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王の花嫁  作者: 川本千根
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怒られてしまうな

王宮で暮らすようになって私が驚いたのはその質素な暮らしぶりだ


住居のテントこそ大きいが中の家財に特に贅沢なものはない

ただ必要な家具があるだけだ


食事の質素さにも驚いた

主食であるパンや米の他におかずが一品あるだけだ

あとは豆のスープ


そしてその内容は王宮で働く人の食事と全く同じものだ

量も決して多くない

デザートとして果物が出ることもほとんどない


王に至っては祭事のある日は動物性のものをお取りにならない

いったい何を持ってあの中肉中背のお体を保っておられるのだろう

何をエネルギーにあの激務をこなしておられるのだろうと不思議でならない


お父様が大きな病気もなく命が尽きようとしているのは長年の栄養不足がたたっているのではないだろうか…


サリさんが王の一族は決して贅沢はなさらないと教えてくれた

移動の時や飢饉の時のために国庫からの出費は極力抑えておられるとのこと


特に次に移る青国では食物事情が悪いのである程度は輸入にたよならなければいけない

湖族同士の交流は一切なく、その時の貿易相手はやはり南の大陸と青国の東に広がる砂漠を超えた海辺の国なのだと教えてくれた


私はあれからもお父様に呼ばれてお部屋を訪ねることがある


たまたまそこにユキ様がいらしたことがあって、お父様のお見舞い自体をカエン様に黙っているのは不自然だと思い、ある日言ってみた


「今日お父様のお見舞いに行ってきました」

「気分が良さそうで色々お話して下さいました」


事実お父様は最初にお目にかかった時よりはずっとお元気になられた


「そうか、ありがとう」

「だか、あまり疲れさせないように」

カエン様にお礼を言われた


これで秘密が半分なくなった


気が軽くなった私は呼ばれなくてもお父様のお見舞いに伺うようになった


この方は私のことを嫌っておられない

そのことが私を安心させ、王宮での暮らしの拠り所になっていた


行くたびに、ハナ髪が生えてきたな、膿が引いてきたな、肌が治りさえすれば、お前は普通の鳥湖の娘だと励まして下さる


正直治りかけの皮膚が痒くてたまらないのだけど私はお父様の言葉を思い出して、掻くのを我慢している


湖にお祈りに行ったことを報告した日などは


「ハナ、今はまだ良いが真冬の沐浴は辛いぞ」

と言って私を脅した


「ああ、こんなことを言ったらカエンに怒られてしまうな」

と、お笑いになった


カエンに怒られてしまうな、はお父様の口癖なのだ


きっとあの日、口止めをされたのは私に食事の世話をさせたことを注意されると思ったからに違いない




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