二度目
私はあの後どうしたのか憶えていない
気がついたら自分の部屋にいた
まさか泣きわめいたりしていないだろうなと、心配になったけど、ユキ様の話だと私はカエン様たちにに向って
「大丈夫、これはお父様の魂だから刺したりしないわ」
と言ってほほえんだらしい
次の日の朝、髪を結っている時、カエン様は
「ハナ、サリはあの蜂に刺されたことがあるのだ、二度目は危ない」
とおっしゃった
珍しい…カエン様が髪を結っている最中に口を開くのは
わかります、あの蜂が危険なのは
私も去年刺されましたから
家の裏山にあった無花果の実をもぎっている時に
刺されたあとめまいと動悸がしてなんとか家にたどり着いたものの、上り口の土間で体が動かなくなって倒れてしまいました
婆さまが亡くなった後だったので、看病してくれる人もなく、私は土間に転がったまま三日間過ごしました
ひどい頭痛と喉の渇きに苦しみながら、ただ獣のように丸くなって…
もちろんそんなことは言わず、ただ「はい」と答えた
髪を結い終わったあとカエン様は振り返り
「すまなかった」
とおっしゃった
きっと誰かに何か言われたのだろう
サリさんかもしれない
動悸がして目頭が熱くなってきた
いやだ!泣きたくない
私は一世一代の芝居を打った
「いえ、あの蜂はほんとうに二度目が危ないのです」
「一回刺されると体に抗体が出来てしまい、次に刺された時ひどいショックを引き起こすことがあります」
「私も薬師時代救えなかった人がいました」
「カエン様は正しい判断をされました、どうぞお気になさらずに」
と言って、ゆったり微笑んでみせた
カエン様は私をじっと見つめていたけれど、しばらくすると黙って部屋を出ていかれた
泣けばよかったのかもしれない
泣けばきっとカエン様は私を抱き寄せてくれただろう
だけど!
私の涙をあの人に哀れんでもらいたくない
私のことを可哀想に思って抱き寄せてほしくない
同情されるのは大嫌い
同情されるなら無視されたほうがいい
嫌われたほうがいい
最初にカエン様に心惹かれたのは身の上話をしたあの日、カエン様が一言も同情を口にしなかったから…なんだ…もの…




