21、叶
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
20、整理
【全てを覚えていることに意味がある。いつか答え合わせができるように、、、。“いつか”】
【ただ一つ。それだけでいい。その願いさえ叶えばいい】
「忘れてほしくない!」
私はカナヲ君に向かって迷いなく言った。
「私は忘れてほしくないの」
「ヒメ、その選択をすると俺達は、、、」
「カナヲ君は努力をしてよ。私達の大事な想い出を忘れない努力をしてよ。たった一つでも残るなら全てなくなるよりマシでしょう?」
「でも、それが一生続くかもしれないんだ。 努力し続けても消えていく記憶が増えていったら俺は心が折れるかもしれない」
「その時は、私を頼ってよ。一緒に戦うから。カナヲ君に寄り添うから」
カナヲ君は逃げ方を知らない。
カナヲ君は頼り方を知らない。
カナヲ君は他にも沢山の選択肢があることを知らない。
私が教えるから。
だから。
どうか。
諦めることだけは選択肢に入れないで。
私が傍にいるから。
「辻さん。俺、日本に戻るよ」
「しかし、ワタシの仕事の拠点はこちらにある。ワタシは日本では過ごせないんだが、カナヲを一人になんてできないし」
「それなら家に住めばいいんじゃないですか」
お母さんが躊躇いもなく、あっさりと言った。
年頃の娘がいる家に男の子を住まわせるの?
「しかし、ご迷惑ではありませんか?」
辻さんが申し訳なさそうに言う。
それなのにお母さんはニコニコと嬉しそうにしている。
「カナヲ君が良い子なのは分かっていますから」
「カナヲをお願いします。生活費等はお渡ししますので」
「それなら、月一回は日本へ来てください。その時に生活費を預かりますね」
「そうですね。貴女は本当にお優しい方ですね」
「大人は何か理由をつけなきゃ動けないものですよね」
お母さんと辻さんはクスクスと笑っている。
大人には、あるあるの話なのかな?
「それでは善は急げよ。カナヲ君。日本に帰る準備をして」
お母さんは辻さんに向けて一度頷いた後、カナヲ君の方を向き言った。
カナヲ君は急いで準備を始めた。
「辻さん」
私が此処に来た本当の目的はカナヲ君に逢うだけじゃない。
その目的を果たすために辻さんに近寄り小さな声で呼ぶ。
「どうしました?」
「あの。カナヲ君が準備をしている間に、カナヲ君が行方不明になった時に居た灯台の展望台に連れて行ってくれませんか?」
「それでは皆で、、、」
「いいえ。二人でお願いします。カナヲ君が行くと記憶を失くすかもしれないので」
辻さんの提案を最後まで聞かず、私は遮って伝える。
カナヲ君を絶対に連れて行きたくないことが伝わるように。
「そうですね。それでは、貴方のお母様にお伝えしてから行きましょう」
「母は、何も言わなくても分かっています」
私がお母さんを見ると、私にニコッと笑った後、カナヲ君の準備の手伝いをするためにカナヲ君の元へ向かった。
カナヲ君にはお母さんが説明をするはず。
“直ぐ帰って来る”とだけ。
そして私は辻さんと灯台へ向かった。
大きな灯台は強い潮風に負けることなく、立派に立っている。
ただの大きな灯台ではなく美しく見えるのは、辺りは薄暗いのに展望台の所だけがイルミネーションでキラキラと光っているからだ。
展望台へ着くと薄暗い。
窓から外を見ると黒い海が広がっていた。
カナヲ君はこの景色を見ていたのかな?
「カナヲは、海ではなく街を見ていました」
「えっ」
「カナヲが何を見ていたのかを知りたかったのですよね?」
「はい」
辻さんは分かっている。
私の目的を。
「ここでカナヲを見つけた時、カナヲは混乱していました」
「混乱?」
「“ヒメはいる。それなのに何も見えない”と」
「何も見えない、、、ですか」
「姫華さん。貴方のことは覚えていても、その情景が浮かんで来ないんですよ。記憶は、その時の貴方の表情や景色も一緒に忘れてしまう」
「それって凄く怖いですね」
「そう。だからカナヲは選択してしまったのです。全てを忘れてしまおうと」
辻さんはカナヲ君の気持ちが分かるんだ。
目の前で恐怖に怯えるカナヲ君を見てしまったら、カナヲ君の意思を受け入れるしかなくなる。
それでも私達を此処に連れて来たのは、私達ならカナヲ君を救えると思ったからなのかな?
それとも、私達が拒めばカナヲ君の意思を受け入れる覚悟ができると思ったからなのかな?
辻さんに、どちらなのか訊こうと思ったけど、いつかカナヲ君が記憶のことで悩まなくなったその時に答え合わせをしようかなと思ったから、心の中に質問は閉まった。
「ここからの景色は、私とカナヲ君が過ごした場所から見る景色に、とても似ています」
「だからカナヲは無意識に此処へきたのでしょう」
「やはり、カナヲ君は忘れたくないんですよね」
「そうです。カナヲは強がっているし、諦めている。いいや、今は強がってはいるが諦めてはいませんね」
「えっ」
「姫華さん。貴方がカナヲを拒否しなかったから」
拒否?
そんなことしない。
だって私はカナヲ君の笑顔を守るから。
「カナヲ君と約束をしたので」
「そうですか。しかしカナヲは、その約束さえ忘れてしまうかもしれないですよ?」
「私が覚えている限り何度も伝えます」
「最後に一つ姫華さんに伝えておきます」
「はい」
「これから辛い事、苦しい事、逃げ出したい事、沢山あると思います。でも忘れないでください。貴方のお母様やワタシもいます。そしてカナヲも。貴方は一人ではありません」
「はい」
私は一人じゃない。
カナヲ君も一人じゃない。
ちゃんと味方がいるから。
だから必ず守ってみせる。
笑顔も想い出も。
「か、か、か」
「か? 何?」
私が怒りで震えながら言葉を絞り出しているのに、そんな様子をクスクスと笑いながらカナヲ君が首をかしげる。
「か、鍵を閉めてって何度も言ってるでしょう!」
私は今、怒っています。
何故かって?
それは、カナヲ君が脱衣場の鍵を閉めずに服を脱ごうとしているから。
「カナヲ君! 年頃の娘に裸なんて見せないでよ」
「えっ、だって鍵するの忘れるんだから仕方ないじゃん。それに裸っていうか、まだ脱いでないし。脱ごうとしていただけだから大丈夫だって」
「大丈夫じゃないわよ」
私は赤くなる顔を隠しながら、ぶつぶつ言って脱衣場のドアを閉める。
「あっ、ヒメ」
カナヲ君がドアの向こうから私を呼ぶ。
「俺、気付いてるよ」
「何を?」
「顔、真っ赤なのを」
「うっ、うるさい。カナヲ君のバカ!」
カナヲ君が私達の家に来てから賑やかになった。
それはそれで楽しい。
何故だかカナヲ君の記憶喪失現象は、ここ最近起きていない。
でも、何も解決はしていない。
それでもいい。
カナヲ君が笑っていてくれる。
ただそれだけでいい。
私の願いは、ただそれだけ。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
最終話 輪廻
【何度も何度も繰り返す。それでも何度も何度も恋をする。ヒメは俺の愛しい人】




