ノエル嬢とのデート:アルベール視点
私の許婚であるノエル嬢は、とても清らかで魅力的な乙女だ。
何をやらかすか分からぬ不安なところがあろうと、それを凌駕する美点を備えていた。
常に居心地の良い距離を保ち、私に過度な干渉をしてこない。
鈴を転がすような声音は優し気で、気障りな濁りがない。
ときおり鼻を擽る香りは、瑞々しい花のようだ。
皆が口にする、頼りなさげな風情も、縋りつくような目線も、異能を用いれば会話相手の内面を読める私が、取り違えることはない。
それらが異性を誘うシグナルなどではなく、生まれついての顔つきだと十全に理解している。
その証拠と言っては何だが、ノエル嬢が私に何かを要求したのはほんの数回だけ。
ドレスや装飾品が欲しいと強請られたことは、一度としてない。
私が見る限り、ノエル嬢は男どもの助けを必要としていなかった。
伴侶を欲していないのだ。
それはそうだろう。
冒険者の姿になったノエル嬢は、単身でデュラハンを退ける、並外れた才能を持つ精霊使いだった。
であればこそ、私もうかうかとはしていられない。
私が第二王子であろうと、ノエル嬢には意味がなさそうだ。
義母のオルタンス夫人からして、無造作に伯爵夫人の地位を捨てられる人だ。
もとより遊民で冒険者、ノバック伯爵家の養女に迎えられてから一年も経っていないノエル嬢が、王家との婚姻に執着するとも思えない。
『わたくし、自由が好きなのです!』とか突然のように言い出し、どこかへ立ち去ってしまう姿が目に浮かぶようだ。
そんな真似はさせん。
そのためにも、ノエル嬢の信頼を得なければならん。
「殿下……。本当に、そいつを身に着けるんですか?」
「うるさい」
「いや、でもですよ。きっしょいでしょ!」
「ノエル嬢が作ってくれたのだ。着けずにどうする!?」
秀でた精霊使いだけに、感じるところがあるのだろう。
ヤーヴェは顔を引きつらせて、ノエル嬢から贈られた人形の山をガン見している。
「あっ、ほら!?動いた。いま、動きましたよ!!」
「命の危険を肩代わりしてくれるお守りだ。本物なら、動きもするだろう」
「うへぇー!」
ノエル嬢が拵えてくれた身代わり君は、お世辞にも趣味が良いと言えない。
その手の特殊感覚を持たぬ者が見ても、危険が香るお守りだ。
「まるで、どこぞの古代遺跡から発掘されたミイラじゃないですかぁー。小さいけど」
「まあ、そう見えんでもない」
乙女の作るお守り人形だ。
そのままミイラと言う訳ではない。
頭が大きく、手足は短い。
クマのヌイグルミと同じで、それなりにシルエットは可愛らしい。
が、如何せん、そのディティールは、古びた麻の包帯でグルグル巻きにされた遺体だった。
パックリと開いた口には、数本だけ残った歯が突き出していて、目玉には黒いボタンが嵌っている。
そして、ここが最も大切なポイントだが、この人形、瘴気を漂わせてもぞもぞと動くのだ。
その悍ましい人形が、見るからにおどろおどろしい封印の魔法紋がびっしりと書き込まれた布袋に二十体。
取り敢えず執務室の戸棚に仕舞ったのだが、それを開けて腰を抜かす小間使いが続出。
結果、私の世話をしたがる小間使いが居なくなった。
「ひょっとして、浮気防止策なのでは……?」
ヤーヴェが顔を顰め、デスクに置いた布袋を指さす。
「はぁー。そうであったら、どれだけよいか」
「おや。殿下にしては、随分と気弱な発言じゃありゃしませんか。こりゃまた、変われば変わるものですな」
耳ざとく私の愚痴を聞き付けたヴィクトルが、ニヤニヤと笑った。
「フンッ。ノエル嬢に煙たがられているのは、百も承知さ」
「皮肉なもんですな。声を掛ければ、簡単に靡くご令嬢たちが幾らでもいらっしゃるのに、好いた女子には見向いても貰えぬ」
「ヴィクトル、つまらぬことを口にするな。勝負はこれからだ」
「ですな」
