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14CASE2

 私は今日も暗い部屋で寝たきりの母の面倒を見ていた。齢七十の私が齢九十五の母の面倒をだ。私は一度も結婚しなかったから、ずっと独身だった。私は好きなように生きていたから夫を探さなかったのだ。つまり、子供がいない。だから、介護施設に入れるお金など持っていなかった。何度、母を殺したいかと思ったか。そんなある日、私たちの日常が変化した。私と母は空に浮遊した。私は天変地異をただ、茫然と眺めていた。社会が変わる。世界が変わる。常識が変わる。他人の目を気にしないできっと済む。だから、オーラを燃料として特殊能力が使えるというオプションが付いた時、私は私を恥じた。何故なら、齢九十五の母が若い姿で目覚めたからだ。私は泣いて喜んだ。

「ごめん」

「ごめんね。アイ。私のせいでアイの人生を潰してしまって」




「私は一年後に死ぬ代わりに肉体を若くしたの」

「そっか。・・・。うん。確かに死ぬ運命を変えるのはダメだしね」

「うん。寧ろ、より長く生きるように設定したぐらいだからね。私の運命はとっくに終わってたけど、アイの人生を燃料に生きてしまった」

「ホントだよ。私は母さんのせいで自由に生きれなかったんだから」

「遠慮ないね」

 私と母は久しぶりに笑って会話をした。私は神様がくれたこの瞬間に凄く感謝した。私は殺さなくて良かったと思う反面、母を介護してからの五年間は私も母も望んでいない五年間だったのだと思うと凄く切なくて悲しくてやるせなくて泣いてしまった。

「だって、私の五年間は社会のために消費されてしまってたんだなあって。私は社会に五年間殺されていたんだなあってさ」

「だね。でも、今は前を向いて見たらいいんじゃない?過去には戻れない。それに、社会は変わったんだから」

「だね。こんなくだらない後ろ向きな感情に私を殺すのは私が可哀想だ」

「フフフ。よくもまあ、死ぬはずだったババアに面と向かって言うもんだ」

「フフフ。でも、若返ってるから違和感しかないのよね」

「それもそっか」

 私は母とのこの再開はとても心が弾んだ。でも、そろそろ、この新世界に向き合わなければならない。

「とりあえず、この一年間は私は母さんと過ごすよ」

「うん。終わりが決まった終活を手伝ってよ」




 私と母は久しぶりの楽しい会話を楽しんでいたが、周りはそうとは言えない。なぜなら、私と母もそうだが、混乱しているのだ。落ち着かない。だから、ザワザワずっとしている。私と母は二人のリーダー?にたくさんの他人が集まっていたから自然と足を運んだ。二人のリーダー?は有名政治家だった。一人は勇退したもと政治家。もう一人はその子供で現在財務大臣をしている政治家だった。二人は混乱しながらも、必死に周囲の混乱を抑えようと舵を取っていた。どうやら、オーラを纏って声を響かせていた。

「私も混乱しています。皆、混乱しています。だから、一度、皆さん。大きく深呼吸をしましょう。一人の混乱が数珠繋ぎで広がってしまいます。大きく深呼吸をしてください」

「皆さん、私たちは混乱するなとは言っていません。混乱を表に出さないように一緒に頑張ろうと言っているのです。そうでないと、私たちはこの環境に適応できません」

 さすが、政治家なだけあって理路整然としていて、演説も上手だった。彼らの手も震えていた。だから、私たちは指示に従った。そうして、ある程度、静まって、皆が落ち着いてから、お父さんの方の元政治家がよく響く声で喋った。

「私たちは今、私たち政治家ができなかったホントの意味での平等が為された状態にいます。おそらく、こんな天変地異は神が怒って起こしたものでしょう。私たちの政治家の責任だ。大変申し訳ない。だが、今は、この環境で生き抜くために皆で協力しましょう。私たちは平等になった代わりに分かりやすいアイデンティティーを得ることができました。オーラを燃料とするシックスセンス。ファンタジーが現実に起きています。私はこれは大変危険な力であると考えると同時に一人一人の個性が表面化して今後築く社会に必ず良い影響が生まれると考えています。だから、私たちは新世界にできる新社会の礎を作るために頑張りましょう。頑張って頑張って生き抜いてやりましょう!」

 指揮が上がった。周囲の人の不安がこれからの希望が大きくなったことで感じなくなった。私はこの政治家の手腕に脱帽した。でも、同時に悲しくなった。


 どうして、この手腕を私たち国民に生かしきれなかったの。どうして、どうして、票集めのために無駄に老人の死を遠ざけたの。健康寿命がとっくに過ぎても生かし続けたの。私も母さんも何のために生きているのか分からない日々を送らなくても良い様にどうしてできなかったの。


 そんな私の心境を見抜いてか、あるいは、共感してか母は私の手を強く握った。どうやら、私は涙を流していたみたいだった。




 二人の政治家を中心に私たちは団結することとなった。皆、それぞれ、自分で考えて欲しい能力を手に入れて行った。私は長年趣味で嗜んでいた茶道を何らかの形で実用したかったが、止めた。私は一度食べたものの種を生成するシックスセンスにした。後世のために尽くそうと考えたのだ。私は団結したメンバーが作ってくれた家に母と二りでゆっくりと寝転んだ。ベッドも作ってくれたためゆっくりと安らぐことができた。

