7:魔法の授業
王立学園の始業式から1週間ほど経過した日、マリーとリンカはお昼休みに食堂で昼食をとっていた。
「王立学園の食堂は種類が豊富でありがたいですね〜。東方の中華や、和食が食べられるのは私にとっても嬉しいです。マリー様の専属侍女でよかったです。役得役得〜」
(乙女ゲームのご都合主義というものかしら?なんにせよ、わたくしも和食が食べられるのはありがたいわ)
マリーが品のある所作で食べ物を口に運ぶのを眺めながら、リンカが口を開いた。
「読書感想文は担任に提出できなかったんでしたっけ?」
「そうね。手渡そうとしたら、そそくさとどこかに行かれたわ」
なぜか嬉しそうな様子のリンカ。
「ということは!あの年上先生に渡せばいいじゃないですか!話しかけるいい口実になりますよ!ちょうど午後は魔法の授業ですよね?」
「わたくしには婚約者がいると言っているでしょう?話しかける口実は一旦横に置いておくとして、魔法の授業の後に渡すのが確かに最善かしらね」
「それじゃ決まりですね!」
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魔法の授業は実技も含むために、屋外に設置されている演習場で行われる場合が多い。
今日もその演習場で行われることになっていた。
マリーが一年生向けの魔法の授業の会場にいくと、周りがヒソヒソと話し始め、それをみた
マリーは変に目立たないように壁の花になることにしたようだった。
しれっと、生徒の集団から少し離れたところに移動している。
2、3分後、この授業の担当であるあります先生も到着し、授業を始めようとしたところ、
「いっけーなーい!遅刻遅刻!」
という可愛らしい声とともに、ピンク色の髪をした女の子がマリーの真横を通り、駆け込んできた。
(・・・うわぁ。ゲームだとテンプレの登場シーンだと思ったけれど現実でみるとすごいわね)
逆に感心した様子のマリーとは異なり、あります先生は、しかめ面をしていた。
「ジャンヌ・ピュセル嬢、初回から遅刻とは感心しないであります」
「カーティス先生、すいません!道に迷ってしまって・・・!」
ジャンヌの顔は走ってきたからか少し火照っており、そのまま上目遣いでカーティスを見ていた。
「はぁ、新入生なのでしょうがないであります。ですが、次回から気をつけるであります」
「はぁい!先生、ありがとうございますっ!」
ぺこっと一礼すると、ジャンヌは生徒の集団の中に入って行こうとした。けれど、壁の花になっていたマリーの真横を通った時に、
「あれ?なんで悪役王女がこの授業にいるの?」
「えっ?」
ジャンヌが思わず呟いた独り言にマリーは目を見開く。
「あっ!こちらの話です!マリー様には関係ありません!」
「どうい「ジャンヌに嫌がらせをするのはやめてくれませんか?」
発言の意図を聞こうとしたマリーの前に、ジャンヌの幼馴染のテオが入ってきた。
「そういうつもりではなかったのだけれど」
「本当ですか?王女殿下の噂は僕たちも知っています。聖魔法の使い手であり、平民でありながら特待生に選ばれたジャンヌに良い印象をもっていないのではないですか?」
「そういうわけではないわよ」
「2人とも!あたしのために争わないでっ!」
(あたし?ゲームのヒロインは私と言ってなかった?いえ、今はそれどころじゃないわね)
「3人とも!そこまでにするであります!」
マリーがどう返事をしようかと考えていると、早く授業を始めたいカーティスが収集をつけることにしたようだった。
「ですが、先生。王女殿下がジャンヌをいじめていたんですよ?幼馴染としては見過ごせません」
「テオ君、自分も見てましたが、マリー嬢にそのような行為は一切なかったであります。君のそれはいいがかりであります。これ以上は授業の進行の妨害とみなすでありますよ?」
「・・・すいませんでした」
「わかればいいであります。それでは授業を始めるであります」
一波乱あるも、授業は滞りなく進んでいった。
「通常は7歳になると魔法の検査を行うであります。みなさんもすでに受けていると思うであります」
(さきほどのジャンヌの様子を見るとわたくしと同じ転生者である可能性が高いように思えるわね。もしくは彼女の身近に転生者がいるのかしら?)