ノエル嬢攻略の第一歩は、この人形を首から下げること。
ノエル嬢は社交界での駆け引きや権謀術策に、興味がない。
男女間の恋愛ゲームにも、殆ど無関心だ。
その言葉には裏表がなく真っすぐ。
実のところ、王族に対する礼儀作法を気にする程度で、建前と本音の使い分けもコントロールできていない。
それだけに、私がノエル嬢の期待を裏切れば、溝は一気に広がるだろう。
婚約者とは言え、心を通わせるまでは赤の他人。
こちらから歩み寄らねば、すれ違うだけ。
相手が投げてくれた球を拒絶するようでは、良好な関係など覚束ない。
従って、見た目の気持ち悪さは、もらった人形を身に着けない言い訳にならん。
「オマエたちも着けろ」
「エェーッ。嫌です!」
「ノエル嬢の話では、この人形がいざと言う場面で、私たちの命を守ってくれるらしい。だったら私の肉壁となるそなたたちこそ、身に着けておくべきだろう」
私は少しきつめの口調で、ヤーヴェとヴィクトルを窘めた。
「そんな不確かな話では、そいつを首から下げる気になれません」
「だな……。ヤーヴェに同意する」
ヤーヴェとヴィクトルは、断固拒否の姿勢だ。
その気持ちは分からなくもない。
それにしても、私の側近は自由すぎやしないか……?
オマエたちには、主人と一緒に苦しもうと言う覚悟がないのか……?
「むっ?」
シャツの襟を寛げると、胸元に下げた人形から没薬の甘い香りがした。
乳香と没薬。
カゼルニア古代文明が、ミイラの製造に使用した防腐剤だ。
「……ッ!」
私だって、こんなものを首から下げておきたくない。
だが今日は、ノエル嬢とのデートだ。
王都ロワイヤルの大掃除が終わったので、今流行りのオペラを観劇に誘った。
ここでノエル嬢から貰った人形を身に着けていないと知られたら、私の好感度が確実に下がる。
あの泣きそうな顔で悲しまれたら、もうどうすればいいのか分からん。
為す術もなく、おろおろと狼狽える自分の姿しか、思い浮かばない。
だから私は、この忌まわしい人形を首から吊るすのだ。
◇◇
オペラのために仕立てたノエル嬢のドレスは素晴らしかった。
このドレスを作成中に、お針子が一人亡くなったらしい。
ティエリー卿から詳細を聞かされ、仕立て屋の工房には幾らか余分に包んでもらった。
命の対価にはならぬにせよ、いくばくかの慰めになればと考えてのことだ。
憎むべきは、ユストゥス教団である。
仕事で疲弊した職人に薬物を与え、廃人に仕立て上げ、暗殺に使用するとか。
聞いただけで虫唾が走る。
だが今は、ノエル嬢とのデートだ。
余計なことは考えまい。
劇場側が王家のために設えたボックス席で寛ぎ、ノエル嬢と寄り添って流行の恋愛物語を鑑賞した。
用意されたボックス席は舞台から遠く、煌びやかに着飾った役者を見るため、オペラグラスを使用する。
横に目を向けると、ノエル嬢はオペラグラスを手に取らず、膝の上で指を動かしていた。
チャンスさえあれば、そっと手を握ろうと目論んでいたので、これは想定外だ。
甘いラブロマンスとロマンチックな音楽に酔い、あわよくば肩を抱き寄せるところまで距離を縮めたい。
そう目論んでいた。
それなのに、それなのに……。
「ノエル嬢。もしかして、ラブストーリーはお気に召しませんでしたか……?」
「いえ。使われている楽曲が気に入ったので、スコアを覚えておこうと思いまして」
「フムッ」
ノエル嬢は趣味で楽器の演奏を嗜むと言う。
恋を歌い上げるヒロインの芝居には関心を示さず、演奏に集中している。
目を細め、小首を傾げ、忙しなく両手の指を動かし続ける。
「それなら後ほど、楽譜を用意させよう。支配人に頼めば、手に入ると思う」
「本当ですか殿下。大好きです!」
「…………っ!?」
ノエル嬢が私の手を取り、自分の太ももにそっと置いた。
感謝のつもりらしいのだが、私にどうしろと?
