蜂
二匹の蜂が私に真実を告げにやって来た
お父様が亡くなって10日後、湖で内輪の供養の儀式を行った
私たち家族とトウゴ様の代理のサリさん、数名の神官で
その帰り道
湖から王宮までのその一本道は馬車がやっとすれ違えるほどの道幅しかない
花嫁選びを行った広場はこの道の一キロほど西にある
そこに王宮のテントを設置すれば広々していいのにと私は思うのだけれど、湖からの他の湖族の攻撃を恐れてあえて細い道しか通じていない今の場所を選んだらしい
どんなに時間が経っても他の湖族への警戒は解けないのか…
この道は畑の中にある
一カ所だけ両側が果樹園になっている場所があった
そこは低い石垣があって柑橘系の木で鬱蒼としている
ちょうどそこに差しかかったときだった
私とユキ様とサリさんは並んでお父様の思い出話をしていた
二メートルほど前をカエン様とリオス様は、弔問に訪れるであろう南の大陸の使節団の受け入れについてお話しされながら歩いていた
神官の方たちは私たちのずっと後ろを歩いている
私の前に東側の果樹園から二匹の蜂が不気味な羽音をたてて飛んできた
その蜂は朱国特有の黒い大きな危険な毒蜂だった
羽音に気づいたカエン様は、はっと振り返り右手でマントを広げ、サリさんに走りより身体を引き寄せその中に隠した
一瞬のことだった
ユキ様や私には目もくれずカエン様は…
ああ
ああ、そうか
そういうことだったのか
私は難しい文章問題の本当の答えに気づいてしまった
回答者をわざと間違えさせようとする意地の悪い文章問題の罠にまんまと引っかかった末、今やっと本当の答えにたどり着いた
カエン様がお父様と距離をとっていたのはお父様がお嫌いだったからではなく、お父様に頼りたくなる自分を隠すためだったのだ
カエン様は自分の中にあるほんの少しの甘えもお許しにならない
お父様が亡くなられた時、私に髪を結わせたのも、心を整える時間が欲しかったからなのだ
まだお若いカエン様にとって父王を亡くすことがどんなに辛く心細いことだったか
この鳥湖を一人で導いて行かなければならなくなったことが…
自分の心を常に平静に保ちたいカエン様は好きなものと距離をおいてしまう癖があるのだ
あの日、真面目なサリさんが爪を染めたのを見て、カエン様はその娘らしい心を可愛らしく思われたに違いない
それに戸惑ってあんな感情的に叱られたのだ
よくカエン様はハナは賢いと言ってくださるけど、それは私になんの感情も持っていないから言える言葉
あの蜂蜜もほんとうはサリさんにあげたかったのではないだろうか
でも好意を持っているサリさんには性格の癖で差し上げられなかった
私に優しくして下さったのはカエン様の感情ではなくカエン様の意思の力
王として神の選んだ花嫁を大事にしなければならないという思考の末の…
多分カエン様は今のようなとっさの場合にのみ感情による行動が出てしまう
カエン様は静かに静かにずっとサリさんを想っていたに違いない
…こうして突き落とされるために、私は金色の輝きに導かれて高い梯子を登っていた
ただ突き落とされるためだけに
金色は
いつも
私に
悲しみを与える




