第四話 第一王子アレクシスは悪役令嬢を放っておけない
第一王子アレクシス・フォン・ヴァレンティア。
銀色の髪に、澄んだ青い瞳。
端正な顔立ちと優雅な物腰を持つ、王国中の令嬢たちが憧れる人物だ。
ゲームでは、冷静沈着で責任感が強く、誰よりも王国の未来を考えている王子として描かれていた。
本来のジュリアは、そんな彼に執着していた。
王太子妃になることを夢見て、彼に近づく女性を遠ざけようとする。
その結果、アレクシスからは嫌悪され、断罪の際には容赦なく婚約破棄を言い渡されるのだ。
だから私は、彼と距離を取ることにした。
挨拶はする。
礼儀も守る。
しかし、それ以上は関わらない。
それが、私の方針だった。
ところが、入学から一か月後。
私は王子本人から呼び止められた。
「ジュリア嬢。少し時間をもらえるだろうか」
「……はい?」
美しい顔が、目の前にある。
近い。
近すぎる。
「先日の孤児院への寄付について、詳しく聞きたい」
「ああ、あれですか」
私は思わず安堵した。
恋愛イベントではなさそうだ。
ゲームでは、ジュリアは王子の気を引くために慈善活動を行っていた。
しかし、私の場合は違う。
寄付金を渡すだけでは、一時的な救済にしかならない。
子供たちが将来、自立できるように教育環境を整える必要がある。
そこで私は、孤児院を訪問して職員から話を聞き、寄付金の使途を明確にする仕組みを提案した。
「子供たちに必要なのは、一時的な支援だけではありません。教育や職業訓練など、将来につながる支援も必要だと思ったんです」
アレクシスは真剣に聞いていた。
「なるほど。支援を継続する仕組みを作る、ということか」
「はい。もちろん、実際に運用するには現場の方々の意見も必要ですけれど」
彼はしばらく黙っていた。
やがて、柔らかく微笑んだ。
「君は、見かけ以上に現実的なのだな」
「見かけ以上に、ですか?」
「失礼。褒めているんだ」
その笑顔に、私は危うく見とれそうになった。
さすがは乙女ゲームの第一王子。
顔面偏差値が高すぎる。
しかし、私は首を横に振った。
「私は、ただ必要だと思ったことをしただけです」
「そういうところが、素晴らしいと思う」
……え?
今、何とおっしゃいました?
「君は、自分の名声のために動いているわけではないのだな」
「名声……?」
「多くの貴族は、善行を行うときでさえ、自分の利益を考える。しかし君は、救われる人々の未来を考えている」
アレクシスの瞳は、真剣だった。
私は少し困ってしまった。
実際のところ、私は処刑を回避したいだけなのだ。
悪役令嬢として断罪されないために、できるだけ善良に振る舞っている。
けれど、そんなことを正直に話すわけにはいかない。
「……誰かが困っているのなら、できる範囲で助けたいと思うのは、普通のことではありませんか?」
アレクシスは、ふっと笑った。
「君にとっては、そうなのだろうな」
その日以来、彼は何かと私に話しかけてくるようになった。
学院の行事で顔を合わせれば、必ず挨拶をしてくれる。
図書室で本を読んでいれば、隣に座ってくる。
慈善活動について意見を求められることも増えた。
そして、気がつけば、彼は私の好きな本や紅茶まで覚えていた。
「ジュリア嬢。これは君が以前、気に入っていると言っていた茶葉だ」
「……覚えていらしたのですか?」
「もちろん」
アレクシスは当たり前のように答えた。
「君の話は、興味深いからな」
私は内心で頭を抱えた。
これは、もしかして。
いや、まさか。
ゲームの主人公はリリアーナなのだ。
第一王子が惹かれるのは、本来なら彼女のはず。
私は悪役令嬢。
恋愛イベントなど発生しなくていい。
どうか、私を平穏な人生に戻してください。
そんな願いもむなしく、アレクシスの関心は、ますます私に向けられていった。




