12、犠牲
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
11、諦めと後悔
【諦めることは簡単で、後悔することも簡単。諦めるのも、後悔するのも悪いわけではない。でも簡単に、その道を選ぶのはキミが悲しむから、できるだけ抗いたい】
【キミの痛みを取り除きたい。そのための犠牲は喜んで受け入れる。でもキミは望まないんだと思う】
「どうして、そこまで俺を救いたいわけ? 俺に、それだけの価値があるわけ?」
「カナヲ君?」
「哀れみならいらない。情けもいらない」
「どうしたの、カナヲ君?」
「俺には無理! ヒメと過ごす日々は、もういらない」
「カナヲ君。ひどい。どうして、そんなことが言えるの?」
カナヲ君は悲しそうにしている私を見て私よりも悲しそうにしている。
そして言ってはいけない言葉を口にして後悔もしている。
「ごめん」
カナヲ君は、一言呟きVIPルームを出ていく。
私は何が起きているのか分からず混乱していた。
でも、このままではいけないことは分かっている。
だからカナヲ君を追いかけた。
このままだと最後の別れになっちゃう。
そんなの嫌!
「カナヲ君。待って」
私は映画館を出て、道を歩くカナヲ君を見つけて腕を引っ張った。
でもカナヲ君は歩き続ける。
「待ってよ!」
男の子の力には勝てない。
どうすればいい?
「ちょっと、お金を返してよ」
「えっ、ヒメ?」
私の演技で通行人の冷たい目がカナヲ君へ注がれる。
カナヲ君は動揺している。
作戦成功ね。
「十万円は貸してるわよ。学生で十万円なんて大金なんだからね。ちゃんと返してよね」
「いやいや。お金なんて借りてないから」
「えっ、どうして嘘なんか言うの? 返すつもりはないの?」
私の演技は通行人の足を止めようとしている。
これ以上言うと通行人が私の味方になりそう。
「分かったから。こっちに来て」
私はカナヲ君に手を引っ張られ、近くの公園へ来た。
ベンチに二人で座る。
「最後にはしないから」
「えっ」
「カナヲ君が笑顔でいられないなら最後にはしないからね!」
「ヒメ、もういいんだよ」
「よくないよ。言いたくない言葉まで口にして、そんなカナヲ君をほっとけないよ」
「でも、このままだとヒメが傷付くよ」
「そんなの分かんないよ。でも、もし私が傷付いた時にはカナヲ君が傍にいてくれればいいじゃん」
「俺がいなければ、そもそも傷付かないんだよ」
カナヲ君は、怒りを込めて言った。
自分の存在を憎んでいる。
自分自身を消したいと思うほどに。
カナヲ君の心が痛いと悲鳴をあげている。
私の心まで痛い。
少し息苦しくなって自分の胸を押さえる。
それに気付いたカナヲ君は私の手の甲に手を添えて、背中を擦ってくれた。
ゆっくりと息苦しさは消えていく。
「ありがとう」
呼吸も楽になりカナヲ君にお礼を言った。
「ごめん」
どうしてカナヲ君が謝るの?
悪いのはカナヲ君じゃないよ?
悪いのはカナヲ君に希望を与えない、大人のせいだよ。
「悪くない。カナヲ君は悪くないの。だから謝らないで」
「でも、これ以上、俺の大事な人が傷付くのは見たくはない。俺が悪者になれば全てが上手くいくんだよ」
「それはカナヲ君の自己満足でしかないわよ」
「そんなことは、、、」
「あるわよ。だって私は、このままカナヲ君と別れれば一生、後悔すると思うよ。後悔して良い想い出も全てが嫌な想い出になってしまうはずよ」
自信なさそうに言おうとしたカナヲ君の言葉を遮り、私は自信満々に言った。
「でも俺は、大事な人を守るためなら自己満足だと言われても悪者になるよ」
「それは、ただの押し付けよ。カナヲ君は悪者になるから、私は傷付いたらダメだよって言ってるのと同じだよ」
「それでいいじゃん」
「よくないよ。まるで脅迫だよ」
「それは言い過ぎだよ」
言い過ぎなんかじゃない。
もし私がカナヲ君に“傷付くな”と言われたら、カナヲ君は苦しい思いをしているんだから私だって我慢しなきゃって、カナヲ君の言うことくらい守らなきゃって思うはず。
そして、もし心無い言葉を浴びせられても、本当は傷付いているのに傷付いていないフリをしてしまうはず。
そして心が壊れていくかもしれない。
そんなことをカナヲ君は自己満足のために私にさせるの?
「等価交換でもするつもりなの?」
「俺は何も望まない。何もいらない」
「そんなことはないわよ。カナヲ君は自分の犠牲によって誰かの心が救われたという事実がほしいのよ」
「だったら、俺のせいで傷付いた人を見捨てるのかよ?」
「カナヲ君は何も分かってないよ」
「ガキだからね」
カナヲ君は不機嫌そうに言った。
そうだよね。
誰も傷付かないと思ってやってきたことを否定されたら不機嫌になるよね。
「人の犠牲の上で幸せになるなんて殆どの人はできないよ」
「俺のやってきたことは意味がなかったってことかよ?」
「それも違うよ。意味はあるわ」
「ヒメの言ってることは矛盾だらけなんだけど? 結局、俺はどうすればよかったわけ?」
カナヲ君は呆れた様子で訊いてきた。
どうせ、その答えは私には分からないんだと思っているんだ。
「それは簡単よ。決めつけないことよ」
「決めつけない?」
「そうよ。選択するのはカナヲ君じゃないし、選択肢だってカナヲ君が考えるものだけじゃないわ」
「でも、それで選択を間違って後悔しても遅いんだ」
「選択を間違って後悔しても、それは自分で決めたことなの。自分を責めてしまうかもしれないけど、カナヲ君のせいじゃないの」
「だからって、俺のせいじゃないなんてことにはならないよ。俺が間違った選択をさせなければ後悔をしなかったかもしれないじゃん」
カナヲ君は傷付いた人を見てきたんだと思う。
その人を助けられなかった後悔が今のカナヲ君を作ってしまった。
そう。
カナヲ君は、、、
「全ての人を助けようとしないで」
「どうしてだよ? 助けられるなら全員を助けるだろう?」
「カナヲ君。その全員の中にカナヲ君は入っているの?」
「えっ」
カナヲ君は私の問い掛けに驚き、答えに困っている。
カナヲ君は自分を救おうとはしていない。
それがカナヲ君の間違い。
自分を救わなきゃ、周りの大事な人も救えないことに気付いていない。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
13、正反対
【キミと同じだから惹かれるんだと思っていた。でも、それは違った。本当は無い物ねだりをしていたのかもしれない】




