8:読書仲間ができた
マリーは、あります先生ことカーティスからムノー・ポッリー略してムノポリは課題図書ではないことを伝えられてから、正しい課題図書を王宮の図書館で見つけていた。
しかし、課題図書自体はすでに再提出していたが、王立学園の図書室で借りていたムノポリを返していなかったことを思い出し、返却のためにリンカと一緒に学園の図書室に向かった。
「わたくしは本を返却してくるから、リンカは少し待っていてくれるかしら?」
「かしこまりました!」
謎に敬礼をしているリンカを廊下に残し、マリーは1人で図書室に入る。
今日が当番だったのか、図書室のスタッフの席にはレイチェルが座っていた。
「あっ、お、王女殿下。ご、ご機嫌麗しゅう?」
「ごきげんよう、レイチェルさん。それほど畏まらなくてもいいわよ?」
「で、ですが、王女殿下ですし・・・」
「そのうち慣れてくれるでしょう」と思い、マリーは用件に移った。
「レイチェルさん、この前借りたムノー・ポッリーと愚者の石を返却したいのだけれど」
「あっはい!こちらの返却表にサインをお願いできますか?」
マリーが返却表にサインを書いていると、
「あ、あの、王女殿下、ムノポリの愚者の石はどうでしたか?」
レイチェルは不安そうな雰囲気をしている。けれど、もしも、マリーが課題図書を探していたにも関わらず違うものを進めていたと認識していたら、もっと恐縮しているだろう。
それどこから「不敬罪ですか!?荊で叩くなら私だけにしてください・・・」と言っている可能性が高い。
それがないため、純粋に自分が勧めた本の感想が気になっているだけである可能性が高い。
マリーもその考えに至り、純粋に感想を伝えることにしたようだった。
「えっとそうね、愚者の金をモチーフにしていて、興味深かったわ。見た目は金とかなり似ている鉱石を、見た目だけで金であると判断して大失敗している部分は教訓にもなるわね」
「そ、そうですよね」
「ええ、そうね」
「「・・・・」」
2人の間に沈黙が訪れた。
マリーは、「硬すぎる回答だったかしら?娯楽小説の感想のようなものの方がよかったかしら?」と思い、改めて感想を伝えた。
「主人公の少年が、魔法世界を冒険する様子は躍動感があったわ。魔法生物もかわいい表現のものも多かったですし、植生などもしっかり書かれていて、緻密に作りこまれた世界観が伝わってきたわね。読んでいてワクワクしている感じもあって、童心に帰ったかのような気持ちになれたわ。レイチェルさん、薦めてくれたありがとう」
「これならどうかしら?」と思いながらレイチェルを見ると、勢いよく顔があがった。いままでボサボサの髪に隠れていた顔もはっきりと見える。
「あれ?この子、顔立ちが綺麗ね。おそらく美人なのに勿体無いわね」とマリーが見当違いな考えがよぎったところで、
「そうですよね!この作者の魔法世界はとてもワクワクしますよね!一緒に冒険している気分になったり、色々な動植物が出てきて、次は何が出てくるんだろう、という気持ちにさせられます!本の世界に入り込んだかのように感じる素晴らしい作品です。それでいて、反面教師的な意味合いもしっかりと組み込まれていて、」
突然勢いよく話し始めたレイチェルを見てマリーは思った。
「あっ、この子。好きな物の話になると饒舌になるタイプだ」と。
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しばらくして、我に返り、顔が赤くなっているレイチェルがいた。
「い、いきなりすいません・・・。私、学校であまり本のことを話せる相手がいなくて・・・図書委員の中にも友達がいないんです・・・」
「気にしなくていいわよ。わたくしなんて、話し相手すらいないですから」
マリーは軽い冗談のつもりだったが、レイチェルは「あっ」と言いながら、目線があっちにいったりこっちに行ったりしている。
フォローすればいいのか、つっこめばいいのか、不敬罪にならないか、色々な考えがよぎり、動揺しているようだった。
リンカだったら普通に切り返してくるが、相手はリンカではない。マリーはいつも同じ相手としか話していなかったことを思い出した。
「冗談よ。気にしないで」
「は、はい・・・」
再び2人の間に沈黙が降りそうになるも、マリーが会話を続けた。
