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4:婚約者と義父

ペチン!


マリーがお忍びで王都の市街地に出かけた翌日。

王宮のとある部屋では、ムチが何かを叩く良い音がしていた。


「この!豚野郎!」


ペチン!


「あふん」

「国の権力にすがって口先だけで吠えるだけの無能なポンコツが!ドヤ顔していばりちらしているんじゃないわよ!!!」


ペチン!


「あふん!」


「お前の無能のせいで!!!一般人にどれだけの被害がでてるのか理解しているのかしらっ!?」


ペチン!!


「あふん!いいです!いいです!これですこれ!」


そのとき、部屋のドアが開き、1人の侍女が入ってきた。

なぜか自らの両手両足をストッキングで縛りしながら床に寝っ転がっている男性のことを一瞥してから、その侍女は、ムチをもっている美女に話しかけた。


「マリー様」


「リンカ!良くきてくれたわ!」

「リンカ!今良いところなのです!いくらあなたでも邪魔をしないでいただきたい!」


ムチをもっていた美女、つまり、マリーは援軍がきたかのような嬉しそうな顔をしている。一方、床に寝っ転がっていた変態執事は恨めしい目線をリンカに向けていた。


第三者が見たら、どう見てもカオスな状況に突っ込みも入れず、リンカは早速用件を告げた。


「マリー様、”アレ”がきました。アポイントもないので、追い返しますか?」

「・・・いえ、会いましょう」

「本当に会うんですか?だって”アレ”ですよ?」

「わたくしの婚約者ですからね。会わないとまずいでしょう。レッカ様はお一人?彼の父君もご一緒かしら?」

「はい、ボナハルト伯爵もいらっしゃっております。合わせてお二人です」

「わかったわ。着替えを手伝ってちょうだい」


そして、マリーは部屋から出る直前、物欲しそうな目をしている変態執事に気付いた。


「・・・このグズでノロマが!お前は身内用ではなく”外来客用”の応接室を準備しなさい!」


ペチン!


「はいっ!!!喜んで!!」


嬉しそうな笑みをしている執事とは裏腹に、マリーは遠くを見つめる目をしていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


「ボナハルト伯爵、レッカ様。お待たせして申し訳ございません」


動きやすいドレスに着替えたマリーが、王宮の応接室でカーテシーをした。

変態執事は変態だが有能であるようで、急な来客にも関わらず応接室は、あえて避けたのかはわからないが、飲食物を除けば、完璧に準備されていた。彼は一度下がっており、代わりにリンカがマリーの後方に控えている。


「また、このような軽装で失礼致します。事前に伝えていただければ、しっかりとおもてなしのご準備を整えたのですが・・・」


「お前は我の娘だ。父親が娘に会いにきただけだ。気を遣うな」

「そうだ。マリーは気をつかうな」


マリーの後ろに控えていたリンカは「親しき中にも礼儀あり、でしょう?そもそも、王族相手にアポ無しでくるなんて・・・。もしかして、今非難されたことも理解していない?」と思っているが、主人であるマリーは、表情を変えずに、


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」

「我は娘の見舞いにきただけだ。あとは、夫婦同士仲良くやってくれ。我は、王と父親同士の交流を深めるからな」


そういうと、ボナハルト伯爵は応接室を退出した。

部屋に残ったレッカは、


「用件などと他人行儀な!我は騎士学校に行っているからすぐに会えなかったが、我が妻の見舞いにくるのは当たり前だ!事故にあったと聞いたが、調子はどうだ?」

「順調に回復しております。”婚約者”であるレッカ様のご心配には及びませんわ」


にっこりと微笑むマリーの笑顔はどこか迫力があった。

しかし、この男は気にせずに、


「マリーは我に気を遣うきらいがあるからな!夫なんだもっと頼ってくれ!」


なぜか決めポーズをしているレッカを前に、マリーは笑顔のまま、


「”婚約者様”、気を遣っているのではありません。必要がないのですわ」

「世間でいうツンデレだな!そういうところがかわいいな!」


ウィンクをしだしたレッカを前に、マリーは笑顔を深めた。


「ふふふ、お世辞がお上手ですわね」

「世辞ではない!マリーはこの世で一番美しいな!人目を引く美しい赤髪に、抜群のプロポーション!将来の王である我に相応しいな!!」

「・・・わたくしの”見た目”に対する過分な評価、恐れ入ります。特段用事がないのでしたら、自室で療養したいのですけれど・・・」

「そう急ぐな!マイスイートハニーのために、色々と買ってきたのだ!お前たち!入れ!」


レッカの合図とともに、小規模な商隊かと思うほどの人数が入室し、大量の品物が運び込まれてきた。


さすがに予想外だったのか、マリーの顔が一瞬引き攣るも、すぐに、笑顔の仮面を纏っていた。


「レッカ様?こちらは何でございますか?」

「馬車での事故と聞いたからな!打ち身に効く薬を揃えたんだ!念の為、痛み止めや止血剤も一通り揃えたな!この部屋に入りきらなかった分は、外に置いてある!この部屋の窓からみれるな!あれだ!」


レッカが指差した窓から見えた王宮の庭の一部には、荷物が積み重なっていた。マリーの顔が引き攣りそうになるも、気合いで微笑みをキープしているようだ。


「・・・つかぬことをお伺いしますが、これほどの量をどちらで調達なさったのですか?」

「王宮への道すがら、街中から買い込んだ!どうだ!」

(「どうだ」と言われましても・・・)


