7、悪
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
6、危機
【少しずつ危機は迫っていた。知らない間にキミが傷付いてしまう。キミの笑顔を守り抜く方法はあるのだろうか】
【“悪”とはなんだろう? 傷付けるつもりはないのに傷付けてしまったら、それは“悪”になってしまうのだろうか?】
「叔母さん。今日も帰りは夕方の六時?」
「そうだよ。どうしたの? 最近、私の予定を気にしてるわよね?」
「うん。だって、叔母さんが帰ってくる前に掃除や洗濯を終わらせてたら帰って来てから叔母さんが楽でしょう?」
「ヒメちゃんったら、イイコなんだから」
叔母さんは嬉しそうに笑った。
でも叔母さん、ごめんね。
だって本当の理由は違うから。
本当は、叔母さんの異変に直ぐに気付けるようにするためなの。
叔母さんが私のせいで傷つけられないように。
叔母さんは嘘をつくのが下手で分かりやすい人だから、日常生活に異変は出てくる。
今のところは何も異変は無い。
でも、この胸騒ぎはなんだろう?
今日、カナヲ君に逢うからなのかな?
「今日は早く行けると思ったのに、先生にノートを集めるのを手伝わされて遅くなっちゃったよ。カナヲ君、また拗ねちゃうよ」
私はブツブツと言いながら高台の広場へ向かう。
カナヲ君の後ろ姿が見えた。
「カナヲ君。遅くなってごめんね」
私がカナヲ君に言うと、座っているカナヲ君は振り向く。
その顔は何の感情もない無表情。
「カナヲ君?」
「待ってたよ」
久し振りに逢えたのに嬉しそうに見えない。
どうしたの?
「今日は、いつもの決まった曜日じゃないのに大丈夫なの?」
「うん」
「もしかしてバレたの?」
「ヒメは察しがいいよね」
「だって、カナヲ君が心を見せてくれないから」
「そっか。それなら話は早い」
カナヲ君は立ち上がり私を見る。
背の高いカナヲ君を私は見上げる。
カナヲ君の瞳が一瞬だけ戸惑うように揺れた後、カナヲ君は真っ直ぐと私を見て言った。
「今日が最後だから」
「何が?」
「もう逢えない」
「私はバレても大丈夫だよ?」
「俺が無理」
「どうして?」
「俺は何をされても堪えられる。でもヒメが傷付いたら俺は堪えられない」
「私は大丈夫だって言って、、、」
「ヒメの大事な人が傷付けられたら堪えられる?」
私の言葉を遮ってカナヲ君が鋭い眼差しで私を見て言った。
経験してきたカナヲ君には全てが分かっている。
私が堪えられないことも、それを分かっていても私が選択を迷うことも。
だからカナヲ君が答えを決めたんだ。
私のために。
それでもカナヲ君の本当の答えが知りたい。
「本当は?」
「えっ」
「カナヲ君は、このままお別れでいいの?」
「仕方がないから」
「それは答えになってないよ」
「でも、他に選択肢はないから」
「カナヲ君の心を見せてよ」
私はカナヲ君に近付き、カナヲ君の胸に手を当てて言った。
そんな私の手をカナヲ君は手で払った。
「もう、俺に心はない」
「カナヲ君?」
「もう、いいんだ」
「よくないよ」
「いいんだ。今まで通り、諦めるだけで」
「ダメだよ。諦めないでよ。私を諦めないで、、、」
私は泣きながら言ってしまった。
カナヲ君にとって私は、簡単に諦められる存在だったの?
「俺だって、諦めたくはない!」
「カナヲ君?」
「ヒメに、こんな顔をさせたくない。でも俺には何もできない。何の力もない子供なんだ」
カナヲ君が心を見せてくれた。
本当は抗いたい。
それだけで充分。
「それなら諦めないで。私も一緒に戦うから」
「それは無理なんだ」
「どうして?」
「俺がヒメの両親を殺したから」
「えっ」
カナヲ君。
何を言ってるの?
私の両親を殺せるわけがないよ。
だって、あの時は、まだ小さな子供だったでしょう?
「俺の両親が乗った車が事故を起こし、その事故に巻き込まれた車に乗っていたのがヒメの両親なんだ。そして事故の原因が俺なんだ」
「でもカナヲ君は何も悪くないよ」
「本当に、そう思える? 本当に俺を責めないって言える?」
「責めないよ。カナヲ君は関係ないよ」
「事故の真実を聞いても?」
「カナヲ君?」
カナヲ君はフッと鼻で笑って言ったけど、その声は苦しそうに聞こえた。
本当は言いたくないのかもしれない。
私は、それに気付いたから心配になって、カナヲ君の顔を覗き込みながら呼んだ。
「もう、俺の心配をする必要はないよ」
「どうして?」
「だって俺は、辻の子供かもしれないから」
「えっ、それって」
「そう。俺は不倫でできた子供だよ」
「嘘、、、」
「あの日、俺が自分の子供じゃないと知った父親と思っていた人は、俺の母親を車に乗せて信号無視をして、ヒメの両親を巻き込んで死んだ」
それでもカナヲ君は悪くない。
悪いのは、、、。
「辻と俺の母親の罪が俺なんだ。そんな俺がヒメと一緒に居て良いわけがない」
カナヲ君は悪くない。
でもカナヲ君は自分の存在が悪だと思っている。
だからこそ私とは一緒にいられないんだ。
私が、どれだけカナヲ君は悪くないと言っても、カナヲ君自身が自分を許してあげなきゃ意味がない。
でも、それでも私は言いたい。
「カナヲ君は何も悪くないよ」
「その言葉は慰めにもならないよ」
「慰めなんかじゃないよ。真実よ」
「何を言ってんの? 真実は俺という存在が、この場所に居てはいけないってことだよ」
「それで、また私に背を向けるの? 真実から目を背けるの?」
私の言葉を聞いて、カナヲ君はフッと鼻で笑って私を見下ろす。
「それはヒメの方だよ」
「私?」
「そう。よく考えなよ。俺という存在が居たからヒメの両親は亡くなったんだ。俺のせいで四人の命が奪われた。それが真実だよ」
違う。
そんなの違う。
そう言いたいのに、涙が出ないように我慢をしているから声が出せない。
だから大きく首を横に振る。
泣いたらいけない。
ここで泣いてしまったら、カナヲ君は自分を責めて本当に悪になってしまう。
カナヲ君の心を救う言葉は何?
私は何をすればいいの?
カナヲ君は何を求めているの?
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
8、希望
【“今”は無理でも“いつか”は解決する、なんて保証は無い。それは二人共、分かっていたけど少しでも小さな希望にすがってしまった】




