17、忘却の電話
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
16、黒い影
【希望が見えたはずだった。でも現実は甘くない。やっぱり黒い影は蝕んでいく】
【嬉しくて忘れていく。でも、それは良いことだって思うことにした。だって頭の中はキミのことでいっぱいだから】
「ヒメちゃん。カナヲ君達が帰って来る日が決まったよ」
「えっ、いつ?」
カナヲ君が帰って来ると聞いてから一ヶ月は経った。
本当は、もう少し早く帰って来れるはずだったのに、辻さんの仕事が忙しく今に至る。
「来週のクリスマスだよ」
「本当? クリスマスに逢えるなんてサンタさんからのプレゼントみたい」
「それなら私からのクリスマスプレゼントはいらないかな?」
「え~、お母さんからのプレゼントも欲しいよ。今年もプレゼント交換しようよ」
「でも、カナヲ君に勝てるクリスマスプレゼントなんてないよ」
「からかうのやめてよ」
こんなにウキウキしているけど、辻さんのことを忘れたわけじゃない。
カナヲ君を苦しめているかもしれない人を信じているわけじゃない。
でもカナヲ君が帰って来る。
それだけで、辻さんを少しは信じてもいいのかもと思ってしまう私は単純なのかな?
「本当に申し訳ない」
家へやってきた辻さんは玄関で頭を下げて謝った。
「カナヲ君は、大丈夫なんですか?」
「はい。流行り病ですので一週間ほどで治ると思います」
クリスマス当日、辻さんが家へ来て直ぐにカナヲ君が病気で来れなかったと知らされた。
ショック過ぎて何も言えない私の代わりにお母さんがカナヲ君の様子を訊いてくれた。
辻さんへの不信感が大きくなった。
やはり、この人はカナヲ君を苦しめているのかもしれないと。
「辻さん。中へどうぞ」
そして辻さんは家へ入る。
不信感しかない私は、辻さんの行動を一つ一つ監視していた。
「あの、何かありましたか?」
「えっ」
「ここ最近は連絡しても直ぐに返事がありませんでしたし、姫華さんの様子が違うように思うのですが」
辻さんとは一言も話をしたくない私の代わりにお母さんが会話をしてくれる。
「色々とありまして」
「色々とは?」
「私はど直球にしか訊けませんので言いますが、辻さん。あなたは私達に嘘は仰っていませんよね?」
「貴方がたに嘘なんて言えませんよ。隠し事は直ぐにバレると理解しておりますので」
「それでは、カナヲ君に人体実験なんてことをしてはいないですよね?」
「それを誰から、、、」
「質問にお答えください」
質問を質問で返そうとしてきた辻さんに、お母さんは冷たく言う。
「そんなことは一度もありません。カナヲの体を傷付けることなんて一切したことはありません」
辻さんの目を見ても嘘なんてついていないのは分かる。
それでも、まだ信じられないのは証拠がないから。
辻さんの言葉しかないから。
今回は、辻さんの言葉だけでは信じない。
「カナヲ君と話をさせてください」
お母さんが私をチラッと見た後、辻さんに言った。
「今日は、そのために此処へ来たんですよ」
辻さんの言葉に少し罪悪感が生まれる。
辻さんは私とカナヲ君が話せるようにと来てくれた。
それなのに私は疑っていた。
「それでは、カナヲ君とヒメちゃんの二人で会話をさせてあげてください」
お母さんは、まだ疑っている。
それが目を見れば分かるし、言葉の節々に刺がある言い方になっている。
「分かりました」
そして辻さんは電話をする。
プルプルと何度かコール音が聞こえてから、カナヲ君の“もしもし”という声が遠くから聞こえた。
「あっ、カナヲかい? 姫華さんが二人で話をしたいそうだよ」
「そう。分かった。代わって」
そして電話を渡されて私は恐る恐る耳に当てた。
「ヒメ?」
「カナヲ君。大丈夫なの?」
「うん。ただの風邪だよ」
「それもだけど、人体実験されてないの?」
「何それ? それって犯罪じゃん。辻さんは、そんなことをする人じゃないって聞いただろう?」
「そうだけど、人から聞いて心配だったのよ」
「大丈夫だから落ち着いて」
カナヲ君はクスクスと笑っている。
私は、こんなにも心配をしているのに。
「ヒメちゃん。自分の部屋で話をしてきなさい。私達に聞かれたくない話もあるでしょう?」
「えっ、いいの?」
「はい。よろしいですよ」
辻さんから承諾を受け、自分の部屋へダッシュする。
「そんなに急がなくても」
カナヲ君は、まだクスクスと笑っている。
「カナヲ君!」
「いきなり大きな声はやめてくれるかな? 頭が痛いのに」
「えっ、あっ、ごめんなさい」
「嘘だよ」
「もう! 心配させないでよ」
「ごめん、ごめん。それで何? 何か言いたくて俺を呼んだんだよね?」
「うん。、、、逢いたかったな」
「俺も」
カナヲ君の声がさっきまでとは違って低くなった。
この声、好きだなぁ。
「次は、いつ逢えるの?」
「どうだろう? 新薬の話は聞いてるよね?」
「うん」
「新薬の販売が始まるから辻さんは忙しくなるんだ。俺も学校があるし」
「学校は、ちゃんと行ってるの?」
「行ってるよ。当たり前じゃん」
「そうだよね。当たり前だよね。今は、ちゃんと行けるよね」
「ん? そうだよ」
学校に、ちゃんと行けるようになったんだね。
良かったよ。
「本当は、もっとたくさん訊きたいことがあったの。でも嬉しくて全部、忘れちゃった」
「俺のことは忘れないでよ」
「忘れないよ。カナヲ君は今も私の心の支えなの」
「俺だって、ヒメが心の支えだよ。必ず迎えに行くから、待ってて」
「うん」
「本当はヒメに触れてほしかった」
少しの沈黙の後、カナヲ君が悔しそうに言った。
「前みたいに、俺の胸に触れて、俺の心を見てほしかった」
「前は怖がっていたのに。もう怖くはないの?」
「それはヒメもじゃん」
「私は怖くないわよ。だってカナヲ君のことは全部、知ってるもん」
「俺は、、、ヒメが俺のことを全部、知っているなら怖くはないよ」
「それなら一緒だね」
「ゴホゴホ」
カナヲ君が咳をする。
長電話はしちゃダメだ。
「大丈夫? 体きついよね? もう電話は切ろうか?」
「せっかく話せたのに俺のせいでごめん」
「いいの。仕方ないんだから。ゆっくり休んでね」
「うん。、、、ヒメ?」
「何?」
「あのさ」
カナヲ君は、話そうかどうか躊躇っている。
「うん」
「やっぱりいいや。また今度、逢えた時に言うよ」
「えっ、何? 気になるじゃん」
「次にとっておくよ」
「じゃあ、次を楽しみにしてるよ」
「うん。じゃあね」
「うん。バイバイ」
そして電話は切れた。
電話が切れると寂しさがこみあげてきた。
それから少しして、お母さん達の元へ戻った。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
18、捜索
【探していた。キミを。何処に行けば逢える? 分からないからキミを待つしかない】




