最終話 輪廻
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
21、叶
【ただ一つ。それだけでいい。その願いさえ叶えばいい】
【何度も何度も繰り返す。それでも何度も何度も恋をする。ヒメは俺の愛しい人】
「もう! カナヲ君のバカ」
またヒメは顔を赤くして出ていった。
ヒメが怒る理由は毎回同じ。
俺が脱衣場でドアの鍵をしないからだ。
そしてシャツを脱ごうとしている俺を見て、恥ずかしそうにしながら顔を赤くする。
そんなヒメが可愛くて俺は何度も繰り返す。
これで何度目だろう?
この光景を忘れたのは。
隠し持っている日記を開いてみる。
脱衣場事件と書いてある場所を見ると、あり得ない数字が書いてあった。
俺は笑いながら、その数字に一つ足して書きなおした。
「カナヲ君!」
ある日、俺が寝ている間にヒメが部屋に入ってきていた。
ヒメが俺の机の上の物を見て、怒って俺を呼んだみたいだ。
「ヒメ?」
「カナヲ君。これ、何?」
ヒメは俺の書いた日記を開いて俺に見せる。
やばい。
引き出しの中に仕舞うのを忘れていた。
「それは、ただの日記だよ」
「嘘。これ全部、私のことしか書いてないよね?」
「勝手に見るなよな」
「ちゃんと答えてよ」
「、、、」
「【逃げ場なんて無いと思っていた。でも、キミに出逢ってしまったから、キミを逃げ場に選んでしまった。それが正解なのか分からないまま】これって私達が初めて出逢った時でしょう?」
ヒメが俺の日記を読む。
ヒメにはバレている。
それでも俺は首を縦には振らない。
認めてしまえば、俺が本当に隠したいことがヒメにバレてしまうから。
「【キミの笑顔が好き。心からの笑顔が好き。だから、キミの笑顔を守りたいと思った】これは、カナヲ君の笑顔を初めて見た時だよね?」
「、、、」
「【全てを覚えていることに意味がある。いつか答え合わせができるように、、、。“いつか”】これは、カナヲ君が記憶の整理をしようとしていた時だよね?」
「、、、」
「ん? 脱衣場事件? 何、この数?」
ヒメは数字を見て驚いている。
「これって、もしかして、、、カナヲ君。忘れていたの? 嘘。だって。そんな」
ヒメは泣き崩れてしまった。
俺のせいだ。
本当は抱き締めて慰めたい。
嘘でもいいから違うと言いたい。
でもヒメには嘘だとバレてしまう。
俺は拳を作り、ギュッと握り締めた。
爪が掌に食い込んで痛くても、ヒメの心の痛みよりはマシだ。
「どうして何も言わないの?」
それでも俺は何も言わない。
この秘密だけは守り抜くために。
「こんなのいらない。私だけの想い出しかない日記なんていらないの」
ヒメは泣きながら日記を破った。
そして、いくつかのページを破った後、俺の部屋から出ていった。
俺は破られた日記を拾い上げる。
くしゃくしゃになったページを真っ直ぐに伸ばす。
「ごめん。ヒメ」
俺の大事な日記。
これがあればヒメを忘れない。
俺はヒメ以外何もいらない。
それから直ぐだった。
俺に辻さんから連絡がきた。
辻さんの知り合いで記憶の研究をしている人がいて、俺の状態を知りたいと言っているそうだ。
その人が言うには、何の思い出もない知らない場所で知らない人と過ごせば何か変わるかもしれないそうだ。
俺は、その望みにかけてみたくなった。
日記を見られた日からヒメとは一言も話をしていない。
だから今はヒメと離れていた方がいいと思った。
「カナヲ君。体には気を付けてね。連絡も取れないみたいだけど本当に行くの? ヒメちゃんと、、、」
「大丈夫です。本当にお世話になりました」
ヒメのお母さんの言葉を遮り、俺は頭を下げてお礼を言った。
