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薄暮の乙女は復讐を求めるが、聖女と勘違いされています  作者: 夜塊織夢


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ノエルと張り合う聖女:フェリシア視点



 私は女神フローレンスさまの恩寵を授かり生まれた、特別な存在だ。

 故郷のフォレスティは辺境にある小さな町だけど、フローレンス聖女教会の庇護下にあった。

 住民たちは皆信心深く、私を大切に養育してくれた。


 王都ロワイヤルを訪れたのは、聖女としての御業を身に着けるためだ。

 フローレンス聖女教会の本部で教導官に基礎を学び、この度が初めての実地学習となる。


 実地学習の目的は、主(おも)に二つ。


 浄化の奇跡を用いて、実際に悪霊どもを滅する。

 冒険者との共同作業を通じて、理想的な聖女の立ち回りを学ぶ。


 そのために、首なし騎士(デュラハン)の城塞を訪れるのだ。


 教導官から渡された支度金は、三百万クローザ。

 これまでに見たこともない大金だった。


 私ほどの聖女ともなれば、これが普通なのかも知れない。


 この三百万クローザを何にどう使うのかは、教導官の説明になかった。

 つまりは私の裁量で、どう使っても構わないと言うことだろう。


 ただ、『優秀な冒険者を見繕い、雇いなさい!』とだけ、指示された。


 私は大金を懐に入れて、意気揚々と王都ロワイヤルの商業エリアに出掛けた。

 王都ロワイヤルはキラキラと輝いていて、誘惑が多い。

 人の行き来も激しく、目が回りそうだ。


「そうだ。故郷にはない、美味しそうなものを食べよう」


 支度金は三百万クローザ。

 何をどれだけ食べたところで、削れるのは僅かな金額。

 我慢する必要などなかった。


 そうやって甘いお菓子なんかを食べ歩き、様々な店を見て回った。

 すると武器防具を店先に飾った、大きな建物が目に入った。


 目を引くのは、ズラタノフ商会と書かれた看板。

 店の入り口には、『回復師の装備品も揃えてございます!』の呼び文句。


 これから迷宮で悪霊を浄化しなければならない。

 そうしたら、性能の良い杖は必需品だろう。


 店に入り、棚に飾られた杖を眺める。

 フローレンス聖女教会で支給された杖は、棚に並ぶ品と比べて安っぽく思えた。


「ふわぁー。杖って高い」


 装飾が施された美しい杖は、どれもこれも高級品だ。

 三百万クローザでは購入できない。

 そうなると、いっそう欲しくなる。


「お客さま。お気に入りの品はございましたか?」

「あっ。どうかお構いなく。見ているだけですので……」

「さようでございますか……。ご予算など窺えたなら、倉庫にある品もお持ちできますよ」

「そうなんですか?」

「お値段も、ご相談の上で値引きいたします」

「えっ。値引きですか?」

「それはもう。我々のような商人が、聖女さまに便宜を図るのは当然のこと……。我々の豊かな生活は、聖女さまの活躍によって守られているのですから」


 よくできた店員だと思った。

 清潔な身なりで、整った顔も好感が持てる。

 その声音は誠実そうで、耳に心地よい。


 なにより、私を聖女さまと呼んだ。

 私は修行中で、まだ正式に聖女として認められていないけれど。

 女神フローレンスさまの恩寵を授かって生まれた、この身。

 遅かれ早かれ聖女になると決まっていた。


「では、もう少し安い杖を見せて頂けるでしょうか?」

「承知いたしました。そちらの席にお掛けになって、暫くお待ちください」


 そして気が付くと、私は支度金の全てを店員に支払い、一本の杖と豪華なロッドケースを手にしていた。


 どうしよう?

