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闇落ちしていたので救います  作者: 来留美


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16/22

16、黒い影

楽しくお読みいただけましたら幸いです。


~前話つぶやきあらすじ~

15、幸せはすぐ傍に

【ただ逢いたいと願うだけで力が湧いた。大丈夫。キミも同じだよね? 傍には信頼できる人がいるから】




【希望が見えたはずだった。でも現実は甘くない。やっぱり黒い影は蝕(むしば)んでいく】






「ヒメちゃん! いってらっしゃい。気を付けてね」

「うん。お母さん、いってきます。お土産も買ってくるからね」


 カナヲ君が海外へ行ってから時間は過ぎて行った。

 私は高校二年生になり、今日から修学旅行。

 知らない町で友達と観光したり始めての経験を沢山するの。


 そんな楽しんでいる時に出会ってしまった。

 黒い影を抱(かか)えて、あの人が。



 友達と自由行動で町を散策していたら、遠くに見覚えのある顔が見えた。

 私の視線に気付いたその人は私に近付いてきた。


「もしかして、姫華(ひめか)ちゃんだよね?」

「どうして名前を?」

「だって、辻(つじ)さんに姫華(ひめか)ちゃんの動向を把握して報告しろって言われていたからね」

「えっ」

「あれ? 知らなかった? だから、あの日カナヲを直ぐに見つけられたんだよ。でもさ、一緒にいるのには驚いたけどね。辻(つじ)さんには接触させるなって言われていたからね」


 私の目の前にいる人は、カナヲ君と始めて出逢った時に一緒にいたスーツのイケメン男性。

 あの時とは服装がチャラいように見えるが、あの人で間違いない。


「しかし、辻(つじ)さんの演技には本当に驚いたよ。俳優の勉強をしていた俺には目の前で見る演技が迫力あって、本当の辻(つじ)さんって人が分からなくなったよ。でも俺は今は演技からは離れた仕事してんだけどね」

「そうなんですね。辻(つじ)さんって少し不思議な雰囲気がありますからね」

「でもさ、カナヲは可哀想だったよ」

「えっ、カナヲ君が? でも演技ですよね?」

「演技でも、あそこまで冷たくする必要はないよ。まるでカナヲをモルモット扱いしている感じだったよ」


 モルモット?

 何それ?

 演技だって分かっていても、そんな風(ふう)に思ってしまうほど、ヒドイ扱いだったの?


「でもさ、モルモットだって本当は思っていたかもな。だって、カナヲのために新薬を作っていたみたいだけど、たまにカナヲに試していたみたいだからさ」

「何それ? 人体実験ってこと?」

「あっ、いやっ、俺が聞いた話だから確証はないよ」


 信じられない。

 私には、あんなに優しそうな顔をしていたのに本当はヒドイ人だったの?


「まっ、新薬ができたみたいだから、カナヲも楽になるんじゃないの?」

「新薬?」

「そう。だからカナヲは人体実験なんてされることはないだろうし、良かったじゃん。じゃあ、俺は忙しいからさ、じゃあね」


 イケメン男性は逃げるように人混みに紛(まぎ)れて消えて行った。

 私に黒い影を残して。



 その後の修学旅行なんて記憶にない。

 何をしたのか、何を見たのか。

 ただ私の頭の中はカナヲ君が人体実験をされている風景が再生される。


 私の想像にすぎないけれど、でもカナヲ君は苦しいはず。

 体に何か異変だって起きるはず。

 私、何も知らなかった。


 後悔が波のように押し寄せてくる。

 何度も何度も私の心が苦しくなる。


 どうしてカナヲ君に確かめなかったの?

 どうして辻(つじ)さんの言葉だけを信じてしまったの?


 私、バカだ。


 修学旅行中、毎日のように一人で布団の中で静かに泣いた。

 泣いても意味がないことは分かっていた。

 でも泣くことで私の心は壊れずに済んでいたから。



「ヒメちゃん! おかえり。あのね、良い話があるの」


 修学旅行から帰った私に、お母さんが嬉しそうに話してくる。

 お母さんが喜んでいる理由は分かる。

 でも私は喜べない。


「新薬でしょう?」


 だから、お母さんの気持ちなんて考えずに何の感情もなく言った。


「ヒメちゃん。どうして知ってるの?」

「だって、聞いたから」

「誰から?」

「前にカナヲ君のお世話をしていた人だよ」

「ねぇ、ヒメちゃん。私の顔を見て話をしてよ」


 お母さんに言われて私は気付いた。

 ずっと下を向いて、涙を堪(こら)えて言っていた。

 でも、それは信頼できるお母さんの顔を見ると泣いてしまうのは分かっていたからだと思う。


「お母さん。私、信じて良かったの? 辻(つじ)さんを信じて本当に良かったの?」

「ヒメちゃん。何があったの?」


 それから落ち着いた私は、お母さんに全てを話した。

 お母さんはただ静かに黙って聞いていた。


「ヒメちゃんは、その人の話を聞いて、どう思ったの? 信じられると思ったの?」

「信じたくはないけど、信じてしまう私もいるの。カナヲ君が苦しい思いをしていると思うと私まで苦しくなるの」

「その人が、どんな人なのか分からないから信じて良い人なのかも私には分からない。でも、ヒメちゃんが不安なら確かめようよ」

「でも、どうやって?」



「さっき、良い話があるって言ったでしょう?」


 お母さんは不安になる私に向かって、いつもの眩しい笑顔で言った。

 他に良い話があるの?


「新薬の話以外にあるの?」

「あるよ。あのね、カナヲ君が日本に帰って来るのよ」

「嘘」

「本当だよ。ヒメちゃんに逢いに帰ってくるんだよ」


 嬉しくて、さっきまでの悲しい気持ちが飛んでいった。

 カナヲ君に確かめればいい。

 そしてカナヲ君が苦しい思いをしていたなら謝ればいい。


 “ごめんね。気付いてあげられなくて”


 でも、そう言ってもカナヲ君は喜ばないんだろうな。

 だって、ごめんねよりもありがとうの言葉の方(ほう)が好きだから。


 その時は、ちゃんと言うよ。


“逢いに来てくれてありがとう”


 満面の笑顔で言うよ。




お読みいただき、誠にありがとうございます。


~次話つぶやき予告~

17、忘却の電話

【嬉しくて忘れていく。でも、それは良いことだって思うことにした。だって頭の中はキミのことでいっぱいだから】

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