11、諦めと後悔
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
10、信頼
【人を信頼するということは自分も信頼されなければ成り立たない。だから信頼を勝ち取るのは、そう簡単じゃない】
【諦めることは簡単で、後悔することも簡単。諦めるのも、後悔するのも悪いわけではない。でも簡単に、その道を選ぶのはキミが悲しむから、できるだけ抗いたい】
「映画館に入って直ぐ左の扉から階段を上って、扉を開けるとVIPルーム」
映画館に着き、お母さんに言われた通りに口に出しながら道を進むとVIPルームへ着いた。
今日は約束をした映画館での作戦会議日。
VIPルームだから椅子も豪華。
大きな窓ガラスは手垢すらなく綺麗でガラスなんて無いように感じる。
映画観賞のために映画館に来ているのだから、映画が始まる前に入らなければ怪しまれる。
だから、もし遅刻をしたらその日の作戦会議は無しで次の日に延期になるというルールを決めた。
今日、私は一番乗りだった。
お母さんは家に忘れ物を取りに帰ったから直ぐに来る。
心配なのはカナヲ君。
約束はしたけど、辻さんにバレたら此処には来れないだろうし、罰を与えられたりするかもしれない。
一番、危険なのはカナヲ君。
だからこそ、何もしないことを選んだカナヲ君に無理強いをしてしまったのではないかと不安になる。
私の選択は間違っていないのかな?
「ごめんね」
「また謝ってる」
私のため息と一緒に出た言葉に、来たばかりのカナヲ君がクスクスと笑いながら応えた。
「カナヲ君が、いつも突然に現れるからよ」
「それは、ヒメが自分の世界に浸りすぎなんだよ」
「えっ、だって、考える事が多いのよ」
「でも、ちゃんと考えて答えを出すヒメは何事にも真剣で自分の意見をしっかり持っているから好きだよ」
「そっ、そんなに褒めないでよ」
「でも、欠点は目の前のモノが見えてないよね?」
「もう! 褒められていると思ったのに」
「ごめん。でも、その欠点は俺がカバーするから大丈夫だよ」
カナヲ君は私の頭を撫でながらニコッと笑って言った。
初めて出逢った、あの日もカナヲ君がカバーして助けてくれたんだよね。
それからお母さんも合流し、作戦会議が始まった。
映画の上映時間は二時間程度だから、そのくらいしか話せない。
これからどうするのか、最後には次の作戦会議の日時も決める。
こんなことを何度もするのはカナヲ君の負担が大きいはず。
極力、私とお母さんでできることはやる。
カナヲ君は何度も“お願いします”と私達に頭を下げていた。
カナヲ君の方が負担は大きいはずなのに、私達にまで気を遣う。
「さっ、エンドロールが流れてるわね。映画も終わるわよ」
お母さんがスクリーンを見て言った。
これでカナヲ君とは次まで逢えないんだ。
寂しいな。
「この映画のエンドロールは長いから、私はお化粧直しに行くわね。ヒメちゃんはエンドロールが終わったら出ておいで。一緒に帰ろうね」
お母さんは、そう言ってVIPルームを出ていった。
もしかして気を遣ってくれたの?
「ヒメ」
「何?」
「俺のために忙しくさせてごめん」
「カナヲ君。ごめんじゃないでしょう?」
「えっ」
「ありがとうでしょう?」
私が初めてカナヲ君と出逢った日にカナヲ君に言われた言葉。
謝ってばかりいるカナヲ君は嫌だよ。
「ヒメ。ありがとう」
「うん」
「ところで、俺がここに来た時ヒメは何に謝ってたわけ?」
「カナヲ君に」
「俺?」
「うん。だってカナヲ君は直ぐそこに辻さんがいて、少しの隙でバレてしまうっていう恐怖と戦っているのに、私はその恐怖を取り除くこともできないから」
「それは“今”はそうかもしれないけど、上手くいけば俺は辻から離れられるんだ。だから“今”じゃなくて“未来”のことを考えればいいんじゃない?」
私と違って“今”よりも“未来”を見ているカナヲ君。
今までは“未来”さえもなかった。
そんなカナヲ君に私が希望を与えた。
「私、頑張るからね!」
「おっ、元気になった」
「だって“未来”はカナヲ君の望み通りになるって信じてるからね」
「俺の望み通りか、、、」
「カナヲ君?」
カナヲ君の顔色が少し暗くなった。
何か不安でもあるのかな?
「あっ、エンドロールが終わるかも。出ようか? 人混みに紛れて帰るよ」
「えっ、あっ、うん。でも、待ってカナヲ君」
「何?」
「逢う時間は少ないんだから隠さないでね」
「隠す?」
「カナヲ君の心よ。そして私を頼ってよ」
私はカナヲ君の胸に手を当てて言った。
「分かってる」
カナヲ君は胸に当てた私の手を大きな手で包み込み頷いてくれた。
「ヒメちゃん! お母さんがスーツ姿の人と一緒に車に乗って帰っていったわよ」
いきなりVIPルームに、お母さんのお友達が
入ってきて言った。
私とカナヲ君は握っていた手を素早く離す。
「えっ、お母さんは何か言ってました?」
「“先に帰ってて”って言ってたわよ」
「でもスーツの人って、、、」
凄く不安になる。
カナヲ君の顔を見ると、後悔しているように見えた。
まるで自分を責めている顔。
「やっぱりバレていたか。隠せるわけがないんだよな」
カナヲ君はフッと鼻で笑って言った。
カナヲ君は諦めている。
何もしなければよかったと後悔している。
「何、言ってんの。大丈夫よ。お母さんは諦めないよ。私には分かるの。だって、お母さんなんだもん」
私は心配で涙が出そうになっても我慢をする。
泣いたって、何も変わらないから。
そしてカナヲ君がこれ以上、後悔しないように。
諦めないように。
「俺、帰るよ。そして辻にヒメのお母さんを帰らせるように言うよ」
「言って帰してくれるような人なの?」
「辻は俺を苦しめたいだけなんだ。俺がヒメ達から離れることで、この問題は解決するんだよ」
「諦めちゃダメだよ。お母さんだって戦ってくれているわよ」
「そんな不安そうに言われても納得できないって」
無理だよ。
不安でたまらない。
そんなの隠せない。
でも、カナヲ君に諦めてほしくはない。
すると、私のスマホの通知音が鳴った。
お母さんかもと思いながらスマホを確認する。
『ヒメちゃん。私は大丈夫だからね。心配しないで』
お母さんからメールが届いていた。
お母さんのお気に入りのスタンプが一緒に送られてきている。
お母さんは大丈夫。
「カナヲ君。お母さんは大丈夫。だから諦めないで」
私はカナヲ君の目をしっかりと見て言った。
さっきまでの不安はない。
スタンプが、そう伝えている。
私達は何かあった時に、スタンプで真実を伝えることにすると決めていた。
お母さんのお気に入りのスタンプは大丈夫という意味で、私のお気に入りのスタンプは危機を意味する。
カナヲ君。
お願い。
諦めないで。
後悔しないで。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
12、犠牲
【キミの痛みを取り除きたい。そのための犠牲は喜んで受け入れる。でもキミは望まないんだと思う】