俺が家を出る最後の日でも、ヒメは自分の部屋から出ては来なかった。
「ヒメちゃん。本当に最後だよ」
ヒメのお母さんが大きな声でヒメの部屋に向かって言ったが反応は無し。
そして俺は辻さんの車に乗り込む。
走り出した車の窓から二階のヒメの部屋の窓を見る。
そこには泣きながら見ているヒメがいた。
「辻さん! 止めて!」
車が止まると、直ぐにドアを開けてヒメがいる窓の下へ走る。
ヒメは窓を開けて身をのりだし俺を待っている。
「ヒメ! 必ず治して帰ってくるから」
「う、、、ん」
俺はヒメに向かって嘘のない言葉を言うと、ヒメは泣きながら頷き言ってくれた。
そして俺はヒメに背を向けて、車へ戻る。
その途中、呟いた。
「ヒメ。愛してるよ」
~七年後~
「カナヲ先生、さようなら」
「うん、さようなら。気を付けて帰りなよ」
俺は養護教諭として今年から高校で働いている。
俺のように、大人に頼ることができない子供を救うためだ。
保健室が傷付いた子供達の逃げ場になればいいと思った。
「カナヲ先生、めっちゃイケメンだよね」
「彼女いるのかな?」
「指輪はしていないから、もし彼女がいても、まだ私にも見込みはあるよね?」
「でもさ、美人の音楽の先生がカナヲ先生は年上好きって言ってたよ」
「そうなんだ。あんなに色気のあるカナヲ先生だもん。年上の方がお似合いだよね」
女子高生の会話は面白くて笑ってしまいそうになる。
だいたい声が大きいんだよ。
全部、聞こえてるぞ。
「今日は、大事な場所に行かないとな」
俺は、そう呟いて学校での仕事を終わらせ、大事な場所へ向かう。
「お久しぶりです。やっと日本に帰ってきたので花と駅裏のプリンを持ってきました」
俺は墓の前で手を合わせて言った。
久しぶりに来たが、墓は綺麗で定期的に人が来ているのが分かった。
「産んでくれて、出逢わせてくれて本当にありがとうございます。また、命日に花を持ってきますね」
そして俺は墓参りを終え、あの場所へ向かう。
「楽園」
そう呟いて俺は景色を眺める。
やっぱり、この高台は落ち着くな。
「カナメちゃん。待ってよ」
俺は後ろから声がして振り向いた。
そこには、、、。
「えっ、誰?」
小さな女の子がいて、俺の口から疑問が先に出てしまった。
「嘘。忘れちゃったの?」
小さな女の子の隣に立っている女性は傷付いた顔をして言った。
昔とは違って大人っぽくなった女性。
でも、今にも泣きそうで泣き虫なのは変わっていないようだ。
「あっ、いやっ、違うって。ヒメのことは覚えてるよ」
「カナヲ君。本当?」
「うん。でも、その小さな女の子は知らないから」
「あっ、カナメちゃんは知らないかもね。だって私達の、、、」
「えっ、俺達の子供? いやっ、俺はヒメとは子供なんて、、、。待てよ、俺、忘れているのか?」
「カナヲ君。違うわよ」
俺は何か勘違いをしているようだ。
ヒメがクスクスと笑っている。
「カナメちゃんは、私達の妹よ」
「ん? 妹?」
妹とは、どういう意味なんだ?
「カナメちゃん。ヒメちゃんを、あんまり引っ張らないでよ」
「そうだよカナメ。姫華は仕事で疲れているんだからさ」
ヒメのお母さんと辻さんがヒメ達を追いかけてきた。
俺は驚き過ぎて声が出ない。
「カナヲ君。おかえり」
驚いている俺にヒメが抱き付いてきた。
俺は、それにもっと驚く。
ずっとヒメを抱き締めたかった。
子供の頃はできなかった。
でも今は違う。
これからは俺がヒメを守る。
何があってもヒメを離さない。
もう、諦めたりしない。
俺はヒメを抱き締めた。
そんな俺達を見て、辻さん達は来た道を戻っていった。
「ヒメ、愛してるよ」
「私も。カナヲ君を愛してるよ」
なんて幸せなんだ。
夢じゃないんだよな?
