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2:専属侍女

マリー・ゴールドスタインは、少々特殊な喜びを感じるタイプの執事と別れ、王宮にある自室に戻った。

マリーの自室は、気品を備えつつも決して派手すぎない品々で整えられている。

少なくとも、この部屋の内装を見れば、税金を無駄遣いし国を傾かせる悪女のイメージは湧かないような雰囲気だ。


そして、当の本人は、上着を脱ぐなりベッドにダイブをした。


「ベッドがフカフカなのはありがたいわ。それにしても、あの使用人、いきなりインパクトが強いわね」


「これからどうしましょうか」と呟きながらマリーが天井を見上げていると、ドアがノックされた。


「入ってきて構わないわよ」

「マリー様。お食事をお持ちしました」


メイド服を着た、黒髪黒目の小柄な少女がトレイをもってマリーの部屋に入ってくる。


「リンカだったわよね?」

「そうですよ。専属侍女の名前を忘れてしまったのですか?ひどいです。ぐすん」

「ち、違います!事故に遭ったので、あくまで確認です!」


少し焦った様子のマリーを見て、リンカはニヤッとした。


「わかってますよ。マリー様、それよりお夕食です。ポトフ、お好きでしたよね?」

「それならいいわ。ポトフは好きよ、ありがとう」

「喜んでいただけたようでなによりです。あちらのテーブルにセットしますので、その間にお召し物を整えてください。年齢のわりに発育のいい、その抜群のプロポーションが顕になっていて、はしたないです」

「はしたないですって!?」


マリーは近くに置かれていた姿鏡に向かいあい、改めて自分の姿をみた。


「赤いロングヘアーで毛先の方はウェーブになってる。ちょっと目つきはきついけど、かなりの美女よね。確かにスタイルはいいけど、そんなにはしたないかしら」と呟きながらも服装を整えはじめた。


「そういえば、今日はあの変態執事と会う予定でしたよね?大丈夫でした?マリー様は事故の直後だから自重しなさい、とは伝えておいたのですが・・・」

「執事?変態とは会ったけど、使用人ではなくて?」

「執事ですよ?」


少しだけ間が開いた後、


「あー。そういえば、『この使用人風情が!』と言って以来、『使用人と呼んでください』ってお願いされてたわね」

「そうですそうです。”ご褒美”の時にハマったみたいです」

「”ご褒美”・・・」

「まぁいつものことですけどね。それより、ご夕食の準備も整いましたよ。今まで通り私も一緒でいいんですか?」

「もちろん。そのために自室でご飯を食べるようにしたはずよ」

「侍女と同じテーブルに座るなんて、変わったご主人様ですね。それでは、お席についてください」


リンカに促されて、マリーはテーブルについた。


「いただきます」

「いただきます?」

「あっ!」


困惑しているリンカを見たマリーは、「いただきます」は日本の文化か、と思い至った。


けれど、すぐに思考を切り替え、逆にこれはチャンスだ。と考えた。

革命を防ぐには協力者がいたほうがいい。この専属侍女なら信用できると直感が告げている。


「リンカ、驚かずに聞いてもらいたいのだけど、一昨日の事故の影響で前世の記憶を思いだしたのよ。”いただきます”はわたくしの前世の国の文化ね」

「前世の記憶・・・」

「ええそうよ。信じられないかもしれないけれど、」

「かっこいい!!」

「はい?」


マリーの目の前には、フォークとスプーンを手に持ちつつも、目をキラキラさせた専属侍女がいた。


「前世の記憶!かっこいいじゃないですか!どんな前世ですか!?古の大魔法を行使するんですか?危険すぎて歴史に葬り去られたロストテクノロジーを復活させるんですか!?」

「いえ、おちつい」

「それとも、魔界ですか!?神界ですか!?悪魔と戦ったり、神様に下剋上したり!?私も左目が疼く時があるんですよ!こんな身近にお仲間がいたなんて!」

「ちょっと、おちつ」

「なんで今まで言ってくれなかったんですか!私とマリー様の仲じゃないですか!水臭いですよ!私も設定を真似してもいいですか!?」


”設定”って言ってるし・・・。と思いながらもマリーは、専属侍女が落ち着くのを待ってから説明をすることにした。




その後、だいたい30分ほど経過し。


「というわけで、この世界はわたくしが知っているゲームの世界に酷似しているのよ。魔法が存在していることは個人的には嬉しいとはいえ、ゲームのエンジョイ勢だったからさすがに思い出せてないことも多いけれど、少なくともこのオルレアン王国ではいずれ革命が起きて、わたくしは悪役王女として断罪されるわ。それを防ぎたいから協力してもらえないかしら?」

「革命!実際には起こらなそうなことほど、ロマンがありますよね!」

「ロマン」

「わかりました!お手伝いします!私も魔法で戦えますし、というか私が深淵の使者だったのも、きっとこのためだったんですね!」

「深淵の使者」

「はい!」

「あの、リンカ、あなたって15歳だったわよね?」

「そうですよ!マリー様の一歳下の15歳です!急にどうしたんですか?」

「そうよね。それならしょうがないわよね・・・」


マリーが遠い目をしていることはお構いなしに、リンカはキラキラした目のまま質問をした。


「マリー様の前世は40〜50代なんですか?」

「違うわよ」

「でも、夫がポンコツ官で口先だけ”オジサン”なんですよね?」

「あっ、そのことね。いわゆる年の差婚だったのよ」

「年の差婚?」

「ええ、年齢差がある結婚のこと。この世界でも、貴族間の婚姻は年の差があっても不思議じゃないでしょう?」

「なるほど!マリー様は年上好きなんですね。それを反映させた、と」


「反映させた、か・・・」と思いながらもマリーは話を合わせることにした。


「え、ええ。そうなのよ。それで、まだちょっと記憶が曖昧なところがあって確認させてもらいたいのだけど」

「記憶喪失設定!!!」


「記憶喪失設定・・・。変態執事の次は、中二病の専属侍女か・・・」と思いながらも、マリーは頑張って話を進めることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーー


マリーが夕食を終えたあと、王宮の調理場には、どこか機嫌が良さそうな侍女が1人いて、2人分の食器を洗っている。

その侍女に、別の侍女が話しかけていた。


「王女殿下のご様子はどうでしたか?事故からお目覚めになってから初めての本格的なお食事ですよね。『こんなもの食べられないわ。使用人が食べるものでしょう?』とは言われませんでした?」

「マリー様は元からそんなこと言いませんよ!みんな怖がりすぎです。噂が先行しているだけです。それと、事故の後の様子ですけど、今はしっかりと”お目覚め”になられてますよ」


どこか機嫌が良さそうな侍女は、”お目覚め”になられてますを強調していた。


それを聞いた周りの侍女はというと、「悪辣非道の稀代の悪女が目覚めた!?」「荊の悪魔がついに目覚めた!?」「このままだと、”この街はわたくしの養分事件”の再来!?せめて王宮の花々は守りましょう!」と口々に話し、戦々恐々としていた。


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