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王の花嫁  作者: 川本千根
23/50

それからの私は幸せだった

何をしていても楽しくて


私は自分の姿形を忘れ、自分の為に不幸になった肉親を忘れ、過去に人を陥れようとしていたことも忘れ王宮での暮らしを楽しんだ


毎朝カエン様の髪を結い、昼過ぎにはユキ様とお父様のお見舞いに行き、神学の授業の帰りはリオス様と語り合った


さらに私にはうれしいことがあった


フェイ様がお父様のお見舞いにいらした時、私のことを褒めて下さったらしい!


「フェイがハナはどんな事でもすぐ覚えてしまうと言っていたぞ」

「ただ頭がいいだけではなく覚えようとする気持ちが素晴らしいと」


お父様からその話を聞いて私はフェイ様が大好きになった

こっそり褒めてくださるなんて…


うれしい、ここでは努力すればちゃんと認めてもらえる


幸せだ




その後少し浮かれすぎてカエン様のお目玉をくらう事件があった


夏は日中テントの中が蒸れるので、ユキ様とサリさんと私は外の風の通る所でお昼を食べようと、政治所の建物の裏にある大きな欅の木の下に敷物を敷いて、パンに加工肉を挟んだものを食べていた


ちょうどそこへ王宮に帰るカエン様が通りがかった


「お兄様も一緒にいかがですか」

とユキ様が声をかけた


ちらと視線を向けたカエン様はつかつかとこちらに向かってきて、パンを持っていたユキ様の手首を掴んだ


「ユキこれはなんだ」

カエン様の視線はユキ様の爪に注がれていた


実は前の日、私がユキ様とサリさんの爪を花の汁で染めてあげていたのだ

自然な淡い桃色に


それをカエン様に見咎められてしまった


「ユキ、お前は私やリオスにもしものことがあったら祭事を行わなければならない」


「供物を捧げる手を汚してはいけない」


どうしよう!私のせいで…


「申し訳ありません、私がお二人に染めて差し上げました」

と頭を下げる私に


「ハナ、遊びが過ぎる」


サリさんには

「サリ!お前までなんだ」

と珍しくきつくおっしゃって王宮に戻られた


サリさんは別にいいのではないだろうか

神事に関わることは無い


監督不行届を注意されたのだろうか



ユキ様とサリさんに申し訳ないという気持ちと、小さな疑問が胸に残った







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