5、一筋の光
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
4、恐怖
【恐怖というものは二人で立ち向かえば怖くないのかもしれない】
【どうしてだろう。いつも通りなのに、なんだか温かく心地いい。そうか、キミがいるからなんだ。キミも、そう想ってくれるかな?】
「辻は、俺と関わった人を排除する」
カナヲ君は、いきなり怖い発言をする。
「排除?」
「そう。二度と会わないってことだよ」
「それって、、、」
私は怖い想像をしてしまう。
でもカナヲ君は私の言いたいことが分かったのか“分からない”と答えてくれた。
「最初は何処に行ったのか訊いていたけど、俺を睨むだけで何も言わないから諦めたよ。そして誰とも関わらないようにした」
「それじゃあ友達はいないの?」
「いない。一人にも慣れたよ」
カナヲ君は、ずっと一人でいろんなことを抱えてきた。
どれだけ重かったんだろう?
どれだけ辛かったんだろう?
「カナヲ君。慣れないで」
「えっ」
「一人でいることに慣れないで。じゃなきゃ助けて欲しい時に頼れなくなっちゃうよ」
「でも俺には、既に頼れる人がいないんだよ」
「私がいるじゃん」
「そうだね。でも、、、」
カナヲ君はニコッと笑った後、真面目な顔をして私を見る。
その目は、なんだか怯えているようにも見える。
「辻には見つからないで」
「うん。カナヲ君と一緒にいる所を見られなければ大丈夫だよね?」
「それだけじゃない。辻はターゲットの周りから攻めるから、ヒメの大事な人にも異変はないか確認をするようにして」
「そんなに危険な人なの?」
「うん。辻は人には言えない裏の仕事をしているから、非道なことをしても無かったことになる」
凄く怖くなって身震いをしてしまう。
私には関係ないと思っていた裏の世界。
その世界にカナヲ君もいるのかな?
私の知らないカナヲ君が、まだまだいるのかもしれない。
「ごめん」
「カナヲ君?」
「やっぱり、あの日ヒメに再会しなければよかった」
「カナヲ君。私は後悔なんてしてないよ。カナヲ君と一緒に過ごす、この時間は楽しいもん。だから謝らないで、後悔しないで」
「でも、これからも俺達は、この場所でしか逢えないんだ」
カナヲ君の気持ちは分かる。
本当は、もっといろんな所で想い出を作りたい。
でも、この場所だから私達は二人の世界を保っていられるのよ。
「何を言ってるの? この場所だけで充分よ。二人でいられるだけで充分よ」
「俺は籠の中の鳥なんだ」
私には返す言葉が見つからない。
私もカナヲ君も、まだまだ子供で、自分達の力じゃ何もできないことは分かっている。
籠の中の鳥とは、そういう意味。
今は、ただ待つしかできない。
籠の中で暴れるよりも、静かに待つしかできない。
それが一番の得策だってカナヲ君は分かっている。
だからこそ、諦めた。
だからこそ、抵抗しない。
だからこそ、今の環境に適応した。
「ヒメ。もうすぐ暗くなるよ。今日は帰ろうか?」
カナヲ君にかける言葉が見つからないまま泣きそうになっている私に、カナヲ君はニコッと笑って言った。
いつも通りなカナヲ君。
さっきまでの怖い話も無かったかのように笑うカナヲ君。
「カナヲ君。だいじょう、、、」
「分かっているから。大丈夫。言わなくていいよ」
私はカナヲ君に、大丈夫だって、この先は必ず良いことがあるからって言おうとしていた。
それなのにカナヲ君は、言おうとした私を止めた。
カナヲ君の顔は凄く辛そうだった。
その顔を見て私は気付いた。
何年も堪えてきたカナヲ君に対して私が言おうとしたことは、何の根拠もない、慰めにもならない言葉。
カナヲ君が一番、嬉しくない言葉。
ただの嘘でしかない言葉。
「カナヲ君、、、ごめんね。私、何もしてあげられない。苦しんでいるカナヲ君を助けてあげることもできない」
私は泣きながら言ってしまった。
ここで泣くのは間違いだって分かっている。
カナヲ君は泣くこともせずに堪えているのに、私は泣くことを我慢することもできない。
「ヒメ。慣れたって言ったじゃん」
「え?」
「今の環境に俺は慣れてしまったから、何も感じない。でも、その環境にヒメが加わった。ヒメが一筋の光だから、その光を失うのが怖い」
「カナヲ君?」
「俺はヒメを失ってしまうことが一番、怖いんだ。だから俺のために泣くことも、俺のために傷つくこともしてほしくはない。ただ俺の一筋の光になってくれるだけでいいんだよ」
「泣くななんて、そんな風に言われたら無理だよ」
カナヲ君が、何もできない私を必要としてくれていることが嬉しくて涙が止まらない。
カナヲ君は私の頭をポンポンと撫でて落ち着かせてくれる。
「本当に暗くなってきたから早く帰りな。家まで送ってあげられないんだからさ」
「そうだよね。カナヲ君に迷惑をかけちゃダメだよね。私がカナヲ君に頼られる立ち場だからね」
「そうだね。泣き虫のお姉さんだけどね」
「もう! それはカナヲ君のせいだよ」
「ヒメ」
カナヲ君が愛おしそうに私を見ながら呼んだ。
「何?」
「籠から抜け出せたら一緒に、、、」
「いいよ。一緒に逃げよう」
私はカナヲ君が言ってしまう前に代わりに言った。
カナヲ君が言うであろう言葉を。
「逃げる? どういう意味?」
「えっ、違うの? そのままの意味だよ」
「逃げるということにしてもいいけど、俺の意味はヒメとは違うよ」
「そうなの? それなら意味を教えてよ?」
「今は秘密。一緒に籠から抜け出せた時に教えるよ」
そう言って、カナヲ君が自分の唇に人差し指を当てる仕草は色っぽくてドキッとした。
「楽しみにしてるよ」
「俺も」
「じゃあ、またね」
「うん。おやすみ」
「うん。おやすみなさい」
そして私は家へ帰る。
カナヲ君は少し時間をずらして帰る。
バレないように。
カナヲ君は毎日どんな想いで家へ帰っているのだろう?
温かいご飯があるのかな?
温かい声で“おかえり”って言ってくれる人がいるのかな?
「ただいま」
「ヒメちゃん。おかえり」
珍しく早く帰って来ていた叔母さんが玄関までお出迎えしてくれた。
こんなに優しい人に育てられた私は幸せだ。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
6、危機
【少しずつ危機は迫っていた。知らない間にキミが傷付いてしまう。キミの笑顔を守り抜く方法はあるのだろうか】




