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王の花嫁  作者: 川本千根
12/50

朝日

王の婚礼の披露の儀式は一切なかった

親族に対しても、国民に対しても


私はそれを自分の醜さのせいだと思った

カエン様にもともとそういうものなのだと聞いて少しホッとした


婚礼の儀式は一つだけだった

湖に浮かぶ神殿が建てられた小島に行き、湖の神に祈りを捧げたあと、神殿で結婚の報告をした


神殿は小さな建物であったけど、町にあるどんな建物よりも頑丈で凝った造りになっていた

その小島にはその神殿を守るための神官が二人常駐していた


祈りを捧げる前の沐浴で湖に入るときカエン様は

「ハナ、泳げるか」

とお尋ねになった


私は黙って深いところに泳いで行き、潜って湖の底の石を拾ってそれをカエン様に掲げた


「見事だな」

とカエン様はおっしゃってご自分も湖で沐浴された



カエン様、私は小さい頃から意地悪な人たちに笑いながら池や用水路に突き落とされてきたのです

私は泳ぎが達者でなければ生きてこれなかったのです




私は月に二回、カエン様と夜明けに湖の神様にお供物を持ってお祈りに行く

これは王と花嫁に課せられた大切な神事らしい


湖の水が冷たく、その前の沐浴が辛く感じる時がある


ただお祈りのあと、ちょうど朝日が射すころのカエン様のお姿が萎れた私の心を励ます


美しい


濡れた長い黒髪も

整った横顔も

湖に跪く姿も


何か遠くに見える神々しい山を思わせる


もちろんどこにいても、何時でもカエン様はカエン様の澄んだ美しさをたたえている

だけどこの生まれたばかりの日の光を浴びるカエン様を見ることができるのは私だけなのだ


私は美しいお人形を与えられた子供のように、心の中に小さな喜びを感じていた


湖から王宮への帰り道、ふとあの華奢な前国王様もこの儀式をなさっていたのだと思い、それが何かとてもお気の毒に感じられて、少し心が痛んだ






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