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第三話 悪役令嬢、学院の主人公と友達になる

いよいよ、王立学院への入学の日がやってきた。

ゲームの物語が本格的に始まる場所だ。

そして、この学院で私は主人公リリアーナと出会うことになる。


「……緊張する」


馬車の中で、私は深呼吸をした。

前世では三十九歳だったとはいえ、今の私は十六歳の少女。


しかも、公爵令嬢という立場がある。

周囲の目もあるし、礼儀作法にも気を配らなければならない。


けれど、何より大切なのは、ゲームのシナリオを変に刺激しないことだ。

ジュリアは主人公に嫌がらせをしたことで、周囲から嫌われていく。

ならば、嫌がらせをしなければいい。

簡単な話である。

学院に到着すると、広大な中庭に生徒たちが集まっていた。


ーーその中に、私はひとりの少女を見つけた。

桃色の髪に、澄んだ青い瞳。

庶民の出身ながら、特別な魔力を認められて入学した聖女候補。


リリアーナ・ベル。

間違いない。

ゲームの主人公だ。


彼女は周囲の華やかな令嬢たちに囲まれ、どこか困ったように笑っていた。

私は少し考えた。

ここで無視すれば、ゲームのジュリアと同じように見えるかもしれない。

ならば、普通に挨拶をしよう。

私は彼女に近づいた。


「初めまして。リリアーナさん、ですね?」


「は、はい!」


彼女は緊張した様子で頭を下げた。

無理もない。

相手は公爵令嬢。

しかも、ゲームのジュリアは主人公をいじめることで有名な人物なのだ。

私はできるだけ優しく微笑んだ。


「ジュリア・フォン・ローゼンベルクです。これからよろしくお願いしますね」


「えっ……?」


「学院には慣れないことも多いでしょう。もし困ったことがあれば、遠慮なく相談してください」


リリアーナは目を丸くした。


「……あの、私に、ですか?」


「もちろんです。私たちは同じ学院の生徒なのですから」


その瞬間、彼女の表情がぱっと明るくなった。


「ありがとうございます、ジュリア様!」


なんだ。

普通に話せるじゃない。

私は内心で胸をなで下ろした。

その日の授業では、リリアーナが魔術の理論に苦戦していた。


彼女には強大な魔力があるものの、魔術の細かい制御が苦手らしい。

私は彼女のノートを覗き込んだ。


「ここは、魔力を一度に流し込みすぎているのかもしれませんね」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ。少しずつ流して、術式の形を整えるといいと思います」


前世の私は、ゲームの設定資料や攻略情報を何度も読み込んでいた。

そのため、この世界の魔術体系についても、ある程度の知識がある。

もっとも、実際に魔術を使うのは初めてなので、知識がどこまで役立つかはわからない。

リリアーナは私の説明を聞きながら、何度も魔術を試した。

そして、ついに小さな光の花を咲かせることに成功した。


「できました! ジュリア様、できました!」 


「まあ、素晴らしいですわ!」


彼女は嬉しそうに笑った。

その笑顔を見て、私も嬉しくなった。


ーーそして翌日。

学院内では、妙な噂が広がっていた。

『ローゼンベルク公爵令嬢が、平民出身の聖女候補を助けたらしい』

『身分を笠に着るどころか、親切に指導したそうだ』

『なんて慈悲深い方なのだろう』

私は廊下でその噂を耳にし、思わず足を止めた。


「……いや、普通に友達を助けただけなんだけど?」


しかし、噂は止まらなかった。

むしろ、広がる一方だった。

それどころか、リリアーナは私のことをすっかり慕ってくれるようになり、昼食にも誘ってくれるようになった。


「ジュリア様、一緒に食べませんか?」


「もちろん。今日は何を持ってきたの?」


「私、実家から送ってもらったお菓子があるんです!」


二人で笑いながら昼食を食べる。

それだけで、学院生活はずいぶん楽しくなった。

ただし、ひとつだけ困ったことがある。

リリアーナと仲良くなった結果、攻略対象である王子たちや騎士団長の息子たちまで、私に興味を持ち始めたのだ。


「……お願いだから、恋愛イベントは主人公のために取っておいて!」


私は誰にも聞こえないよう、小さく呟いた。

しかし、運命というものは、そう簡単には思いどおりにならないらしい。

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