ヒメから香る甘い香りが、もっと触れたい気持ちにさせる。
「カナヲ君」
「何?」
「ごめんね」
「何が?」
「日記を破っちゃって」
「いいよ。元の場所に貼り付けて元に戻したし」
「でも、本当にごめんね」
「いやっ、やっぱり許さない」
「えっ」
俺の一言に抱き付いていたヒメが俺の胸を押し、上半身だけ離して俺を見上げる。
その顔は、泣きそうになっていて俺の心は鷲掴みにされた。
可愛すぎる。
「ヒメがキスをしてくれたら許すかな?」
「えっ、そんなのできないよ」
ヒメは顔を赤くして俺を見上げる。
「ごめん、無理」
俺は我慢できず、一言告げてヒメにキスをした。
ヒメは嫌がらない。
俺の胸を押していた手が、俺の胸元のシャツをキュッと掴んだ。
俺には、その行動が、もう離さないと言っているように感じて、触れるだけのキスにするつもりだったが少し長いキスになってしまった。
その後、二人で景色を眺めた。
ヒメを後ろから抱き締めたまま静かに時間が過ぎていく。
「やっぱり、私達って約束しなくても逢えたよね?」
ヒメが景色を見ながら言った。
俺は“そうだな”と言ってヒメをギュッと抱き締めた。
「カナヲ君は私が必要なんだよね?」
「うん。これから先、ずっと」
「前は怖がって否定していたけど今は正直者だね」
「だって何も怖くないから。それにヒメに俺の全てを知ってほしいからね」
「大人になったね。カナヲ君」
「ヒメもね」
二人で、離れていた七年間の時間を埋めよう。
俺達には時間はたくさんある。
「ねぇ、カナヲ君。ずっと気になっていたことがあるの」
「えっ、何?」
「ワンちゃんのことよ」
「ワンちゃん? 犬のこと?」
「あっ、忘れちゃってる? 猫ちゃんを怖がりながらもおやつを持つカナヲ君に近寄るワンちゃんよ」
そういえば、そんな話を此処でした覚えがある。
言うのを忘れていたが、俺の記憶障害は治った。
一度、ゼロから始めた俺の生活が脳のバグを治した。
時間はかかってしまったが完治した。
「あ~、そうだったね」
「それで、ワンちゃんがカナヲ君を頼る他に何があるの?」
「信じてるんだよ」
「信じる?」
「そう。その犬は傷付けないんだって信じてくれていたんだ。俺を」
「でも、それとヒントで出されたカナヲ君と一緒っていうのは、どこが一緒なの?」
「俺はヒメが俺を傷付けないって信じてた」
「えっ」
ヒメは驚いて俺を見ようと振り向こうとするけど、俺はそれを止めた。
今の俺の顔は恥ずかしくて顔が赤いはずだから見られたくなかった。
「最初から、あの日ヒメが俺の名前を呼んだ時に俺は、そう思ったんだ」
今なら、はっきりと言える。
俺はヒメに救われた。
俺がヒメを救ったと思っていたが、俺がヒメに救われたんだ。
「ヒメ。ありがとう」
「う、、、ん」
ヒメは泣いていた。
愛しい人。
これからも、ずっと俺の腕の中で笑っていてくれ。
「ヒメ。愛してるよ」
「私も。カナヲ君を愛してるよ」
ヒメは今度こそ振り向いて俺に笑って言った。
俺は、その笑顔を見て思った。
『この笑顔を一生、守りたい』
お読みいただき、誠にありがとうございます。
最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございました!




