第五話 聖女と呼ばれる悪役令嬢
学院生活が始まって半年。
私の周囲は、すっかり賑やかになっていた。
リリアーナとは親友になり、家族との関係も良好。
学院の生徒たちとも、以前よりずっと自然に話せるようになった。
私は、前世で身につけた仕事の段取りや問題解決の考え方を、この世界でも少しずつ役立てていた。
例えば、学院の図書室。
古い書物が乱雑に保管され、必要な本を探すだけで何時間もかかる状態だった。
そこで私は、司書に相談して分類方法を整理し、貸出記録も見直した。
「これなら、探している本がすぐに見つかりますね!」
司書は感動したように目を輝かせた。
「ジュリア様、ありがとうございます!」
また、学院の慈善活動では、貴族の生徒たちと協力して、地域の子供たちに読み書きを教える会を開いた。
最初は参加者も少なかったが、活動の内容をわかりやすく伝え、役割を分担したところ、少しずつ協力者が増えていった。
「ジュリア様は、本当に素晴らしい方ですね」
「え?」
「身分の低い者にも分け隔てなく接してくださるし、誰かが困っていると必ず助けてくださる。まるで聖女様のようです」
私は苦笑した。
「そんな、大げさですよ」
ーーしかし、噂は広がっていく。
『慈悲深き公爵令嬢』
『学院の聖女』
『身分を超えて人々を導く、光のような存在』
ついには、学院の生徒たちから本当に聖女と呼ばれるようになってしまった。
そして、ある日のこと。
学院の実習中、魔術の制御に失敗した生徒がいた。
暴走した魔力が周囲へ広がり、近くにいた生徒たちが悲鳴を上げる。
「危ない!」
私はとっさに駆け寄った。
魔術の細かな制御方法は、リリアーナに教えたこともあり、ある程度理解していた。
暴走した魔力の流れを見極め、周囲の生徒に避難を促す。
「皆さん、少し離れてください! 先生を呼んできて!」
そのうえで、私は実習用の魔術陣を使い、暴走した魔力を安全に逃がす方法を試した。
一瞬、眩い光が広がった。
そして、魔力の暴走は収まった。
幸い、誰も大きな怪我を負わずに済んだ。
「ジュリア様……ありがとうございます!」
助けられた生徒は、涙を浮かべて頭を下げた。
私は胸をなで下ろした。
よかった。
本当に、よかった。
誰かが傷つくところなんて、見たくない。
ただそれだけだった。
しかし、その場に居合わせた生徒たちは、私の行動に感動していた。
「危険を顧みず、真っ先に助けに入るなんて……」
「やはり、ジュリア様は聖女様だ!」
「公爵令嬢でありながら、あれほど人々を思いやれるなんて!」
私は思わず天を仰いだ。
「……だから、普通に助けただけなんですってば」
だが、その言葉を聞いて、周囲の生徒たちはさらに感動した。
「ご自分の功績を誇ろうともなさらない……!」
もう、何を言っても無駄だった。
そして、その様子を遠くから見ていたアレクシスは、静かに微笑んでいた。
彼の中で、私への想いは、いつしか尊敬だけでは説明できないものへと変わり始めていた。