「くっ……」
どこまで許されているのか分からん。
これでは身動きが取れない。
そんな私の当惑を他所に、ノエル嬢はオペラグラスを手に取った。
感情を読み取るが、嬉しい気持ちしか伝わってこない。
相変わらず、ノエル嬢の思考は読み取れなかった。
そんなに楽譜が欲しかったのか……。
何はともあれ、せっかく与えて貰った機会だ。
私はドレスのスカート越しに感じる、ノエル嬢の感触を味わった。
顔に血が上る。
胸がドキドキする。
これではいかんと思いながら、ノエル嬢の太ももから手を引き戻すことができない。
火酒を煽ったように私の思考は鈍り、目の焦点が合わせられず、周囲の景色までぼやけていく。
図らずも添い寝を強要してしまった時のような、フワフワとした幸せな心地だ。
気づけばオペラは終わり、幕が下りていた。
結局、私はノエル嬢の太ももに置かれた手をどうにもできなかった。
無念である。
◇◇
そして、その事件は、劇場を出たところで起きた。
馬車回しに馬車が来るのを待つ僅かな時間。
襲撃者は、そこを狙っていた。
私は曲がりなりにも王族の一員だ。
側室の子であろうと第二王子である。
帰宅する客でごった返す馬車待ちの列に並ぶなど、あり得ない話だ。
混雑に紛れて暴漢の接近を許せば、劇場側も責任を問われる。
なので私たちが立ち去るまで、他の客には劇場内で待機してもらう。
劇場の開け放たれた玄関ドアを通過すると、時間帯もあり、表通りは閑散としていた。
冬の到来を間近に控え、夜風がひんやりと冷たい。
「ノエル嬢、寒くないか?」
「大丈夫です」
私は多幸感の余韻を引きずったまま、ノエル嬢の肩に手を載せた。
王都ロワイヤルの大掃除は終わったので、私にも油断があった。
攻撃に用いられたのは魔法と弓矢だ。
呆れたことに、私と側近たちは無腰だった。
無粋な護衛部隊には、帰宅路の監視を命じていた。
不用心にも程がある。
「はっ!?」
夜闇に紛れて上空から飛来する、強烈な殺意。
事前に敷かれた魔法の光跡が、ノエル嬢に集中していた。
私は夜空を見上げ、痺れるような寒気に襲われた。
瞬時に気づけたのは、もう奇跡と言えよう。
それでも遅すぎた。
隠蔽魔法で射手と矢の存在を隠し、弦音も届かない高い屋根の上から、わざわざ曲射を用いての攻撃。
風の魔法で誘導された矢は、光の軌道からして過たずノエル嬢を射抜く。
しかも射手は、それぞれが離れた場所に配置されていた。
複数人による異なる角度からの、同時攻撃だ。
「やべぇ!」
「殿下、逃げて……!!」
ヤーヴェとヴィクトルが動いたけれど、間に合いそうにない。
ここまで一瞬の知覚。
思考を巡らせてなどいない。
私の身体が勝手に反応した。
ノエル嬢を失うなんて、許しがたい。
「伏せろ!」
私はノエル嬢を庇い。
その直後、背中に矢を受けた。
何たることだ。
ようやっと理想の伴侶を手に入れたかと思ったのに、ここで死ぬのか。
私は焼けるような激痛に背を丸めながら、胸の辺りに異変を感じた。
人形がびくびくと動いている。
「ヌッ!?」
背中の激痛は時間を遡るように薄れ、抜け落ちた矢が地面に転がった。
「キャァァァァァァァァァァァーッ!」
「狼藉者の襲撃だぁー!」
「ヒィッ! アルベール殿下!!!」
