これ以上は無理だよ」とディランが言った。
「——」モリソンは少年の顔をじっと見つめた。「聞きなさい。昔、わしの学校で奨学金がもらえる大会があった。勝てたかもしれないんだが……」彼は一息置いた。「だが、わしは諦めることにした。その後、母親に酷くぶたれてな。その敗北を経て、わしは二度と怠けまいと心に決めたのだ。勤勉さを極限まで高めようとな」
老人は孫を引き起こすのを手伝った。
「無理をさせてすまなかったな。だが覚えておきなさい、我が愛しい孫よ」モリソンは指を1本立てた。「人の粘り強さというのは、諦めたいという気持ちほど強くはならん。それでもわしらは前者を選ばねばならんのだ。一方が他方より強かったとしても、正しい方に力を与えれば、素晴らしい未来が待っておるのだからな」
「……おじいちゃん……僕にお説教してくれたの?」とディランが問うた。
「ガハハハ! マーリンの末裔にしては平均より賢いな。わしが最後に会った奴は、わしに馬糞でも喰ってろと言ってきたぞ」
老人はディランの頭を撫でていた。ディランは不思議そうに祖父を見つめた。
「休んできなさい。お前にとって大切なことだ」
ディランは指示に従い、寝るために自分のベッドへ向かった。
♠︎——◆——♠︎
目が覚めた時、全身が痛んだ。すでに夕方になっていたので、残された仕事は勉強だけだった。彼がベッドから起きたのは、郵便部屋(リサに手紙を送った部屋をそう名付けていた)に行くためだけだった。
眠気眼で廊下を歩いていると、見落としていたことに気がついた。
1:おじいちゃんはすごく変わっている。
2:おじいちゃんはマーリンの末裔を知っていた!
だが正直、尋ねる気力はなかった。どうせ曖昧な説教で終わるのだろうから。
勤勉さは、七つの大罪である「怠惰」の対義語であり、すべての善きキリスト教徒が持つべき美徳だった。勤勉な人とは、怠けることができず、常に仕事か何かをして過ごさなければならない人のことだ。
少なくともディランにはそう思えた。
[おじいちゃんは、ただ勤勉さが固まったような存在なのかな?]
彼の思考と疑問は尽きないようだったが、郵便部屋に到着すると、自分のために置かれていた一通の手紙に目を奪われた。
ディランへ
差出人:リサ・メイルヘン
郵便番号:&#^$@&
少年は急いで黄色い封筒を開けた。そこにはエメラルドグリーンの文字で銘が刻まれていた。
郵便番号の記載部分をあまり傷つけないようにして、彼は紙に書かれた内容を読んだ。それは……英語で書かれていた。普通の英語で。
『はろー、ディランちゃん。リサだよ。疑問に思ってるかもしれないけど、そう、私はニウム世界のことばが分かるよ。まあ、書くことだけだけどね。とにかく、手紙が送れるようになって本当にうれしいよ!!! 試験のためにすごくがんばってトレーニングしてるんだろうね。会場で会えるのを楽しみにしてるよ。返事が遅くなってごめんね、すごく忙しかったの :(。とにかく、すぐに会えるといいな。:D
だいすきだよ:リサより』
「だいすきだよ(Te quiere)」という言葉にディランの心臓は跳ね上がり、目は皿のように見開かれ、狼の耳は折れ曲がり、尻尾が動き始めた。
短い手紙だったが……彼に宛てられた手紙なのだ!! ……なんて馬鹿げているんだろう。
[落ち着けディラン、ただの好きだ……友達としてね!!]と少年は思った。
でも……その手紙が彼をさらに元気づけたのかもしれない。
「よし、これで頑張るエネルギーが湧いてきたぞ!」とディランは言った。
7
滞在4週目にして、ディランはすべての能力を完璧に高めることができた(言語を除いて)。
今や、重い箱を出すのにためらう代わりに普通に持てるようになった……ただし箱2つだと死にそうになるが。
魔法に関しては、穴を見つけるのは難しくなかった。単に呪文に込める魔力の量を減らせば、扱いやすくなるのだ。
彼が気づいたもう一つのことは、呪文に注ぎ込む魔力が多ければ多いほど、その威力が増すということだった。
肌を刺すような冷たい風が吹く寒い夜、白く輝く月が、周囲で揺らめく青い光を照らし出していた。
「父さん、アナはいつ来るの?」とディランが尋ねた。
すでに2時間以上待っており、彼の指先はゆっくりと凍りつき始めていた。
「もうすぐだよ」とロベルトが言った。「ところで息子よ、本当にこれでいいのかい?」
「何が?」ディランには父親が何を言わんとしているのか理解できなかった。
「……なんでもないよ」ロベルトは微笑み、ディランの頭をぽんぽんと叩いた。「ただ……もし困ったことがあったら、僕を呼びなさい。いいかい?」
「——」
そして再び静寂がその場を支配した。ディランは人々が勝手に結論を出し、それを共有してくれないことに嫌気がさし始めていた。
「ディラン、お姉さんが着いたわよ!」
そして、あの不快な声が戻ってきた。
まあ、正直なところ、今はそれほど不快ではなかったが。
アナの叫び声は明らかに彼女自身のもので、緑色のウロコを持つ2頭の馬が引く馬車から身を乗り出し、ディランに手を振っていた。
学んだスキルを披露する時間はこれからいくらでもある。
[結局のところ、僕はマーリンの末裔なんだ。誰もが僕に注目するはずだよね?]
その最後の思考の後、ディランはアナを出迎えるために駆け出した。