 冒険者を雇う代金が、五千クローザしか残っていない。

 指名依頼の手付金には、十万クローザ掛かる。

 これでは指名依頼ができない。


 ええい。

 何事も為せば成る。

 暇そうな冒険者を捕まえて、直接依頼すればよい。


 私は奇跡を扱える聖女だ。

 仮のパーティーメンバーとして同行すれば、依頼料だって発生しない。

 冒険者なら、自分のパーティーに聖女を加えたがるはず。


 女神フローレンスさまのお導きか。

 冒険者ギルドに足を踏み入れた私は、すぐさま見覚えのあるシルエットに目を止めた。


「羽飾りがついた兜……。あれは」


 リネール王国が推す、冒険者のアイドルだ。


 フローレンス聖女教会の資料保管室で、名の売れた冒険者を記憶しておいてよかった。

 弱そうな外見にそぐわない、無類の強さを誇る精霊使い。

 所属するパーティーは【レイブンビーク】。

 冒険者の名はノエル。


 首なし騎士(デュラハン)の城塞で最深部到達のタイトルフォルダー持ちとあったが、実際に本人を見ると、汚らしいコートを羽織った小柄な少年である。

 事前知識を持たずに迷宮探索者だと聞かされたなら、絶対に信じないほど弱そうだ。

 でも、彼女と会話をしている青年は、覇気に満ちた強者に見える。

 しかも青年の方が、少し遠慮をしている様子。


 強者に遠慮させるのだから、実力はあるのだろう。


 私はノエルに、迷宮案内の依頼を切りだした。

 女神フローレンスさまの恩寵があることを口実に、強気でグイグイと押した。

 だけど依頼料の話が出て、私の勢いは消えた。


 ここで実際に冒険者を雇うさい、必要となる金額を知らされた。


 不味い。

 教導官から渡された支度金は、冒険者を雇うための対価に相違なかった。

 それを私は、杖の購入費に使ってしまったのだ。


 万事休す。

 そう思ったとき、またもや女神フローレンスさまが救いの手を差し伸べて下さった。


 【レイブンビーク】のメンバーと思われる娘が、フローレンス聖女教会の僧衣を纏って現れたのだ。

 これは明白な犯罪行為である。

 脅しに使える。


 やはり機転は大事だ。

 私は上手く立ち回ることで、最大のピンチを切り抜けた。


 終わり良ければ総て良しと言う。


「やはり私は、女神フローレンスさまに選ばれた特別な聖女なんだ」


 最高の冒険者パーティーに守られて、首なし騎士(デュラハン)の城塞で修業できる。

 馬車代に食費、冒険者に支払うガイド料もチャラ。

 これこそが、女神フローレンスさまのご意思。


「えへん!」


 皆さま方、ご照覧あれ。

 今まさに奇跡が行われたのであります。

 であればこそ、私めは誰よりも尊き、女神フローレンスさまのいとし子と申せましょう。




◇◇




 冒険者ギルドが用意した乗合馬車で、【レイブンビーク】の一行は首なし騎士(デュラハン)の城塞に向かう。

 【レイブンビーク】が嵩張る装備品を馬車の屋根に括りつけるとき、ノエルが翼の付いた兜を脱いだ。


「えっ!?」


 そこで私は、この世のものとも思えない仙女さまの顔と対面した。

 それは穢れなき、色濃い愁いを帯びた慈愛の表情。

 同性の目から見ても美しい、芸術品だ。


 けぶる夕暮れ色の瞳は、怪しい深みを感じさせ、どことなく怖い。

 落ち葉散る晩秋の寂しさを想像し、不安な気持ちになる。


「くっ……」


 私はノエルの美貌に怖気づき、視線を外してしまった。


 負けた訳ではない。

 ちょっと分が悪いように感じただけ。

 だけど、美醜勝負で挑む気は、完全に失せた。


「はいはい。貴女は美人ですよ(小声)」


 聖女の尊さを認めぬ傲慢さは、その美貌のせいか?

 年老いて容色が衰えても、今と変わることなく偉そうにしていられるのか……? 知りたいものである。


 王都ロワイヤルから首なし騎士(デュラハン)の城塞を目指し。

 馬車での移動に二日間。


 宿屋に泊まれるので野宿よりマシだが、どこの宿場にも最低限の設備しかなかった。

 なので目的地である首なし騎士(デュラハン)の城塞に到着し、そこにある冒険者ギルドの宿泊施設を目にして驚く。


「本当にお風呂があるんですか?」

「あるよぉー。治癒師が詰める医療室も、用意されています」

「何たる贅沢……」


 フローレンス聖女教会だって、身を清めるための道具は、湯の入った桶とタオルのみ。

 神事のために清らかな水を溜めた浴槽はあるけれど、お湯ではない。


「貴族がデュラハン見物に来るからさ。色々な方面から要望があったようです」

「だったら、どうして途中の宿場はあんななの?」

「非日常感のある不便さは、冒険のスパイスになります。貴族の若者たちは、そうした雰囲気も楽しみたい」

「わざわざ野宿する若者も居るでござるよ」


 野宿がしたいなんて、馬鹿だとしか思えない。

 何が楽しいのやら。


「まあ、わたくしたちとしては、ここにお風呂があることを心の底から喜びたいです」

「ノエルさんに賛成」

「激しく同意」


 【レイブンビーク】の女性陣は、ノエルに賛同して片手を突き上げた。


「では、荷下ろしを男衆に任せて、わたくしたちはお風呂へゴー!」

「「お風呂へゴー!」」


 速足で冒険者ギルドの宿泊施設に向かうノエルたち。

 私も置いていかれないよう、速足になる。


 風呂場の脱衣室にて、慣れた様子で着衣を脱ぎ捨てる女子組。

 一緒に入る風呂なんて知らないので、恥じらいのないノエルたちに動じる。

 同性の裸体とは言えど、目のやり場に困る。

 私も相違を脱がなければならないのだけれど、抵抗があった。


「ヒャッホォー! 一番」


 そんな中、ほぼ一番で裸になったノエルが声を上げた。

 つい視線を向けると、その背に大きな刻印。

 見たこともない神の聖痕だ。


「何してるのぉー? フェリシアさんも、早く脱ぎなよ。男連中にお風呂場を明け渡さないといけないんだから、のんびりはできないよ」

「……っっ!?」


 こちらを振り向いたノエルの身体に。

 胸から下腹部へと向かい、一直線に並ぶ幾つもの刻印が……。


「そ、それはなに?」

「んっ?」


 いったい、どれだけの神から寵愛を受けているのやら。


 自分の身体で見慣れた女神フローレンスさまの刻印も、ノエルの下腹部に。

 しかも私の聖痕より、ずっと大きい。


「ああっ、これなぁー。要らないのに、神さまは返却を受け付けてくれないのです」


 湯けむりの中、ノエルの勝ち誇ったような声が木霊した。


「グヌヌヌヌッ……! この罰当たりがぁー」


 完敗だ。

 私がノエルに勝てるものと言えば、もはや背丈と胸の大きさだけ。

 メッチャ悔しい。






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