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15CASE3

 俺は今日も目の前のパソコンをずっと打っていた。本気で終わらそうと思ったらすぐに終わらすことができる。だが、敢えて時間ギリギリに終わらないようにゆっくりとやっていた。簡単だ。少しでも残業時間を増やしてお金を家に入れるためだ。毎日三時間は最低でも残業をしていた。今日も、そのつもりで、ゆっくりとやっていたら、俺は、否、全生物は上空に浮遊させられた。俺はビルをすり抜けて上空で浮遊したまま。世界が、地球が天変地異で変わって行く様を見ていた。俺はとうとう、仕事中に眠ってしまったのかと思った。

 天変地異が終わり、俺と同じフロアに、同じビルにいた社員たちは森の中にいた。樹の一本一本が太く長かった。俺はただ、茫然と自然を眺めていた。

「神が怒ったんだ」

「私たちが何をしたって言うのよ!」

「僕は、僕はこれからどうやって生きれば・・・」

「クソッ!」

「・・・家族。息子を迎えにいかなきゃ!」

 嘆き、絶望、激昂、心配、不安、などなど負の感情が次々に溢れ出してすぐにザワザワと混乱が拡がり伝染した。

「確か、オーラ、ファンタジーの力を使えるってなってたな」

 俺は冷静に思考していた。俺は天変地異に負の感情を持っていなかった。毎日、息子の寝顔しか見れない生活に嫌気が差していた。息子の教育への投資に余りにもお金が掛かり過ぎたからだ。私立の小学校に通った息子が学校で置いて行かれないように塾に通わし、息子はサッカーをやりたいと言うからサッカークラブにも通わせていた。とてもじゃないが、共働きでもお金が足りなかった。俺はそんな生活を成り立たせるために俺を犠牲にして馬車馬のように休むことなく働いた。

「これからは、三人で楽しく暮らせるんだ」

 俺はシックスセンスとやらの力で瞬間移動をして息子の元に向かった。




「あなた」「パパ」

 俺が瞬間移動で息子の元に着いた時、妻もいた。おそらく、塾への送り向かいのために一緒にいたのだろう。小学四年生になって中学受験のために授業数が増えた。これが、ここ最近、俺が更に働くことになった原因だった。だが、

「そんな社会は壊れた。もう、俺を殺さなくて良いんだ」

「あなた?」「パパ?」

 俺の小さな独り言に息子と母が上目遣いで見つめて来た。俺は笑顔を作ってネクタイを外して捨てた。そして、無精髭を撫で回して両頬を叩くと気合を入れた。

「大丈夫だったか?」

「うん」「ええ」

「あなた、何が起こったの?」

「俺に聞かれても困るさ。こんなの誰も予想できん」

「そ、そだね」

 妻は息子の前だから、必死に取り繕っているが、不安が隠し切れていなかった。息子と繋いでいない手は震えていた。だから、俺は妻と息子の手を握って輪っかになった。

「三人で協力し合って頑張ろう」

 妻と息子は俺の手を強く握った。だから、俺も負けないぐらい強く握った。

「「痛い」」

「悪い悪い。でも、これは夢じゃないみたいだな」

 俺は笑った。気丈に振舞って安心させるためでもあるが、単純に仕事から、お金から解放された喜びから高揚していた。

「久しぶりに見たわ。あなたの笑顔」

「僕も」

「そうか?そうだな。そうかもな。俺も久しぶりに笑った気がするよ」




「さて、ママが異空間の家を作ってくれたからなあ。純一。どんな力が欲しい?」

「うーん。僕ね、なんか、グイッと曲げたい。バッサーみたいにドライブシュートが撃てる感じに」

「そっか。じゃあ、それをイメージして見たらどうだ?」

「イメージ。そっか、イメージかあ」

「多分だけど、曖昧にイメージした方が色々と曲げれるぞ」

「ホント?」

「うん。多分だけど」

 俺は久しぶりに息子と話せて心が弾んだ。妻は今、キッチンで冷蔵庫を開けて食料を取り出した。どうやら、家という概念でシックスセンスをイメージしたところ、トイレ、お風呂、流しなどの水回りはもちろん、電気、家具もきっちりとついて来た。そして、何よりも良かったのはーーーー

「食べ物もイメージしたら出て来て良かったな、ホント」

「そうね。これで、生きていくのには不安がないわ。後は、外との交流ね」

「だな。ちょっと、俺、外の様子見て来ようか?」

「うんうん。多分、テレビ付けたら様子は見れるんじゃないかな。リモコンを押して見て?」

「ああ、そっか。そうだったな」

 テレビはさすがに地上波放送はやっておらず、代わりに外の様子を映し出していた。リモコンは電源ボタンと矢印が上に向いているボタンと下に向いているボタンと一個ずつあった。それと、音声ボタン。普通とは違うリモコンだったため、外の様子を見ることができるんじゃないか、と判断したのだ。電源を付けて見た。すると、俺のオーラが微量に吸収されていた。

「おっ、映っ・・・」

 衝撃だった。殴り合い、喧嘩をするぐらいのレベルならまだしも超常現象の力を使って殺し合いが起きていた。俺は急いで息子の両目を片手で覆った。そして、すぐにチャンネルを変えるようにボタンを押した。混乱はしていたが、少なくとも殺し合いは起こっていなかった。

「どうしたの、パパ?」

 キッチンにいた妻はテレビから聞こえた音を聞いて焦ったが息子を焦らせないように落ち着いた様子で何事もなかったように聞いた。俺はテレビの電源を消して妻の元に駆け寄った。

