8、希望
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
7、悪
【“悪”とはなんだろう? 傷付けるつもりはないのに傷付けてしまったら、それは“悪”になってしまうのだろうか?】
【“今”は無理でも“いつか”は解決する、なんて保証は無い。それは二人共、分かっていたけど少しでも小さな希望にすがってしまった】
『ヒメ』
真剣な眼差しで私を見てくるカナヲ君。
『来てよ。この場所は俺でいられるから』
懇願するように言う可愛いカナヲ君。
『ありがとう』
私の守りたい笑顔を見せてくれたカナヲ君。
『待ち疲れた』
子供みたいに拗ねたような言葉でも、顔は嬉しそうに笑っている。
言葉と表情がチグハグなカナヲ君。
『俺だって、諦めたくはない!』
本当は抗いたいと心を見せてくれたカナヲ君。
私は、カナヲ君と過ごした日々を思い出す。
カナヲ君と過ごしてきた日々に、言葉に、カナヲ君の心を救うヒントはある。
カナヲ君の笑顔。
カナヲ君の優しい眼差し。
カナヲ君の本心の言葉。
「私はカナヲ君の笑顔を守りたい」
私の言葉を聞いた後、カナヲ君は目を見開いて驚いている。
だって、さっきまで泣きそうになっていた私が笑っていたから。
カナヲ君は私の笑顔を守りたいと思っている。
それなら笑っていよう。
カナヲ君が不安にならないように。
「ヒメ?」
「カナヲ君に、この場所をあげるよ」
「どういう意味?」
「辛くなったら、この場所で思い出してよ。私との時間を」
「ヒメ?」
「私はカナヲ君の笑顔を守りたいの。だから今は離れるしかないよ」
「分かった」
カナヲ君が、どんな表情をしているのか見たくはなくて私はうつむいてしまう。
「でも“今”は離れるしかないの」
「えっ」
「“いつか”必ず解決するから」
「ヒメ?」
「その時は迎えに来てよ」
私は顔を上げて元気に言った。
これならカナヲ君は心配なんてしない。
この場所ではカナヲ君は笑顔でいてくれる。
「うん!」
カナヲ君が笑ってくれた。
でも私は分かっている。
この約束が現実的ではないことを。
“いつか”なんてやってくるのだろうか?
カナヲ君は逃げられない。
これからもカナヲ君の環境は変わらない。
それでも私達は“いつか”が来ることを願っている。
“今は”そうすることしかできないから。
「ねぇ、カナヲ君。今日が最後なら、もう少しだけ時間をくれないかな?」
「少しだけなら大丈夫だと思う」
「私、ここで見る星空が大好きなの」
「だったら俺も好きだよ」
カナヲ君の好きという言葉にドキッとしてしまう。
「カナヲ君は星空が好きって言うけど、ここから星空を見たことはないでしょう?」
「うん、ないよ。でもヒメが好きなら俺も好きだよ。だって、ここから見る景色は全部、好きだから」
カナヲ君は私を真っ直ぐ見て言う。
まるで私に好きだと言っているみたい。
でも、それは錯覚。
だってカナヲ君は、私を景色の一部として見ているから。
だから私がいなくても、ここから見る景色は変わらないはず。
楽園は変わらないはず。
ゆっくりと空は水色からオレンジ、そして深い青へと変わっていく。
辺りは暗くなり、お互いの顔がほんの少し見えにくい。
後ろからカサカサと音がして私はビクッと驚く。
それに気付いたカナヲ君はクスクスと笑った。
「笑わないでよ」
「だって、可愛いから仕方がないよ」
「可愛い? ビビリだって思っているんでしょう?」
「そんなことないよ。可愛いよ。俺が前に見た、猫を怖がる犬みたいで」
「やっぱりビビリだって思ってるじゃん」
「本当に思ってないよ。だって、その犬は猫にバレないようにゆっくり俺に近付いて頭を撫でてと頭を差し出すんだよ」
「どうしてワンちゃんは猫ちゃんにバレないようにするの?」
「それはね、俺がおやつを持っていたからだよ」
「何それ? ただの食い意地じゃん」
ビビリだって思われるのは嫌だけど、食い意地があるって思われるのも嫌よ。
私って、そんなに食べ物に執着してたかな?
「食い意地じゃないよ。俺を頼りにしてくれたんだ」
「頼る? おやつをくれる人だからでしょう?」
「それだけじゃないんだ」
「他にも理由があるの?」
「あるよ。それは、、、秘密」
カナヲ君が人差し指を自分の唇に当て、秘密という仕草をした。
月明かりのせいなのか、色気が増してドキドキが止まらない。
「えっ、いいじゃん。教えてよ」
「次、逢った時に教えるよ。それまで予想しててよ」
「ヒントは?」
「ヒントは、俺と同じ」
「えっ、カナヲ君と同じ?」
「そう。その答え合わせが終わった後は、籠から抜け出せたら一緒に、、、進もう。前に向かって」
「えっ、それって私が“一緒に逃げよう”って言った時にカナヲ君は違うって言っていた言葉でしょう? でも、それは籠から抜け出せた時に教えてくれるって、、、」
カナヲ君の顔を見て、私は言葉の続きは言えなかった。
だってカナヲ君が笑っていたから。
まだ籠の中の鳥のカナヲ君が笑っている。
それはカナヲ君が私だけでも進めと言っている。
一緒に進むはずじゃないの?
どういう意味?
すると、カナヲ君が私の後ろに回り、背中に手を当てた。
カナヲ君のいきなりの行動に私は驚き、振り向こうとしてしまう。
「振り向かないで、必ず追いつくから」
「えっ」
「大丈夫。俺は直ぐ後ろにいるから」
「カナヲ、、、君」
我慢をしていた涙が次々と流れる。
笑っていようと決めたのに。
カナヲ君の方が苦しい道のりが待っているのに、私を気遣ってくれる。
その優しさが私の涙を誘う。
「もう少し、もう少しだけお願い」
「うん」
カナヲ君には私の言いたいことは伝わっている。
もう少しだけ時間を頂戴。
そうすれば、また笑えるようになるから。
カナヲ君は私の背中をトントンと優しく撫でる。
私の呼吸が、鼓動が、その優しいリズムのおかげで落ち着いていく。
「ヒメちゃん!」
落ち着いてきたから、振り向いてカナヲ君に笑顔を見せようとした時、広場の入り口の方から声がした。
凄く焦っていて、凄く心配している声が私の名前を呼んだ。
見なくても声だけで誰なのか分かる。
そして、その声の主の、そんな声を聞いたのは初めてかもしれない。
だって私は、誰にも迷惑をかけないように生きてきたから。
誰にも心配させないように生きてきたから。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
9、孤独
【本当は孤独が嫌い。それでも孤独を選ぶのは、その選択肢が正解だと信じていたから】




