第七話 悪役令嬢、王太子から求婚される
学院を卒業する日が近づいていた。
私は、相変わらず忙しい毎日を送っていた。
学院の勉強。
慈善活動。
家族との時間。
リリアーナとのお茶会。
そして、なぜか頻繁に顔を合わせるアレクシスとの時間。
彼は、以前にも増して私を気にかけてくれるようになった。
寒い日には温かい飲み物を差し入れてくれる。
公務で疲れているときには、無理をしないよう声をかけてくれる。
私が忙しそうにしていると、周囲に仕事を分担するよう提案してくれることさえあった。
「ジュリア。君は、すべてを一人で抱え込む必要はない」
その言葉に、私は思わず顔を上げた。
「……どうして、そう思われるのですか?」
「君は人のために尽くすことが得意だ。しかし、自分のことになると、少し無理をするところがある」
私は返す言葉を失った。
まるで、前世の私を見透かされているようだった。
「助けを求めることは、恥ずかしいことではない。君にも、休む権利がある」
胸が熱くなった。
この世界に転生してから、私は少しずつ変わっていた。
以前なら、誰かに頼ることをためらっていた。
自分が頑張ればいいと思っていた。
けれど、今は違う。
誰かと協力すること。
無理をしないこと。
自分の気持ちを大切にすること。
それらを、少しずつ覚えてきた。
ーーそして、卒業を目前に控えたある日。
私は王宮へ招かれた。
通されたのは、王族のための静かな庭園だった。
そこには、アレクシスが待っていた。
「ジュリア。来てくれてありがとう」
「殿下。お話とは、何でしょうか?」
彼は一度、深く息を吸った。
そして、私の前に跪いた。
「ジュリア・フォン・ローゼンベルク嬢」
「……っ!?」
まさか。
いや、待って。
本当に?
「私は、君を心から愛している」
アレクシスは、まっすぐに私を見つめていた。
「君の優しさも、聡明さも、強さも。人の痛みに気づけるところも、自分の功績を誇らないところも。私は、君のすべてを大切に思っている」
彼は、そっと私の手を取った。
「どうか、私の妃になってほしい。いつか王妃となり、私と共にこの国を支えてくれないだろうか」
私は呆然とした。
ゲームでは、ジュリアは最後に断罪される。
第一王子に求婚されるどころか、嫌われ、見放される運命だった。
なのに。
「……私で、よろしいのですか?」
ようやく出た言葉は、それだった。
アレクシスは優しく微笑んだ。
「君がいい。ほかの誰でもない、君がいいんだ」
涙が出そうになった。
私は、ずっと頑張ることでしか、自分の価値を示せないと思っていた。
仕事ができること。
人の期待に応えること。
役に立つこと。
そうしなければ、誰にも必要とされないのではないかと、不安だった。
けれど、彼は違った。
私が何を成し遂げたかだけではなく、私という人間を見てくれていた。
「……ありがとうございます」
私は笑った。
「私でよろしければ、喜んで」
アレクシスの表情が、ぱっと明るくなった。
「本当か?」
「はい」
彼は立ち上がり、私を優しく抱きしめた。
その腕の温かさに、私はようやく実感した。
自分は、もう一度人生をやり直しているのだと。
そして今度は、幸せになることを、自分に許してもいいのだと。




