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薄暮の乙女は復讐を求めるが、聖女と勘違いされています  作者: 夜塊織夢


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お喋りキノコ:ノエル視点



「ウギャーッ!?」


 ベッドに入った途端、刺すような激痛に襲われた。

 以前にも経験していたので驚きは小さいが、眠気も吹き飛ぶ強烈な痛みだ。


「うへぇー」


 羽根布団をまくると、腰の辺りに黄色い蛇がとぐろを巻いていた。


 見間違いようのない特徴的な頭部。

 それは猛毒で有名なイエローヘッドヴァイパーだった。


 噛まれたケツが痛い。


「どういたしました、ノエルさま!?」

「大丈夫ですか?」

「コイツに噛まれました」


 オレの声を聞きつけ、駆け付けてくれた颯香(ふうか)と部屋付きメイドのニナに、手にした蛇を見せる。


「ヒィッ!」


 ニナが目を見開いて悲鳴を漏らした。


「おぅ、イエローヘッド……。これまたお高い毒蛇」

「動物図鑑で見たから知ってる。イエローヘッドヴァイパーだよ」

「リネール王国には生息していない、熱帯地方の毒蛇です」


 颯香(ふうか)の説明によると、南方の交易船が運んでくるらしい。

 体色と模様の美しさから、毒蛇をペットとして飼う好事家がいるのだ。

 その中でも、イエローヘッドヴァイパーの人気は高い。

 毒の強さもトップクラス。


「ど、毒蛇!? ノエルさま、大丈夫なんですか?」

「毒耐性のスキルがあるから、噛まれても死にません」


 前回の毒蛇事件と、まったく同じ手口だった。

 それだけに、前回とは異なる相手が、オレの暗殺を企てたものと推察される。

 一度失敗しているのに、二度もベッドに毒蛇を忍ばせるとは思えない。


 それとも安眠妨害かぁー?

 オレを寝不足で苦しめるつもりなのか?


 どうも、オレには敵が多いようだ。


「むーっ。納得いかん」


 取り敢えず、犯人を確定しようじゃないか。

 泣き寝入りで済ませるには、噛まれたケツが痛すぎた。


「颯香(ふうか)。容疑者を集めて」

「承知しました」


 オレの部屋に立ち入る許可を与えられた使用人たちは、男女含めて十二名。

 失礼ながら、名前を覚えていない顔をもあった。


「皆さんには、夜分遅くに集まって頂き、誠に申し訳ありません。お手間は取らせませんので、ご容赦ください」


 横一列に並んだ使用人たちは、何事かと不審そうな顔でオレを見ている。


「これから、一つだけ質問させて頂きます。『はい』か『いいえ』で答えられる、簡単な質問です。しかも、皆さんは口を開く必要もありません」


 オレは首なし騎士(デュラハン)の城塞で拾った【暴露茸】を使用人たちに配った。

 【暴露茸】は遺体に生える、特殊なキノコだ。

 そして死者の秘密を喋りまくる。


 首なし騎士(デュラハン)の城塞では、ときどき喋る死体(トーキングコープス)と出会う。

 大抵は群れだ。

 

『俺は幼女を殺した。殺して食った。勿論、犯した!』

『頭目を売った。裏切って首を斬り落とした。痛快、爽快……』

『隠居した貴族の爺さまを騙し、財産を奪ってやった。爺さまの死体はブタに喰わせた』


 不愉快だし、頭を斬り飛ばしても関係なく喋るので、興味を引かれた。

 喋っているのは、ゾンビに生えた無数のキノコだった。

 どうやら死者の秘密を暴露しているらしい。


 そこで謎のキノコを【暴露茸】と命名。


 持ち帰って試してみたら生者にも使えると判ったので、尋問者の質問に答えるよう改良した。

 隠し事、嘘に反応し、手に持ったキノコが口を開く。


「わたくしのベッドに毒蛇を入れたのは誰ですかぁー?」


 オレの質問を耳にした使用人たちが、激しい動揺を見せた。

 一拍ほど間をおいて、小柄な侍女の手にした【暴露茸】が口を開く。


〈はぁーい。わたしです〉


 犯人が居た。


「ミシェル! アンタ、なんてことを……」

「知らない。わたし、知りません!」


 ミシェルと呼ばれた娘は、上役らしい侍女に叱責されて容疑を否認する。


 しかし……。


〈はいはい……。わたしがやりました。ベッドに毒蛇を仕込んだのは、わたしです。遊民のゲス女がアルベール殿下と結婚するなんて、許せませんから。ぶち殺してやるのです!〉


