第二話 悪役令嬢、家族との関係改善を始めます
転生して三日目。
私はひとつの結論にたどり着いた。
「まずは、家族との関係を改善しよう」
ゲームのジュリアは、家族に対しても傲慢だった。
父親には権力を振るうよう要求し、母親の忠告には耳を貸さず、兄には自分のわがままを押しつける。
その結果、処刑される際には誰も彼女を助けようとしなかった。
つまり、家族との関係を改善することは、バッドエンド回避の第一歩なのだ。
そう考えた私は、朝食の席へ向かった。
長いテーブルの向こうには、父、母、兄の三人が座っている。
父のヴィクトルは厳格な公爵。
母のエレオノーラは穏やかで優しい女性。
兄のセドリックは二十四歳で、すでに公爵家の仕事を手伝っている優秀な青年だった。
私は三人に向かって、丁寧に頭を下げた。
「お父様、お母様、お兄様。おはようございます」
三人の手が止まった。
「……ジュリア?」
父が怪訝そうに眉を寄せる。
「どうした。何か頼み事か?」
「いいえ?」
「では、何か失敗でもしたのか?」
「お父様、私は普通に挨拶をしただけです!」
思わず声が大きくなった。
しまった。
前世で理不尽な上司に言い返すときの癖が出てしまった。
私は慌てて姿勢を正す。
「失礼しました。今まで、きちんと挨拶をしていなかったと思いまして」
母が口元を押さえた。
「まあ……ジュリアがそんなことを言ってくれるなんて」
兄は父に小声で尋ねた。
「父上、妹に何かあったのでは?」
「医師を呼んだほうがいいかもしれんな……」
「だから聞こえていますってば!」
朝食の席は、なんとも微妙な空気になった。
それでも、私は諦めなかった。
家族が帰宅したら「お疲れさま」と声をかける。
母のお茶会にはできる限り参加する。
兄には公爵家の仕事について教えてもらい、わからないことは素直に質問する。
最初は戸惑っていた家族も、次第に態度を変えていった。
ある日の午後。
私は母と庭園でお茶を飲んでいた。
「ジュリア、最近はよく笑うようになりましたね」
母が優しく微笑む。
「以前は、いつも何かに苛立っているように見えて……母は少し心配していたのですよ」
その言葉に、胸がちくりと痛んだ。
本来のジュリアは、きっと寂しかったのだろう。
恵まれた環境にいながら、周囲に愛されていると実感できなかったのかもしれない。
「お母様。今まで、心配をかけてごめんなさい」
母は目を見開いた。
そして、私の手をそっと握った。
「いいのですよ。こうして話してくれるだけで、母は嬉しいのですから」
その温もりに、私は少しだけ泣きそうになった。
前世の私は、家族とゆっくり話す時間さえ後回しにしていた。
忙しいから。
疲れているから。
また今度でいいから。
そうやって、大切な時間を先延ばしにしてきた。
だから今度は、ちゃんと大切な人を大切にしたい。
その夜、父は食事の席で私に尋ねた。
「ジュリア。最近、何か困っていることはないか?」
「今のところは大丈夫です。もし何かあれば、相談させてください」
父は少し驚いたあと、静かに頷いた。
「そうしなさい。お前は私の娘なのだからな」
私は笑顔で答えた。
「はい、お父様」
その日から、ローゼンベルク公爵家の食卓には笑い声が増えた。
そして兄のセドリックは、妹が突然まともになった理由を調べるため、密かに使用人たちへ聞き込みを始めたらしい。
お願いだから、変な誤解だけはしないでほしい。
私はただ、家族と仲良くしたいだけなのだから。




