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王の花嫁  作者: 川本千根
29/50

鳥湖のためではない

旅を終えられた王は国境付近の砂を持ち帰られた


帰ってきてからは政治所にこもられている

宰相のトウゴ様、土木工事を担当するルベル様、財務担当のユジン様他数名の重鎮たちと


もう何日も王宮に帰っていらっしゃらない

こんなに近いのに


王の髪は神官が結っているのだろう




私とユキ様とサリさんはお昼のあとそれぞれのお付きの方たちと王宮の中庭にいた


その日は私の付き人をしてくれているナミさんのお誕生日だったので、私は厨房で木の実の入った焼き菓子を作り、王には内緒で作ったたんぽぽの根っこのお茶を皆さんに振舞っていた


少し遅れてリオス様がいらっしゃって、一緒にナミさんのお誕生日を祝って下さった


さてそろそろお開きにしましょうと食器を片付け始めた


そのとき


「サリ、サリはいるか」

中庭にカエン様が早足で入ってこられた


そのご様子で私たちはお仕事のお話だと思い席を外そうとしたけれど間に合わなかった



サリさんは王に走り寄り傅いて正式に王の話を聞く姿勢をとった


「サリ、地図を作る青国の」


「はい」


「今ある地図を持ってお前は西の地域に行け」

「そこで各村長たちとともに、青国に住んでいた時の記憶のあるものに会い、記憶の全てを聞き出して正確な資料を作れ」


「降った雨の量、砂の粒の大きさ、生えていた草の丈まで記入しろ」

「詳しい説明は明日の朝政治所で総務のイチカに聞け」


「3日後に出発だ」


「はい」


「人から話を聞き出すのにお前の美貌と人柄が役立つ」

「供にフェイの孫のシャリアと武官二名をつける」

「三年以内に調査を完了させ戻ってこい」



ここまでの話で私たちは充分驚いてしまったのだけれど

そこからの王の言葉はさらに皆を驚かせた


「よいか、サリ、シャリアは良い男だが好きになってはいけない」


もしこれがアナン王の発言だったら皆冗談だと思い笑いが起きたことだろう

だが、発言の主はカエン様なのだ!



「青国への移動が終わり、人々の暮らしが安定するまでお前は結婚してはならない」


「はい」


鳥湖の娘は二十歳前後で皆結婚する

青国への移動は9年後だ

19歳のサリさんにとって移動が終わるまで、安定するまでというのは一生結婚するなというのに等しい


それに対してサリさんはサラリと答えた


「はい、私は鳥湖のために全てを捧げます」


「鳥湖のためではない」

と王は言いい中庭を出ていった


最初から最後まで抑揚のないいつも通りの王の話し方だった

が、その内容に皆あっけにとられてしまった




鳥湖のためではない


鳥湖のためではない…


…私のために?


ハナにはそれが王の、サリへの愛の告白に思えた





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