 【暴露茸】は嘘を吐かない。


「なっ、なんなの、このお化けキノコ!!」


 ミシェルは竦(すく)み上がり、手に持っていた【暴露茸】を投げ捨てた。


「ミシェルさん、有罪(ギルティ)!」


 オレはミシェルの手にウネウネと暴れるイエローヘッドヴァイパーの頭を握らせて、インヴィジブルアラクネーの糸で固定した。


「ヒィーツ! ナニスルノヨォー!!」

「これは、アナタのペットでしょ。アナタが雇い主の所まで、持ち帰りなさい」

「かっ、噛まれる……! 噛まれちゃう!!」

「それなら……。噛まれないように、ギュッと握りなさい。いっそ、握り潰せ!」


 オレに牙剥くものは、オンナ、コドモとて、(精霊さんたちが)容赦せん。

 毒蛇だろうがドラゴンだろうが、(精霊さんたちが)叩きのめす。

 それが王子であろうと、(精霊さんたちが)泣かす。


 フンッ。


「はい。皆さん、ご協力ありがとうございました。明日も早いでしょうから、解散してください」

「えっ、そんな……」

「ノエルさま、お身体の具合は大丈夫なのですか? その……。毒蛇に噛まれたりは」

「ミシェルの尋問は、どうされるのです? そやつは邪悪な暗殺者ですぞっ!」


 執事のポルナレフさんが、こめかみに青筋立てて喚く。


 煩いなぁ。

 夜なんだから、少しは気を遣おう。

 ニコラさまが驚いて、目を覚ましてしまうぞ。


「諸々。問題ありませんので解散してください。颯香(ふうか)、ミシェルさんをお屋敷の外へ」

「畏まりー。ゴミ捨て場に、廃棄して参ります」


 カルマ君を完成させ、良い気分で寝ようとしていたのに、ホント腹が立つ。


 ポルナレフさんも、少しばかり頭を冷やしなさい。

 ミシェルを尋問して、もしクリスティーナ王妃殿下やファビアン・ド・ヴァロワ公爵の名が出てきたら、どうするんですか。

 てか、そのどちらかが首謀者なのは、調べるまでもなく明らかだしー。


 リネール王国を二つに割って、戦争したいの……?


 その気がないなら、追及するのは止めておけっ! て話だ。




◇◇




 やっと完成したカルマ君を母上のもとに届けて、気分スッキリ。

 なので今日は、中庭にてニコラさまとカードバトルだ。


「これ、難しいですね」

「運もあるけれど、うまくカードを配置しないと勝てませんよ」

「なるほど……。なかなか勝てないけど、面白いです」


 ゲームの勝敗が決まり、手元に集めたカードをシャッフルする。

 そこにアルベール殿下がやって来た。


「やあ、良い天気だね」

「ようこそいらっしゃいました、アルベール殿下」

「いらっしゃいませ殿下」


 オレとニコラは立ち上がり、アルベール殿下をテーブルに招く。


 近くに敷かれたピクニックシートには、ランチボックスやドリンクが用意されていた。


「おっ、新作のカードゲームか」

「仲間に混ざります?」

「面白いですよアルベール殿下。一緒に遊びましょう」

「ウム。私も参加させてくれ」


 オレはカードを配った。


「当分の間、こちらに顔を出せなくなりそうだ」

「お忙しいのでしょうか?」

「父上の……、国王陛下の容体が悪化された」

「それは心配ですね」

「魔法医師団の診察によると、もう延命処置も難しいらしい」

「…………」


 母上が待ち侘びていた、運命の分岐点だ。


 言葉は悪いけれど、ジェラール・ド・パルマンティエ国王陛下の命が、死霊術に捧げられる最初の贄なのだ。

 カルマ君の因果律操作は、ジェラール・ド・パルマンティエ国王陛下の死を以って始動する。

 と同時に、ファビアン・ド・ヴァロワ公爵の野望は、潰(つい)える。

 その命は、もはや風前の灯火。


「先々のことを考えると不安でならない」

「そんな話をわたくしたちにしても宜しいのでしょうか?」

「よくはないけれど、自分の中に溜めこんでいると頭がおかしくなりそうだ。それに君たちなら、誰にも話したりはしないだろ」

「はい。ボクは話しませんよ」


 ニコラが口をキュウウと引き結んだ。


「兄上の後見者として、王弟であるファビアン・ド・ヴァロワ公爵が名乗り出るだろう」

「お断りできないのですか?」

「叔父上が抱えている私兵は、ハッキリ言って脅威だ。おそらくはヴァロワ公爵家の武力をひけらかして、諸侯の反対を抑えるだろう」

「フィリップ王太子殿下が王になり、その後見者としてファビアン・ド・ヴァロワ公爵さまが立つと」

「そう簡単な話でもない。叔父上には国を纏めるようなカリスマ性がない。私利私欲に塗れた下劣さが、隠し切れていない。兄上を国王と仰いでも、喜んで従う者は居ないだろう。だとすれば、やがて内紛となる可能性が高い。そんなことになれば、リネール王国は立ち直れないほど疲弊してしまう」


