4、恐怖
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
3、笑顔
【キミの笑顔が好き。心からの笑顔が好き。だから、キミの笑顔を守りたいと思った】
【恐怖というものは二人で立ち向かえば怖くないのかもしれない】
『あいたい』
『うん。学校が終わったら行くよ』
今日もカナヲ君にメールで呼び出されてしまった。
連絡先を交換してから呼び出しが多い。
「カナヲ君。待った?」
「待ち疲れた」
高台に着き、カナヲ君の元へ走って向かった私に、カナヲ君は子供みたいな拗ねたような言葉で返したが、顔は嬉しそうに笑っている。
言葉と表情がチグハグだよ。
「ねぇ、どうして月曜日・水曜日・金曜日だけなの?」
私がカナヲ君に呼ばれるのは特定の曜日だけ。
それが不思議でカナヲ君に訊いてみた。
「俺の学校の日だから」
「学校の日? それなら平日は全部でしょう?」
「言葉の通りだ」
「言いたくないの?」
「分かっているなら訊くな」
カナヲ君の口調が冷たくなった。
これは私には知られたくないっていうカナヲ君の心の叫び。
だから私は何も訊けなくなる。
いつもは、、、。
「私と一緒に、この時間を過ごすだけでカナヲ君の痛みは消えるの?」
私の言葉を聞いてカナヲ君は驚く顔をして隣に座る私を見てきた。
だって私は、いつもはカナヲ君の心の中まで知ろうとすることは言わないから。
「私が怖い?」
訊かなくても分かる。
カナヲ君の表情は怯えている。
「私も怖いよ」
「えっ」
「私も怖いわよ。自分の心を見せないように生きてきたカナヲ君の苦しみを知ることは」
「知らない方がいい」
「でも知らなきゃいけないのよ。このままじゃカナヲ君はいなくなっちゃうでしょう?」
カナヲ君が自分自身のことを話さないのは、私を想い出の一部にするつもりだから。
こんなに一緒にいても深い話や悲しい話をしない。
「楽しい話ばかりしていて、私を想い出の一部にするつもりでしょう?」
「何それ? ヒメと一緒にいて楽しいからじゃん」
「違う。カナヲ君は話を選んでるよ。頭の回転が速いカナヲ君だからできることなのよ」
「俺には逃げる選択肢はない」
「でも、私からは逃げるの?」
カナヲ君が目を見開いて私を見てる。
カナヲ君は私に言われて気付いたようね。
「教えてよ。カナヲ君が選ぶ、逃げる選択肢じゃない、もう一つの選択肢を」
「それを知ってしまったら、全てが変わってしまう。それでもいいのか?」
「怖いけど大丈夫! カナヲ君の苦しみを私にも分けてよ」
そしてカナヲ君は話し出す。
全てを、、、たぶん。
「俺もヒメと同じで両親を亡くしてる」
「一緒なんだ」
「そう。そして俺は血の繋がりのない、ある男に育てられた」
「その人がお父さんなんだね」
「父なんて呼ぶような男じゃない、辻というあの男は」
カナヲ君の怒りが声からも表情からも滲み出ている。
「暴力でも受けてるの?」
「いいや」
カナヲ君は首を横に振るだけで嫌う理由は教えてはくれない。
「私は、叔母さんが大好きよ。私のために仕事も子育ても、家事もしてくれて感謝しかないわ」
「それは血の繋がりがあるから、、、」
「血の繋がりって必要なの? 好きだから、大切だからじゃダメなの?」
「好きだったら、なんでも許されるのかよ?」
「どういう意味?」
「俺は、辻の不倫相手の子供なんだよ」
「それは誰から聞いたの?」
「辻から」
「それを聞いた時はショックだったよね?」
私はカナヲ君の手の甲に手を重ね言った。
自分のことのように心が痛い。
「そんなのどうでもいい。その後の辻の言葉に腹が立つんだ」
「えっ」
「辻も俺の母親もお互いに結婚していた。俺の母親は、辻と別れようとしていたのに、辻が俺の母親を手離さなかった。二人の関係を知った俺の父親が俺の母親と車に乗り、辻の所へ行く途中で交通事故で亡くなった」
「でも好きな人の子供を育てようなんて思うのは並大抵の覚悟がなきゃできないよ」
「うん。そうなんだよ」
カナヲ君はフッと鼻で笑って言った。
私、間違ったことを言ったかな?
「辻は言ったんだ“俺は全てを失った。その代償をお前に払ってもらう”ってな」
カナヲ君の言葉を聞いて何て言葉を返せばいいのか分からない。
大人が子供に対して言って良い言葉じゃない。
「言葉なら何を言われてもいいが、俺は代償を払わされている」
「代償? 中学生に? 何ができるの?」
「子供だからできること」
カナヲ君は遠くの景色を見ながら目を細めて言った。
だから、こんなにも大人なんだ。
子供でいたら心が壊れてしまう。
自分を守るために、心を守るために偽っていたんだ。
「ごめんねカナヲ君」
「何? 何か謝ることでもした?」
「だって、、、」
「どうしてヒメが泣くんだよ」
カナヲ君はフワッと柔らかく笑って私の頭を撫でてくれた。
どっちが年上か分かんないよ。
お願い。
私が泣き止むまでは、このままで。
「ヒメが謝ることは何一つないんだよ。これは俺のことだから」
「でも、私のせいで思い出したくないことも、言いたくないこともあったでしょう?」
「俺はヒメが思うほど弱くはないよ」
「じゃあ、どうして私に話すのを躊躇ったの?」
「失いたくないから」
「何を?」
「ヒメを」
「私? 私はカナヲ君の話を聞いても離れたりしないよ」
「そうじゃない」
カナヲ君は私が、そんなことで離れる人じゃないのは分かっている。
「教えてよ」
「でも、、、」
「後戻りは、もうできないでしょう?」
「そうだけど」
「私は、離れない! カナヲ君を一人にはしないよ!」
「うん」
この約束が果たされなくなってしまうことを、この時の私は知らない。
ただカナヲ君の心を守りたい。
その時の私は、そのことで頭がいっぱいだった。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
5、一筋の光
【どうしてだろう。いつも通りなのに、なんだか温かく心地いい。そうか、キミがいるからなんだ。キミも、そう想ってくれるかな?】