「それと、ミラベル、イチジク、ブドウなどの果物も買ってきた!ベッドで寝ながらでも食べれるな!はっはっは!」

(「はっはっは」と言われましても・・・)


「寝室を彩るために、フレグランスや香水も買ってきたんだ!全部使っていいからな!」


軽く見積もってもかなりの量がある。これらを街中から買い込んだようだ。

目の前に積まれた山、王宮の庭でも山となっているこれらの物資のせいで、必要な物が手に入らない人が出てくるのではないか。


「レッカ様、街中から買い込んだ、とおっしゃいましたが、民の生活に必要な分はしっかりと残してきたと認識してよろしいですか?」

「何を言ってるんだ?将来の国王が、その妻のために購入するのだ。むしろ、進んで差し出すべきだ。なぜ民を気遣う必要がある!」

「民がいなければ国は成り立ちません。お無能なのですか?」

「照れ隠しで、ツンデレなマリーは可愛いな!」


ついぽろっと本音がマリーであったが、表情自体は微笑んだままだった。

しかし、ツンデレと言われ、マリーの微笑みに亀裂が入りかけた。


「・・・レッカ様は、実際に国民の生活をご覧になったことはありますか?」

「我らは平民に比べ上位の存在なんだ。何を気にする必要があるんだ?」

「そうでございますか・・・。もう一つお聞きしたいのですが、これらの購入費用はどこから?」

「国家予算から出したな。将来の王と、妻の買い物だぞ?何を当たり前のことを聞いているんだ?」

「そうでございますか・・・。それでは、これらの品は全ていただきますわね」

「ああ!そのつもりで買ってきたからな!」


亀裂が入りかけたがすぐに修復した微笑みから一転、マリーは目線を下げて、気遣わしげな雰囲気をだしはじめた。


「ですが、今後はこのような行為は控えていただけますか?」

「なぜだ!我の愛情が受け取れないとは言わないだろうな!」

「そうではありません。・・・女性というものは量よりも質が重要なのですよ。レッカ様がわたくしの為に選んでくださった一品、それが何よりも嬉しいものなのですよ」

「そうだったのか!」

「ええ。それでは、いただいた品々の整理もありますし、本日はこの辺りでご退出願いますか?」

「なるほど!我からのプレゼントを1人で楽しみたいのだな!いじらしいな!そういうことなら、我は失礼する!さらばだ!」


レッカと、レッカが連れてきた商人が退出すると、マリーは応接室に置かれていたソファーに身を預けた。

すかさず、リンカがどこからか温かいタオルを取り出し、マリーにを渡した。


「マリー様、お疲れ様です。これで表情筋の疲れを癒してくだい」

「・・・助かるわ」

「ところで、女性は量よりも質なんですか?」

「ああでも言わないと、また無駄遣いすると思ったのよ。街中から物資を集めるだけでもいい迷惑なのに、国家予算も使い込むなんて・・・」

「物資不足に陥って軽い公害ですよね。それと税金泥棒」

「まったくよ」

「あの、気になったんですけど、なんで”アレ”は自分のことを国王だと言っているんですか?仮に本当に万が一結婚まで進んでも、マリー様が女王で、”アレ”は王配ですよね?」

「この国で女王が認められていることを理解していないのではないかしら?」

「とってもポンコツおバカちゃん、略してTPOなんですか?」

「妙に語呂がいいわね。そうだ、リンカ、これありがとう」


マリーからのお礼と一緒に、リンカはタオルを受け取り、さらに疑問を口にした。


「マリー様、婚約破棄できないんですか?」

「父上が、わたくしの実の父上が、王都の治安維持を担当する騎士団の団長であるボナハルト伯爵を信頼しているのよ・・・。難しいと思うわね」

「そうでしたか・・・」

「ええ・・・。それよりも、この品々を街に戻しましょう」


リンカは部屋に山のように積まれた品々を見た。王宮の外来客用の応接室とあって、この部屋はそれなりに広い。それにも関わらず、部屋いっぱいに山ができていた。その上、外にも小山ができている。


「・・・結構な量がありますけど、どうやってですか?私、お掃除は得意な方ですけど、これはさすがに・・・」

「そうね・・・。フリーマーケットを開催しようかしら?」

「フリーマーケット?」

「あっ、この世界にはまだなかったのね。ええと、フリーマーケットというのは、」

「この世界!!つまり前世!」


いきなりキラキラし出したリンカの顔をみて、マリーは「しまった」と思った。厨二房スイッチを押してしまったようだ。


「ごほん!!!いいですか!フリーマーケットというのは、公園などの場所を使って、個人個人が、まだ使える品々を売りにだすことです!レッカ様がどのお店でどれを買ったかわからない以上、お店に直接戻すことはできません!生鮮食品は難しいけれど、必要な人が購入できるように売ろうと思うわ!!」

「なるほど!元々は税金で購入しているから、多少は財源も取り戻せるという一石二鳥ですね!」


勢い任せにフリーマーケットの説明をし、リンカの興味を前世の設定、から離すことに成功したようだ。


「それもあるけれど、街に物資を戻す方が優先ね」

「わかりました!それと、もう一つ質問いいですか?割と切実な疑問なのですが」

「何かしら?」

「この量、誰が売るんですか?」


マリーはにっこりと微笑むだけだった。


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