20、整理
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
19、覚悟
【ただ確かめたかった。キミが居ればそれでいいと覚悟はしていた】
【全てを覚えていることに意味がある。いつか答え合わせができるように、、、。“いつか”】
「カナヲ。姫華さんに背負わせるつもりかい?」
「いいや。でもヒメの言葉が一番だから」
「そうやってギャンブル感覚で忘れようとするのはやめてくれないかな」
「だって、どうせ忘れるなら努力なんて必要ないじゃん」
二人は何を言ってるの?
意味が分からない。
私の知らない所で何が起きてるの?
「カナヲ君?」
「あっ、ごめん。ヒメには迷惑はかけないからさ」
「カナヲ君?」
「俺、記憶の整理をしようと思ってて」
「記憶の整理?」
「どうせ忘れるなら全て忘れてしまえばいいんだよ」
「全て?」
「そう。全て」
カナヲ君は何を言っているんだろう。
全てを忘れるってことは私のことも忘れるつもりなの?
「カナヲ。お前の言い方は姫華さんを混乱させてしまうじゃないか。私が説明をするからカナヲはそこに座っていなさい」
「はいはい」
カナヲ君は大人しく近くのソファに座った。
カナヲ君。
なんだか人が変わったみたい。
「姫華さん。私から説明してもよろしいですか?」
「はい。お願いします」
辻さんがニコッと笑って私に言った。
私を怯えさせないようにするための配慮の笑顔を貼り付けて。
「カナヲの記憶が消えるには、ある条件があります」
「条件」
「その条件が姫華さん。貴方を思い出す時です」
「私をですか?」
「貴方がトリガーとなってカナヲの記憶が消えていきます」
「私のせい。でも、私のことを思い出すなら私のことは忘れないってことじゃ、、、」
私が小さな望みを口にしたのに辻さんは大きく首を横に振り、私は口にするのを途中でやめた。
「消えていく記憶は選べません。思い出した貴方の記憶も直ぐに忘れるかもしれません」
「それじゃあ、どうすれば?」
「それはカナヲが決めることです」
「カナヲ君は、もう決めているんですか?」
「カナヲは先程も言っていたように、記憶の整理を初めています」
「それはどういう意味ですか?」
「カナヲは、貴方の記憶だけがあれば良いと。全て忘れて、また新しく貴方との記憶を残していけば良いと」
そんなの私が良いわけがない。
私以外にも沢山の思い出があるはず。
その思い出には沢山の想いが詰まっているはず。
そして思い出が全てなくなることってあるの?
ずっと繰り返していくだけじゃないの?
終わりのない記憶の整理を続けるの?
「そういうことですか」
ずっと黙って聞いていたお母さんが口を開いた。
そして辻さんを睨んでいる。
「親として貴女なら気付くと思いましたよ」
辻さんはクスッと笑ってお母さんを見ている。
「辻さんは、カナヲ君の選択を許していませんよね? カナヲ君が決めることと言っているけど、ここにヒメちゃんを連れて来たことが、許していない証拠です」
「親である貴女なら、姫華さんがカナヲの様な選択をしたら本人の意思を受け入れられますか?」
お母さんは辻さんの言葉に何も返せないでいる。
悔しそうに、苦しそうに私を見ている。
「貴女は心が移り変わることは分かっていますよね? 大人になれば嫌でも理解します。いつかはカナヲも姫華さんも心が他へと移っていく。その時に後悔したって遅いのですよ」
お母さんは今にも泣きそうな顔で私を見ている。
私が悲しむ前提の答えを出すつもりなの?
「ヒメ。キミが決めるんだ」
いきなりカナヲ君が叫んだ。
カナヲ君を見ると優しい眼差しで私を見ている。
「カナヲ君、、、。私は、、、一緒に逃げたい」
「ヒメ? どうしてここに?」
以前、鳥籠から逃げられないカナヲ君に言った言葉を今のカナヲ君に向けて言ったのに、カナヲ君は私を見て驚いている。
まるで私がここにいることを今、知ったかのように。
「カナヲ君?」
「ヒメ。俺とヒメって何処で出逢ったのか覚えてるか?」
カナヲ君?
それは、さっき私に訊いてきたよ?
また同じ質問をするの?
「姫華さんお分かりですか? 貴方の言葉がトリガーになり、貴方とここで再会してからのカナヲの記憶がなくなりました」
辻さんは心を何処かに置いて、何の感情もなく淡々と言った。
辻さんは何度も経験をしているんだと思う。
だから対処法を学んだ。
心がなければ、何度同じことを繰り返しても驚くことも悲しむこともない。
「辻さん。俺、また記憶が失くなった?」
カナヲ君は、私達の様子を見て直ぐに理解したようだった。
「そうだよ」
「どんな記憶?」
「姫華さんと、この家で再会してから一時間程の出来事を忘れたようだね」
「そうか。ヒメのことを忘れたんだな」
悲しそうにするカナヲ君を見ていると胸が苦しくなった。
私は苦しくて不安になっているのに、カナヲ君と辻さんは何の焦りもなく、いつものことのように会話をしている。
「トリガーは何?」
「姫華さんが一緒に逃げたいって言っていたようだったかな?」
「そっか。覚えてる、、、。ヒメ」
カナヲ君は覚えていたことが嬉しいのか笑いながら私を呼ぶ。
私は何も答えずカナヲ君を見る。
「一緒に、、、進もう」
カナヲ君の言葉は私にちゃんと伝わった。
カナヲ君は覚えている。
私との約束を。
でも、その約束もいつか忘れる。
全部忘れる。
それに私は堪えられるの?
カナヲ君は本当に、それで良いと思っているの?
私達の大事な想い出を忘れて良いと本当に思っているの?
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
21、叶
【ただ一つ。それだけでいい。その願いさえ叶えばいい】




