6:再会
マリーは、従者棟で遊んで、いや、待機していたリンカと合流し、読書感想文のための課題図書を探しに図書室に向かっていた。
「それで、お目当ての年上先生と2人きりでおしゃべりが出来たんですか?良かったですね〜」
「お目当てではないわよ。そもそも、必要事項の伝達を受けただけだから誤解を招く言い方はやめなさい。わたくしには一応、婚約者がいるのよ」
「あっ、”アレ”ですか」
「言い方はともかく、その人物よ」
「マリー様も大変ですね。税金泥棒の公害と婚約なんて。でも”アレ”は一歳年上ですよね?」
「一歳は誤差よ。わたくしはもう少し年上が、って何を言わせるのよ」
「まぁまぁいいじゃないですか。おっと、そろそろ図書室ですね。初めてきますけど、従者は中には入れないんでしたっけ?」
「ええ、確か生徒本人だけね。不便な制度よね」
「そうですか?マリー様には私しかいないですけど、ご令嬢の中には従者を何人も侍らせている人もいるんじゃないですか?全員入れたら、本来使うべき生徒が使えないですよ。私は妥当だと思います」
「そう?あなたが気にしないならいいのだけど・・・」
「気にしないので、ちゃっちゃと借りてきてください!」
マリーは図書室の入り口のドアを開き、中に入った。
王宮の図書室はたびたび使っていたが、王立学園の図書室は初めてだった。
しかし、本が大量に保管されている場所特有の匂いなどは共通している。
「何がどこにあるかわからないわね・・・」
入り口付近のカウンターに座っていた図書館司書に質問をしようとしたら、さっと目を逸らされた。
「自力で探しますか・・・」
天井から吊るされた案内板をもとに、課題図書がありそうなカテゴリーを探している。
今世では国政のフォローであまり本を読めていなかったが、前世ではよく本を読んでいたマリーの様子は、どこか懐かしそうでもあり、楽しげでもあった。
「お、王女殿下!?どうされたんですか!?」
本を探しながら歩き回っていると、マリーに話しかける声が聞こえた。
しかし、一日中学園内で避けられまくっていたからか、思わず確認をしている。
「あなたは今、わたくしに話しかけているのかしら?」
「は、はい。あっ!身分が下の者から上の方に話しかけてはいけなかったですね!私なんかが声をかけてしまって申し訳ございません!私はどうなってもいいので、妹には罰を与えないでください・・・!不敬罪は私だけにしてください・・・!!荊で叩くなら私だけにしてください!」
マリーが改めて声の主を見ると、透明感のある銀髪をした女の子がすごい勢いで頭を下げている。髪がボサボサしてよく顔が見えないけれど、その見た目には見覚えがあった。
「・・・そんなことはしないから安心なさい。それと学園の中では身分は関係ないはずよ。顔をあげてちょうだい」
「か、寛大なお心に感謝いたします。こ、このご恩は一生忘れません・・・!」
「大袈裟よ・・・。ところでお名前は?」
「わ、私の名前は、レ、レイチェルです。王女殿下と同じ2年生です。でも、その辺の子爵家の娘で、ミジンコみたいな私のことは覚えていらっしゃらなくて当然ですよね・・・」
「ち、違うわ!わたくしはあまり学園にこれてなかったから、そもそも誰がいるのかわからないのよ。それより!レイチェルさんはわたくしに何か用?この前の女の子よね?」
目の前でどんどん縮こまっていくレイチェルを見て、焦ったマリーは話題を変えることにした。
「は、はい。その節は助けていただき大変ありがとうございました。家に帰ってから妹に話をしたら、『おねーちゃんの恥晒し!しっかりお礼をいいなさい!』と言われてしまって、でも私なんかが王女殿下に会いに行くわけにもいかず、途方にくれていました・・・」
この前言っていたリリーというのは妹かしら?と思いながらも、どこか頼りなさそうな雰囲気をしているこのお姉さんに意識を戻した。
「パワフルな妹さんね。お礼の言葉も受け取りますね」
そして、マリーは親しみを込めて微笑んだ。
「ひぃっ!お礼をします!言葉だけなく、お礼はちゃんとしますので!図書館にいらっしゃるということは、何か用事があるのですよね!?私は図書委員なので、何かお役に立てると思います!」
しかし、本人的には優しく微笑んだつもりが、逆効果になった。
「・・・課題図書を探がしているのだけど、何かお薦めはある?お堅い本よりも、少し気楽に読める本がいいわ」
「気楽に読める本のお薦めですね!ご命令いただいた本はあちらにございます。僭越ながらご案内させていただきます・・・!」
レイチェルはこの時、動揺していた。そのため、”課題図書を探している”という部分を聞き逃していた。
一方マリーも、「わたくしの微笑みはそんなに怖いのかしら?」と別のことを考えており、重要な部分が伝わっていないことに気付いていなかった。
レイチェルは、数メール歩いたところにある本棚の前で立ち止まった。
「こ、こちらでございます!ムノー・ポッリーシリーズです。略してムノポリです。反面教師としての役割を念頭に書かれた児童書ではありますが、内容や世界観がしっかりしていて、大人でも楽しめます。全世界でベストセラーにもなっています」
マリーが見た本の表紙には、額に傷のある少年が描かれている。
「えっ?これは色々と大丈夫かしら?」
「申し訳ございません!私は大丈夫ではないものを薦めてしまったかもしれません!不敬罪ですか!?不敬罪ですね!?」
「あっごめんなさい。こちらの話なの。この本そのものにはなんの問題はないわ。もちろん不敬罪でもないわよ」
「寛大なお心に感謝いたします・・・!でももし荊で叩きたくなったら私だけにしてください・・・どうか妹だけは・・・」
「ごほん!シリーズものとのことですけれど、何巻まであるのですか?」
すぐに不敬罪に行き着くレイチェルを前に、強制的に話題を変えたようだ。
「はい!7巻です!1巻から順番に、愚者の石、上部だけの部屋、セントヘレンの囚人、光のゴブレット、狼オジサンの騎士団、謎の脚本家、無能の秘宝です!」
(本当に色々と大丈夫かしら?ベストセラーになっているのだったら、ゲーム内資料に全部目を通していれば、どこかに記載があったのでしょう。ゲームの制作会社さん、結構攻めてますね)
「・・・わかりました。まずは、1巻を借りますね」
「我らが王女殿下の仰せのままに!」
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「リンカ、待たせたわね」
本の貸出手続きを終えたマリーは、図書室から出てきた。
「マリー様。おかえりなさい。この前の女の子に再会したんですか?」
「ええ、そうだけど、なんでわかったの?」
「声が廊下まで聞こえてました」
「そうだったのね。今度から気をつけるわ」
リンカは少し言いにくそうにしながらも、
「マリー様、もう手遅れかもしれません」
「どういうことかしら?」
「たまたまここを通りがかった生徒が、『私はどうなってもいいので、妹には罰を与えないでください・・・!不敬罪は私だけにしてください・・・!!荊で叩くなら私だけにしてください・・・!』という部分をピンポイントで聞いてました」
「・・・本当に?」
「本当に、です。それで、『荊の女王が、ひとけのない図書室で他の生徒を脅している』とか『いじめている』と認識していました」
「・・・本当に?」
「本当に、です。一応私がフォローしたんですけど、焼石に水でした・・・力不足で申し訳ございません」
「・・・あなたのせいではないわ」
「それにしても、こうやって荊の女王が出来上がっていったんですね」
この後、綺麗な夕焼けの中、少し肩を落とした主従が王宮に帰っていくのが目撃された。