「続きは借りられるかしら?」
「はい?」
「ムノポリの2巻、確か、上部だけの部屋だったかしら?在庫があれば借りたいのだけれど」
「あっはい!あったと思います少々お待ちください!」
レイチェルはそう言い、勢いよくカウンターから立ち上がると、勢いよく走り、いや、トテトテ小走りで本をとって戻ってきた。
「ど、どうぞ!」
「ありがとう。貸出表にサインをすればいいかしら?」
「は、はい!」
サインをして本を受け取る。
そのまま図書室から出ようとすると、後ろから声をかけられた。
「お、王女殿下!」
「どうしたの?貸出に不備があったかしら?」
「ち、違います。あ、あの、また本のお話をしてもいいですか?・・・あっ、でも私なんかが王女殿下に不敬ですよね。い、今のは無しでお願いします・・・」
「いえ、なしにしなくていいわよ。楽しみにしているわね」
マリーはそのままドアから出ようとしたが、何か思い出したようにレイチェルに振り返った。
「あの、一応確認なのだけれど、封印されし左腕が疼くとか、ちょっとムチが好き、とかはあるかしら?」
「えっ?封印?ムチ?なんのことですか・・・?」
「そう!なんでもないわ!またお話ししましょう!」
そう言い残し、マリーは今度こそ図書室のドアを開き、外に出た。
すると、廊下の少し離れたところで待っていたリンカが、どこかニヤニヤしながら、
「何かいいことでもあったんですか?」
「読書仲間、と言っていいのかしら?わたくしにもついに真っ当な知り合いができたかもしれないのよ」
「その言い方だと、私は真っ当ではないみたいじゃないですか」
「今日は左目が疼かないのかしら?」
「左目ではなくて、背中に気配を感じました」
「はいはい」
「今回は、選ばれし者の下に訪れると言われる至高の存在かしら?」と思っていたマリーとは反対に、リンカの表情が真面目なものになり、十数メートル離れている、廊下の突き当たりの角の方を見た。
「あの、もう一つ聞いていいですか?」
「いいけれど、スリーサイズなら答えないわよ」
「違いますよ。私の印象どうなっているんですか。そもそもある程度なら知っています。着替えも入浴も手伝う専属侍女ですよ」
手で胸を隠すような仕草をしつつ無言でジト目を向けるマリーに、真面目モードのリンカが
「実戦経験のある人物に学園内で狙われる心当たりはありますか?」
「・・・ないわね。誰かいたの?」
リンカはまた廊下の角の方を見てから、
「うーん、気のせいだったかもしれません。それに、数年前と違って殺意のある刺客って感じでは・・・」
「数年前?刺客?」
「あっいえいえ!気を取り直して早く王宮に戻りましょうか。その大事そうにもっている本を早く読みたいんですよね?」
「そ、そういうのではないわよ!」
殺意のある刺客のことを、いつものリンカのあれだと考えたマリーは深く考えずに王宮に戻ることにした。
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マリーとリンカが図書室を去ってから約30分後、図書室に来客があった。
「こんにちはであります」
「は、はい。えーと、」
「教員のカーティス・スウィフトであります」
「あっ、はい。あの、どのようなご用件ですか?」
「以前借りた本を返しているか思い出せず、確認にきたであります。返却票を見てもいいでありますか?」
「あっはいどうぞ!」
レイチェルから返却票を受け取り、ペラペラとめくっている。
「自分の杞憂だったであります。返却していたであります」
「そ、そうでしたか」
「ところで、マリー王女殿下の名前もあるであります。王女殿下でも読書を嗜まれるでありますね」
「あっ、そうです。ちょうど先ほどもいらっしゃっていました」
「そうだったでありますか。最近、王女殿下はムノポリにハマっているようでありますね。授業の後、自分にも教えてくれたであります」
「ハマっていらっしゃるんですか!おすすめした甲斐がありました!」
カーティスは、この図書委員がマリーにムノポリを薦めていたとわかった。すすめてよかったと嬉しそうにしている様子から、先ほどマリーが来た時に課題図書ではなかったことを責められた様子もない。
「マリー嬢は噂のような悪女ではない、のではないでしょうか」と思いながら、カーティスは図書室を後にした。