「魔法属性は基本的に変わらないでありますが、魔力量は成長とともに増えるであります。みなさまもしっかりと鍛錬をつむであります」
(普通の乙女ゲームならどのルートに入るかによって、悪役のいく末も決まるのでしょうけれど、このゲームは革命からの断罪一直線なのよね・・・誰に興味があるの?と聞いても意味がなさそうね・・・)
「また、魔力量が多くてもしっかりと使いこなせなければ、自分や周りに被害を与える可能性があるであります。そうならないように、しっかりと、能力を使いこなす練習も必要であります。詠唱などでイメージを補完するなどの方法もありますが、まず本日は、」
(それに、わたくしにとってはもうゲームではなくて現実の認識だけれど、彼女も転生者だとしても、同じ認識であるかはわからないわよね。もしも、ゲームの中の気分でいるなら、悪役は断罪したいものじゃないかしら?話をしても、)
「マリー嬢!授業を聞いているでありますか!」
「あっ!申し訳ございません!」
「!?悪役王女が謝った!?」
マリーはカーティスに指摘されて「しまった!」と焦っており、ジャンヌが言ったことを聞き逃していた。
「ちょうどいいであります。マリー嬢、一番手をお願いするであります」
「一番手、ですか・・・?」
「・・・話を聞いていなかったことはわかったであります。向こうにあるマトを魔法で攻撃してほしいであります」
カーティスが指差し先には、30メートルほど離れた場所にマトが設置されていた。
「わかりましたわ」
「準備ができたらはじめて良いであります」
マリーは生徒の集団から少し離れていたので、マトの方に近づいた。
そして、指をパチン!と鳴らし、荊の棘の部分だけを空中に顕現させてマトに向かって発射した。
「カーティス先生、これでよろしいでしょうか?」
振り向いたマリーの後方には、すべてのマトが射抜かれた光景がある。
生徒はシーンとしていた。
荊の棘が刺さっている光景による恐怖もあるだろうが、それ以上に、
「マリー嬢、無詠唱が使えるでありますか?」
生徒と同様に驚いた表情をしていたカーティスが真っ先に再起動した。
「そうですわよ。何か不都合がありますか?」
「・・・ないであります。魔法のコントールも緻密であります。・・・明らかに授業で扱う領域を超えているであります。マリー嬢が2年生であることも考慮し、この授業の単位はもう出すであります」
「いいのですか?」
「他の学生とレベル差がありすぎるので、よいであります。それにしても、これが権力だけが取り柄の傲慢な荊の女王でありますか・・・?」
後半は独り言のようだったが、声に出ていたことに気づき、カーティスはまずい!というような表情をした。
「先生、わたくしは気にしていませんわ。それよりも授業を進めてくださる?」
「・・・わかったであります」
マリーがまた壁の花になるためにはじっこに移動していると、どこか意地が悪そうな女子生徒が手を挙げていた。
「先生!さきほど遅刻してきた平民も同じようにマト当ができるのではないですか?だって、特待生ですものね?」
最後の一言はジャンヌに向けられている。挑発されたジャンヌ本人は、ニヤッとして好戦的な表情をしていた。
「カーティス先生。ご指名いただけたようなので、次はあたしがやりますね」
「あっ、ジャンヌ嬢、」
「『光よ我が元に集いて槍の形をなさん』、ホーリーランス!」
カーティスが制止する前に、ジャンヌは聖魔法を発動した。
そして、マリーのようにすべてというわけではないが、ほとんどのマトに命中させている。
それをみた先ほどの女子生徒は下唇を噛み、悔しげな表情をしていた。
一方で、生徒全体は、キラキラと神聖な光の残滓が残っている光景を見て、テンションがあがっていた。
「先生、次はあたしが指名していいですか?サマエル様の魔法が見てみたいです!」
サマエルと呼ばれた金髪のイケメンが驚きつつも、前に出ていた。
「俺をご指名かな?」
「はいっ!」
「わかった。『金色の炎よ燃やし尽くせ』」
サマエルが手をふると、黄色の炎がマトに命中していた。
ジャンヌの聖魔法の光の残滓の中、金色にも見える黄色の炎も舞っている様子は、神秘的であり、美しかった。
その様子をみて生徒はさらに興奮し、「お似合いの2人!」などと持て囃してる。2人も照れたような顔をしているが、満更でもなさそうな雰囲気だった。
その様子を、離れたところからみている人物が2人いる。
1人はマリーで「いかにも乙女ゲーム、という感じだけれどこういうシーンはあったかしら?いずれにせよ、あの様子なら、ヒロインはメイン対象のサマエル狙いかしら?」と、
もう1人、先ほどの意地が悪そうな女子生徒は「あの女なによ!特待生だからとつけあがって!悪女に目をつけさせようとしたけど、あの悪女は気にしてなさそうじゃない!ムカつく!」と、それぞれ思っていた。
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授業が終わり、道具の整理をしているとカーティスはマリーに話しかけられた。
「カーティス先生、読書感想文を提出してもいいですか?」
「なぜ自分にでありますか?」
「担任の先生がどこかに行ってしまいまして・・・」
どこか困ったような表情を浮かべているマリーを見て、カーティスは代理で読書感想文を受け取ることにした。
パッと確認すると、受け取ったはいいが、問題があることに気づく。
「マリー嬢。ムノポリシリーズは、課題図書ではないであります」
「え?ですが、図書委員は、いえ、なんでもありませんわ。わたくしの確認不足で申し訳ございません。再度提出いたしますわ」
そう言いながらその場を去ったマリーの後ろ姿を、カーティスは見送りつつ、
「先ほどの様子から察するに、ムノポリシリーズは図書委員の誰かが選んだようですね。それを庇ったのでしょうか?授業で見せた魔法能力といい、本当に噂のような悪女なのでしょうか?教師である自分が噂を鵜呑みにしていた・・・?」
と思案顔になっている。周りに誰もいないからかわからないが、普段のあります口調ではなかった。




