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3:王都散策

オルレアン王国の王都シャンゼの表通りはハイブランドの店が並び、おしゃれなカフェがところどころに存在している。

街路樹も植えられ、道も整備されており、花の都と呼ばれるに相応しく花々も咲いている。街の随所から、美しい景観を保つためにリソースや人員が投入されていることも見てとれる。


王都で一番栄えているその通りを、二人組の女子が歩いていた。

1人は大人顔負けのプロポーションをしているようだが、それが目立たないような服装をしていて、帽子を被ることで赤髪も隠している。

もう1人は、黒髪黒目の小柄な少女で、普段の侍女服とは違い、町娘風の格好をしている。


「リンカ、あなたって普通にしていれば可愛らしい美少女ね」

「普通にしていれば、ってなんですか!私はいつも普通ですよ!それにマリーさんには言われたくないです!情報収集をしようとしたらみんな怖がって話ができなかったら、実際に街に出ることにしたんじゃないですか!」

「・・・ご丁寧に説明してくれてありがとう」

(なぜかわたくしが近づいただけで、王宮の侍女や執事や使用人が逃げていったのよね・・・改めて現状を聞きたかっただけなのに・・・)


「でも、今世の記憶も持ってるんですよね?わざわざ街に来る必要があったんですか?」

「わたくしは我が家と学園以外では外に出たことがほとんどないのよ。だから、王都シャンゼが花の都と呼ばれていることなど、書物などで得た情報しかないの。生きた情報がほしかったのだけれど、人から聞けないなら自分の目で見るしかないじゃない?」

「そういうものですか?」

「そういうものよ」


今回はお忍びであるため、マリーは王女や王宮という単語を口にするのを避け、リンカもマリーのことはマリー様と呼ばずに、さんづけで呼んでいる。本名を使ってるのは堂々としているほうが逆にバレないだろう、という考えからだった。


軽口を叩きながらもマリーは街並みを観察していた。


(ゲームの中では見たことがあるけれど、ここが王都の目抜通りね。人の往来も多いし、商いも活発に行われている。治安も良さそうに見えるのに、これから革命が起こるのかしら?)


真面目な雰囲気を醸し出しているマリーをみて、リンカの口元がニヤッとした。


「マリーさん、せっかくなので楽しみましょう!そんなに肩肘張ってると、肩が凝っちゃいますよ。揉んであげますね」


そういいながらリンカは、マリーの肩を、ではなくて肩から少し下にある2つの山を揉みだした。


「うわ!なにこれすご。ほんとに16歳ですか?あっでも今度17歳ですね。それなら、っと危ないですよ」

「『危ないですよ』じゃないわ。いりきなり揉まれたら誰でも振り払うわよ。急になによ」

「マリーさんのおうちでこんなことできないので、今がチャンスだと思いました」


てへっ、みたいな擬音がしそうな仕草をするリンカに対して、目を細めるマリー。

ゲームでは悪役王女として君臨するので、その様子には迫力がある。


「その悪さをする手を荊で拘束するわよ?」

「すいません!冗談です!」


勢いよく頭を下げるリンカをみて、マリーは目立ってしまうことを警戒した。

お忍びで出かける前に護衛を手配しようとしたところ、怖がられているためか、王宮の現場の騎士や現場の警察部隊に断られてしまっていた。

サック・ラダモン公爵経由であれば警察部隊は動かせたかもしれないが、裏切るかもしれない相手に頼らないほうがいいと判断していた。

そのため、専属侍女でもあり、護衛でもあるリンカ1人しか今はそばにいない。リンカは、こう見えて魔法も使えるし戦闘能力も高い。けれど、不用意に目立つのは避けたほうがいい。


「・・・まぁいいでしょう。それより、この辺りは治安がいいように見えるわ。革命を起こすほどの種火があるとは思えないのだけれど・・・」

「この辺りは、貴族街に近いですし、市民街でも裕福な商人たちが住むエリアの真横ですから、治安はいいです。いわゆる、上流階級向けの場所ですね」

「・・・そうなると、別のエリアを見たほうが良いということね。ここから離れた場所で、一般市民が多い場所はある?」


リンカは少し迷ってから、


「あるにはありますけど、本当に行くんですか?」

「行きます」

「・・・わかりました。でも貧民街はダメですよ」


マリーは、リンカの実感の籠ったような言葉に同意し、貧民街は候補から外した。そして、中流階級が中心だけど、下流階級も混ざっている場所に行くことになった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


2人は目抜き通りを離れ、一度乗り合い馬車に乗る。


馬車が進むにつれ、徐々に街並みが変わってくる。


「先ほどまでの場所はしっかりと整備が行き届いていたけれど、この辺りは建物や道路の損傷がそのままになっている箇所があるわね」

「そうですね。そこまで回せるお金がありませんから」

「それに、出店もあるけれど、野菜や果物の中には傷み始めているものも混ざっていそうね」

(日本では、スーパーマーケットに行けば新鮮な野菜と果物が揃っていた。文明レベルが違うから現代日本の水準は無理だとしても、同じ国内でも格差が目に見えているわね。中流階級のエリアでこれなら、貧民街ではもっとひどいのでしょう)


マリーが考え込んでいると、馬車の外から怒鳴り声が聞こえた。


「お前貴族だろう!」

「ち、ち、違います!」

「嘘をつくな!さっき向こうでお綺麗な馬車から降りるのを見たぞ!」

「み、み、見間違いです!