劇場のエントランスホールで事件を目撃していた客たちが、悲鳴を上げた。
「殿下、不味いです。身代わり君が壊れました!」
ノエル嬢が小声で耳元に囁き、動揺する私を押しのけて、互いの位置を入れ替わった。
非力なはずなのに、驚くべき素早さだ。
地面に転がされた私は、ノエル嬢に押さえられて動けない。
信じがたい。
「ノエルー! 何をしている。キミが死ぬぞ!!」
「ご心配なく」
そう微笑むノエル嬢の身体に、数本の矢が付き立った。
思わず恐怖で息を吞む、凄惨な光景だ。
私の脳裏に、惨たらしく殺されたレオミュールの姿が浮かぶ。
可愛い幼馴染の切り刻まれた遺体。
母が襲われる場面。
「ノエルー! 死ぬな!!」
「くっ……。こんな矢で、わたくしを殺すことはできません」
「ノエル嬢……。やめるんだ。私の上からどいてくれ」
例えノエル嬢が不死身であろうとも、矢の付き立った姿を見るのは心が引き裂かれるように辛い。
笑いながら、私のせいで傷ついて欲しくなかった。
「大丈夫ですか? 殿下……!?」
「せっ、精霊の気配だ!!」
遅ればせながら駆け付けた、ヤーヴェとヴィクトルが大声で叫ぶ。
「「「「「ダッ……!!!」」」」」
私とノエル嬢の周囲に奇妙なヌイグルミの集団が現れ、四方八方に飛び散った。
残った数体が周囲を見回し、即座に光の魔法陣を組み上げる。
「うわっ……。すごい。どれも大精霊に劣らぬ霊格ですよ」
「それはヤーヴェが使う精霊より、強いのか……?」
「そんなもの……。比較になりませんよ。こいつら災害級ですよ。災害級」
ヴィクトルの疑問に、ヤーヴェが興奮した様子で答えた。
「大精霊……?」
間近に見れば、奇妙奇天烈なヌイグルミ集団である。
大精霊と言われても、私にはピンと来ない。
「あーっ。殿下のシャツが、台無しに……」
「おっ?」
ノエル嬢が場違いな声を上げて、私の襟元を寛げ、例のヌイグルミを引きずり出した。
「うぇっ。緑色のゲロを吐いてる……」
ヤーヴェが不快そうに、顔を引き攣らせた。
「毒ですね。殿下が背中に受けた矢は、毒矢だったのでしょう」
ノエル嬢が冷静な口調で告げた。
「なんだと!? 殿下、身体の具合は……? ノエル嬢、何の毒だ? 解毒薬は……」
「落ち着けヴィクトル」
「これが落ち着いていられますか?」
「私は何ともないんだが……」
そう。
背中の痛みは消え失せ、体調にも異常なし。
気持ちの悪いヌイグルミが、緑のゲロを吐いて動かなくなっただけ。
「身代わり……。本当だったんだ」
「マジかよ!」
ヤーヴェとヴィクトルは、驚きの表情で顔を見合わせた。
「エェーッ。皆さん、信じていらっしゃらなかったんですか?」
ノエル嬢が右手で握った人形を突き出し、不服そうに訊ねた。
私は己の身代わりとなった人形を間近で見せられ、その悍ましさに、つい目を背けたくなった。
「何を言うんだ、ノエル嬢。私はキミを信じていたさ」
「…………」
どうやら疑われているようだ。
だけどノエル嬢は、暫し唇を尖らせ、不満顔を見せた後で、唐突に微笑んだ。
私のスキルはノエル嬢の感情を伝えてくれるけれど、『なぜ嬉しいのか……?』が、何としても読み取れない。
どうしてノエル嬢の思考を読めないのか……!?