 なるほど、なるほど……。

 要するに、ユストゥス教団の思惑通りってことだね。


 そうはさせないけどな。

 母上と精霊たちが。


「あっ、何をする?」

「眉間のシワが、爺臭いですわ。わたくし、爺臭い殿下は嫌いです」


 オレはアルベール殿下の顔に触れ、ウニウニと揉み解した。


「果報は寝て待てと申します。世の中、何が起こるか分からないものです。死んだはずなのに生きているとか、よくある話なんですよ」

「……ツッ。確かに。キミは、そうなんだろうね」

「勝った! ボクの勝ちだよ」

「ちっ……」


 アルベール殿下と話していたら、ニコラに負けてしまった。


「ゲームへの集中度が足りませんわ。こうなったら、敗者には罰ゲームをして貰いましょう」

「ばつゲーム?」

「何をするんだ?」

「このゲームは勝者が一人。敗者は、このキノコを持って、勝者の質問に答えるのです」

「フーン。ボクが勝つから、ノエル姉上とアルベール殿下が質問に答えて下さるんですね」

「ニコラさんが勝てばデス」

「よし分かった。その勝負を受けよう。キノコが何だか分からなくて不安だけれど、緊張感を盛り上げる良い道具だ」


 アルベール殿下もテーブルに身を乗り出し、姿勢を正した。

 やる気モードである。


 そこから、オレたちは本気でカードバトルに打ち込んだ。


「わたくしの勝利ですね」

「くっ……。強すぎる」

「負けちゃった」

「では、罰ゲームです。まずニコラさん、キノコを持って」

「はい」


 母上に仕込まれた各種ゲーム。

 あの屈辱と怒りの日々は、伊達や酔狂ではなかった。

 オレは頭を使える剣士なので、そうそう他人に負けたりしない。


 覚悟は良いかね、義弟(おとうと)くん。


「では質問します。わたくしのマスクが無くなってしまいました。鼻の部分が、鳥の嘴みたいに尖った銀色のマスクです。ニコラさんは知りませんか?」

「ボク、知らない」


 ニコラは視線を逸らし、知らないと答えた。

 でも、手にしたキノコが口を開く。


〈ボクが持ってるよ。姉上の部屋から持ち出して、自分の宝箱に入れたの……〉


 犯人が判明した。


「ウヘッ! なに、このキノコ!?」

「ウソや隠し事を暴く、【暴露茸】と言う魔法具です」

「うわーん。ゴメンナサイ」

「マスクはニコラさんに上げますけれど、黙って持って行くのは駄目です。それと嘘を吐くのは、良くないです」


 オレはニコラの頬っぺたを摘んで引っ張りながら、ダメ出しをした。


「ちょ、ちょっと待て。これ。私もやるのか……?」

「罰ゲームですから」

「いやいやいや……。そのキノコ、自白魔法よりヤバいだろ。罪人にしか、使ったら駄目なヤツだ」

「逃げるんですか、男らしくないです」

「やるよ。やるけどさ。お手柔らかに頼む」

「さあさあ、アルベール殿下。キノコを握って……。わたくしに知られたら拙いことを山ほど考えてください」

「おい。そんなこと言われたら、ヤバい」


 面白すぎる。

 オレはジタバタするアルベール殿下に、質問を放った。


「何を考えました?」

「ノエルが大好きだ! あっ、愛している!!」


 アルベール殿下は、大きな声で言い放った。


 が……。

 手にしたキノコが口を開く。


〈早く結婚して、ノエルをベッドに押し倒したい。それから毎日毎日、朝から×××を×××して欲しい。〇〇が、×××なんだ!〉


 オレとアルベール殿下は、互いに暫く見つめ合い、ついっと視線を逸らした。

 キノコが、そっとテーブルに置かれた。


 遠くで見張っていた侍女たちが、何事かとソワソワしている。

 オレは近寄るべからずと、ハンドサインで知らせた。


 顔が熱い。

 このスケベ男め。

 アルベール殿下の性癖が、恥ずかしすぎる。


 そして可哀想すぎた。

 こんな罰ゲーム、やるんじゃなかった。


「膝枕くらいでしたら、今すぐでも」

「こっ、こんな状況でさー。膝枕とか、イジメ?」

「嫌ですか?」

「いや、膝枕して欲しい」


 アルベール殿下はやけくそになり、不機嫌そうな口調で膝枕を所望した。

 オレはピクニックシートに移動して、アルベール殿下の枕になった。


「ひざまくら……♪」


 ニコラがニヨニヨしながら、オレたちを眺めていた。

 後でエレーヌさまに、膝枕の一部始終を報告するのだろう。


 これはもう、オレにとってのバツゲームだ。

 もろくそバツが悪い。






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