「殺し合いをしてた」

「っ!?そ、そう」

「ちょっと、俺、外に行って来ようかな」

「えっ⁉どうして?」

「親戚連中をここに連れて来た方が安心だろう?」

「うっ、うん。でも、外は危ないんでしょ?」

「大丈夫。テレビがあるから。ちょっと、純一と部屋移動して遊んでて」

「無理しないでね」




 妻と息子は隣の寝室に移動した。俺はソファーに座ってため息を吐いた。

「優しすぎるな、相変わらず」

 俺は怒れない。違うな。俺は俺を主張しない。常に状況を俯瞰して見てどう立ち回ったら良い方向に繋がるかを考えるように擦り込まれて教育を受けて来た。俺は所謂ゆとり世代って奴だ。皆、一緒がいいねという教育だ。だから、俺は目立たないように周りを見て合わせるように立ち回って来た。いつも、俺を殺して来た。だから、俺の自己犠牲で全体が上手く回るなら何の迷いも無しに動いてしまう。俺は一度、妻に言われたことがある。

「純一、学校で成績が良い方だから、塾はいいんじゃない?」

 妻は俺の体を心配して言ってくれた。毎日夜遅くに帰って来て、残り物の晩御飯とロング缶のビールを一杯飲んでシャワーを浴びて寝る生活に心配して。実際、息子は学校での成績が良かった。だから、俺は妻の提案に乗ろうと一度思った。だが、すぐに止めた。もっと、長いスパンで見た時に、息子の成績が下がってしまうと。まだ、息子は勉強の習慣を身に着けていないし、何より、質の高い教育を受けることができなくなってしまう、と。塾は学校と違い、個人に合わせる。だから、俺は休みたいという俺の心を殺して無理やり笑顔を作って答えた。

「いや、将来的に見た時に、下がっちゃう。それに、俺は、まだまだ、元気だよ」

 俺は二の腕の筋肉を見せて答えた。だが、妻の顔は晴れなかった。

「笑えてないよ」

 俺は頬を掴んで引っ張ったり、つねったりして表情筋を解した。

「長いこと、楽しい喋りをしてなかったからかな。俺は大丈夫だよ」

 俺は話を切り上げて仕事に向かった。

 そんなことを思い出しつつ、俺はリモコンの電源を入れた。音量をかなり、小さくして。

「やっぱり、俺の意思を反映したところを映してくれている?」

 俺はまず、母と父をイメージした。そして、ボタンを押すと案の定、白髪姿の母と父がトレーニングウェアを着て茫然としていた。両親は長生きをするために二人仲良くジムに通っていたのだ。

「ははは。ちゃんと、鍛えてるんだな」

 俺は久しぶりに見た両親の姿に思わず頬が綻んだ。俺は瞬間移動をして迎えに行った。




 俺はある程度、仲の良い親戚を全員迎えることができた。妻は人数が増えるのに合わせて部屋を増やしていた。だが、ここで、問題が起きた。

「私の友達もお願い」「先輩を助けて欲しいんだ」「同僚の友達を助けて欲しいの」

 次々に依頼が来たのだ。俺は失念していた。人を助けると言うことは数珠繋ぎのようになってしまうと言うことに。

 俺は失敗した。でも、一度した以上、責任がある。俺は断ることができなかった。何度も瞬間移動をしては助けて、助けたい人を聞いてを繰り返した。


 情けは人のためならず。


 他人にした善行は巡り巡って己に帰って来る、という意味だ。俺は、この言葉を信じるしかなかった。

 俺は毎日睡眠と食事以外は人助けをずっとしていた。俺が人助けをして良かったことはたくさんあった。人が増えるということは、多種多様なシックスセンスがあると言うことで、生活レベルが上がるようになっていたのだ。俺は情けないことに一週間後ぐらいに気付いてしまった。


 あれ、俺、旧世界とおんなじことしてるじゃん。俺は家族三人で仲良くしたかっただけなのに。


 この事実に気付いてしまった俺はストレスが溜まり、体に表面化するようになってしまった。

「どこかで、止めないと」




「ねえ、三人で夜逃げしない?この異空間はこのままにして、新たな異空間を作ってさ」

 妻が俺に提案してくれた。俺はこの提案を受け入れて今すぐにでも逃げたかった。でも、俺たちだけが逃げるなんてそんなこと許されないよ思った。俺たちがいなくなると俺たちが助けた人たちを不安にさせてしまうんじゃないかと。だから、また、断ろうと口を開こうとした時、妻にキスをされた。久しぶりのキスだった。

「素直になってよ。無理しないで」

 妻は涙を流して俺の目を見て訴えて来た。俺は心がギュッと掴まれた。ドクドクと心臓が強く跳ねていた。俺は俺が始めたことを中途半端に止めることは許されないと思った。

「ごめんね。あなたは優しいから、求められたことを何でもしちゃう。私が無理やり止めさせてあげる」

 妻は壁にインターホンのようなものを出現させた。そして、ボタンを押すと叫んだ。

「夫は限界です!私はもう見てられません。逃げます。ごめんなさい」

 妻はもう一度、ボタンを押すと笑って俺の腕を握った。そして、歯を見せて笑った。

「私があなたの言いたいことをこれから、代弁する。無理してるって思ったら止める。あなたは全人類のヒーローなんかじゃない。私の夫で、純一のパパ。それだけの人だよ。だからさ、我慢しないで」

 俺は大事な人に、妻に俺の心を、凝り固まった我慢しようとする意思をぶん殴られた。俺は泣いてしまった。男なのに。一家の大黒柱なのに。

「じゃあ、行くよ、パパ。純一が待ってる」

 妻も俺の泣いている姿を見て泣いていた。俺は、この新世界で俺を絶対に変えたいって思った。二度と、大事なものを優先できない人にならないように。

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