以前であれば、他人の真意を暴く異能力に、幾ばくかの煩わしさを感じたものだが、今はもう少し強くあれと願う。
ノエル嬢が何を考えているのか、無性に知りたい。
「ああ、あーっ。せっかく頂いた新しいドレスに、穴が……」
私は破れたドレスを気にして指先で弄るノエル嬢をしっかりと抱きしめた。
ドレスなんて、何着だろうと買ってあげよう。
だから、そんなに嘆かないでくれ。
「生きていてくれて、ありがとう」
「んっ?」
「いや。何でもないよ」
私はノエル嬢の頭部に、口づけした。
◇◇
襲撃者は五名。
内、三人がノエル嬢の精霊に仕留められた。
ノエル嬢を攻撃した相手は、ノエル嬢が身に宿した精霊の報復を受けて死ぬらしい。
あのとき精霊たちに捕らえられた二名は、王都守備隊の尋問官に自白を強要され、その結果として暗殺者ギルドの名を口にした。
これまで噂でしかなかった暗殺者ギルドが実在すると判明し、尋問官の報告書に目を通したドレフュス卿は、顔を顰めた。
やっと王都ロワイヤルからユストゥス教団を追い払ったかと思ったら、新しい毒蛇を見つけてしまった。
その気持ちは、察するに余りある。
しかも、その毒蛇が、第二王子の私を噛んだ。
ドレフュス卿にすれば、その場で首を括りたくなるような大失態だろう。
「警備の手落ち、まことに申し訳ございません。どのような処罰であろうと、甘んじて受ける所存」
「処罰かぁー。卿を罰したら、いったい誰に王都の治安を任せればよいのだ? 王都ロワイヤルは広く、外周部に近づくほど複雑に入り組んでいる。どれだけ取り締まろうと流民が侵入し、違法な建築物は増える一方。このような状態では、全てを完璧に掌握することなど、誰にも不可能であろう。王都守備隊の努力は、私も知っているつもりだ。それに今回は、近衛兵を遠ざけたアルベール王子にも非がある。よって卿の失敗は、処罰に値せぬ。しくじりの責任を取りたくば、今以上に精進せよ!」
「ははっ、フィリップ王太子殿下。慈悲深き、お言葉……。それがし、感謝に堪えませぬ」
フィリップ兄上には、ドレフュス卿を王都守備隊の統括責任者から外すつもりなどなかった。
それは沙汰を下すフィリップ兄上の横に立つ私も、同様である。
ドレフュス卿は信頼がおけるし、極めて優秀なのだ。
「だが、いいか……。暗殺者ギルドは、必ず潰せ。我が王都での狼藉、この上なく不愉快だ」
「畏まりました」
ドレフュス卿のこめかみに浮かんだ血管は、憤怒の証だろう。
王都ロワイヤルでも特に賑わう、劇場前広場にて実行された国家への反逆。
しかも狙われたのは、ロイヤルファミリー。
王都守備隊を嘗め切った、大胆不敵な犯行と言える。
どう考えたところで、容認はできない。
たとえ首謀者が高位貴族であろうと、死刑が妥当だった。
私だって腸が煮える思いだ。
ノエル嬢を殺そうとするなんて許せん。
依頼者も仲介者も、絶対に見つけ出して処す。
凍り付くような冷たい水に沈めるか、とろ火で炙るか……。
何れにせよ、只ではおかぬ。
◇◇
後日、私が擁する騎士団で、身代わり君ブームが発生した。
発生源は、言わずと知れた側近どもである。
「殿下、でんか……。ボクにも人形をください」
「俺も欲しい。殿下の肉盾となる役どころからして、一個や二個では足らんでしょう」
「我々にも、ノエルさまの護身具を配給して頂きたい。盾や鎧より信頼のおける護身具があれば、部下たちも、より一層、任務に打ち込めると言うもの」
現金な奴らだ。
ノエル嬢の異能力が本物だと分かった途端、手のひらを返しやがった。
主人を実験台に使うとか、こいつらこそ罰してやりたい。
「はぁー。ノエル嬢に、追加の人形を作ってもらうか」
それにしても。
この人形をチクチクと縫い上げた、ノエル嬢の美醜感覚が危ぶまれる。
「ウーム。ノエル嬢の作る人形は、少しばかりダーク過ぎやしないか……?」
私はノエル嬢の精神状態が心配でならない。
これは縫製技術と言うより、純粋に造形センスの問題だ。
「ノエル嬢に正しい美醜感覚を仕込んでくれる。そんな教師をどこかで雇えないものか……?」
多分きっと、そんな人物は探しても見つからないのだろう。