「ねえ、折角だから、話しに行くのはどう?」

 母は私の顔を見て微笑んだ。

「アイ。折角、ぶつけられるんだよ。ぶつけに行こうよ」

「母さん」

「私も腸煮えくり返ってるんだよ」

 母は、若返った顔の母は肉体が若返ったからか、表情が旧世界の寝たきりの時よりも断然表に出ていた。明らかに憤怒していた。




 政治家二人はたくさんの他人を落ち着かせに回っていたようだった。だから、向こうから私たちの家に来た。

「一緒に頑張りましょう。私たちも不安でいっぱいです。どうか、死を早まることはしないでください」

「何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってください」

 玄関で、政治家二人と立ったまま、私たちは話していた。私は勇退した政治家の三つ下だった。つまり、七十三歳だ。

「では・・・」

「どうして」

 母が憤怒を表情に出して静かに感情を抑えるとうに言った。

「どうして、寝たきりの老人を殺す許可を与えなかった?私は、娘と、アイと仲が悪くなって、娘は私を殺そうとまで考えたんだぞ。五年も、五年も、お金を急激に使い、最低限の生活消耗品も買えない日もあった。支援が行き届かったのは悪かった、なんて言うなよ。どうして、精神を消耗する日々を私たちに強いてまで、老人を生かしたんだ!」

 母は溢れ出る感情を抑えきれずに徐々に怒気を強めて叫んでいた。肉体が若返っていたため、思わず体が身震いするほどの迫力と力強さがあった。政治家たちもたじろいでいた。やがて、現役の息子の方が話そうとしたが、勇退した方が、手を出して息子を制しすると一歩前にでてゆっくりと話した。

「私が現役の頃は、治療を施せば生きれるならとにかく生きなければならない。だから、多くの老人に施さなければならない、という考えのもと奔走していた。だが、政治家を止めて普通の老人になった時、私は急激に老いを感じて身体にもガタが出て来た。肉体の方は肩こり、腰痛が酷くなり、前から問題だった心臓の方も更に悪くなって来ている。そして、何より深刻だったのは、精神の消耗だった。外との関りが極端に減って私は妻がいたが孤独を急速に感じた。だから、偶に外に出ると、どうしても謙虚さを忘れて態度がついついデカくなってしまう傾向になった。今日、息子と一緒にいたのもその私の変化を注意されたからなんだ。だからこそ、分かる。俺は医療機関の死へのハードルを低くするべきだったと。だが、俺は、政治家としての私は、世の中の反発者を、社会の地位を守るために中立のことしか言わない有名人に負けた。私は自分の地位を守るために屈してしまった。日本という国は国を掲げて宗教というものを表立ってはしていない。だから、ある程度年を取った健康に生きれない人に対しての安楽死ぐらいなら認めるように奔走するべきだったと今にしては思う。私の専門は経済だ。国のお金を管理するために、増やすために財務大臣の職務を全うしていた時、老人を使ってお金を吸い上げて来ていた。老人の方が人口が多いために、老人に目を向けた政策を謳い票を集めて反映して来た。誰しもが感じる死の恐怖を利用して謳った。だが、実際に死に近づくと俺はこんなものは負の蟻地獄で正の気持ちに向くことのできない底なし沼だと分かった。俺は俺の老後を苦しめていたのだと分かった。俺が必死に作っていた競争社会の行きつく先は圧倒的孤独による死。お金のない人たちからしたら、家族への圧倒的罪悪感、国への憎悪を感じて死ぬ人生の終わりだったのだと気付いた。だから、俺はこのフロンティアの先にある新世界で旧世界と同じような苦しみが怒らない社会を、残りの命を燃やして提示して見せる。それが、俺の中に生まれている罪悪感への唯一できることだと信じて」

「・・・親父」

「ふざけるなよ。私の娘に、アイに、私を殺させようとするぐらい追い詰めた国の犬が今更気付いて。ふざけるなよ。ふざけるなよ・・・」

 母は私のために怒って泣いて崩れた。私も涙でボロボロだったが、唯一、これだけは言って置きたかった。

「必ず、作ってください。必ず。私は、私の自由を失いました。私は、私らしく生きることができなくなりました。母さんは母さんらしく生きれない生活を、息抜きを自由にできずに行い続けました。どうか、私たち人間の、貧しい人間の本当の真意を見てください。もう、遅いですけど。・・・・・・。帰ってください」

「すまなかった」「すみませんでした」

 私は、私と母はこの二人だけのせいではないと分かっている。でも、溢れ出て来る感情を抑えることができなかった。尚も、私と母は心に憤怒を抱えている。だが、私と母は、もう、先の短い人生だ。この感情に蓋をすることを決めた。もう、世界は変わり、私たちの生きていた社会は無くなってしまったのだから。



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