マリーが声のする方を見ると、路地の手前で、透明感のある銀髪をした女の子がいかにも荒くれ者というふうていの男たちに囲まれていた。


それをみたマリーは思わず、

「御者さん!わたくしはここで降りますわ!」

と叫び、御者の返事も待たずにドアを開けて、走っている馬車から飛び降りた。


「ちょっと!お嬢さん!?」

と驚いている御者に、


「ああもう!御者さん!あの人、魔法使いです!身体強化魔法も使えるのでこれくらい大丈夫です!馬車を急停止するほうが危ないので、少し先で止めてもらえますか?」

と、同じく驚きながらもリンカがフォローしている。



その間に、マリーは女の子と荒くれ者に近付いていた。


「裸の王様の犬が!」

「王族と一緒に湯水のごとく税金を使ってるんだろう!その皺寄せが俺ら国民に来てるんだ!」

「貴族だからってそれだけで偉いのか!?ああ!?どうなんだ!?」


そして、ヒートアップしていた荒くれ者の前にたち塞がり、女の子を背中に守る形になった。


「あんたたちやめなさい」

「誰だお前は?」

「それは今関係ないわ。この子から離れなさい」

「ははーん!このお貴族様のボディーガードってやつか!ちょうどいい!お前ら!やっちまおうぜ!」

「「「ああ!!目にもの見せてやる!」」」


「はぁ・・・。弱いものいじめは好きじゃないのだけれど・・・」


マリーが指をパチン!と鳴らすと、地面から荊が出てきて、荒くれ者たちの足に絡みついた。


「「「ぐへっ」」」


荊に足を取られた荒くれ者たちは、情けない声とともに転び、マリーは彼らを見下ろしながら、


「この子から離れなさい。いいわね?」


荒くれ者たちは実力差を痛感したようで、無言でコクコクとうなづいている。


「荊を解除してあげるから、この場から去りなさい」



荒くれ者たちがその場から去ったのを確認したマリーは少女の方を振り向いた。

急いで来たからか、帽子が落ちており、その赤髪が目立っている。


「あなた大丈夫?見たところわたくしと同じくらいの年齢かしら?」


一方、助けられはずの女の子は、先ほど以上にガタガタ震えていた。

髪がボサボサして顔がよく見えないが、明らかに怯えている。


「その魔法でその赤髪・・・しかもその美貌・・・お、お、お、おうj」


王女殿下と言いそうになった女の子の目には、いつの間にか王女の後ろに立ち、唇に人差し指を当てている黒髪黒目の少女が写った。

これにより、女の子は、目の前の人物がお忍びでこの場にいることを察した。


「誰にも言いません!誰にも言いませんから!王立学園でも言いませんから!見逃してください!荊はいやです!不養生な引きこもりなので食べてもおいしくないです!!!リリー!助けてー!!!」


「あっちょっと!」

泣きながら走り出した女の子を見て、マリーが呆然としていると、


「あの方は学生のようでしたね。リリーって誰ですか?」

「わたくしが聞きたいわ。学園にはあまり行けていなかったのよ」

「行ったらどうですか?確かそろそろ夏休みが終わって新年度ですよね?慣れて貰えば、怖がられないんじゃないですか?」


無言になってしまったマリーを見て、リンカがフォローしだした。


「いや、でも、さっきのはいきなりだったからかもしれませんし!それほど怖くなかったですよ!むしろ惚れちゃうかも!」

「・・・そっちではないわ。あの荒くれ者が言ったことを考えていたの。『裸の王様』、『王族と一緒に湯水のごとく税金を使ってるんだろう!』ですって」

「あっそっちですか。・・・誰か様がフォローしているとはいえ、正直なところ、今の王国は、無能の無能による無能のための国政ごっこですからね」

「・・・そうよね。フォローだけじゃなくて、税金の無駄遣いをきちんと調べることにしましょう。監査もしていないのでしょうし、革命以前の話で、なんとかしないといけないわね」

「革命に関しては私が守りますよ」

「・・・リンカは強いけれどできないこともあるわ。それに、わたくしだけ守られても意味がないのよ。革命が起これば国が荒れる。それを避けるのが王ぞ」

「ごほん!」

「とある一家に生まれた、わたくしの責任ですわ」

「そうですね。それと、しっかりと護衛に守られる、というのも責任ですよ?」


リンカが言わんとすることがわかったマリーは思わず目を逸らした。

しかし、リンカから、護衛を置き去りにして、荒くれ者の前に躍り出たことをについて、王宮までの帰りの道のりで小言を言われることになった。


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