10、信頼
楽しくお読みいただけましたら幸いです。
~前話つぶやきあらすじ~
9、孤独
【本当は孤独が嫌い。それでも孤独を選ぶのは、その選択肢が正解だと信じていたから】
【人を信頼するということは自分も信頼されなければ成り立たない。だから信頼を勝ち取るのは、そう簡単じゃない】
「カナヲ君は、誰も傷付けない方法として孤独を選んだ。誰とも関わらない。誰にも頼らない」
「そう。それが今の俺にできる精一杯の防御だよ」
「それって本当に得策なの? 他に選択肢はなかったの?」
「子供の俺は、これでいいんだ」
「それなら大人になれば他の選択肢があるの?」
「それは、、、」
カナヲ君は悔しそうな顔で何も言えないでいる。
カナヲ君は今の、この環境を変えることは難しいと理解している。
「私、子供だからできることを見つけたの」
「えっ」
「他の大人に頼るのよ」
「他の大人? 無理だよ。辻が根回しするからさ」
「試したことはあるの?」
「あるよ。昔、俺の世話をしてくれていた使用人に助けを求めたことはあるし、小学校の先生やクラスメイトの親にも」
「なかったことになっちゃったの?」
「うん。全員が居なくなった」
何をしても無駄だと気付いて何もしなくなったカナヲ君の心を想うと、心が痛くて苦しくなった。
カナヲ君に希望を与えようとしない、そんなことをする辻さんが許せない。
「でもね、カナヲ君。今は、いろんな所に相談できるんだよ。児童相談所や警察に行ってもいい。身勝手な大人のせいで犠牲になる子供には優しく手を差し伸べてくれる機関は沢山あるのよ」
「でも、辻には無駄だよ」
「やってみようよ。私はやりたいの。子供だからこそ、できることはあるのよ。大人になったら、この選択肢が残り続ける確証はないんだよ」
お願い。
カナヲ君。
私を信じて。
希望を捨てないで。
「私も手伝うよ」
静かに私達のことを見守っていたお母さんが言ってくれた。
私、一人じゃカナヲ君の心を動かせないと諦めかけていたのに、お母さんの言葉は私に勇気をくれた。
「カナヲ君。もう一度だけでいいの。もう一度だけ信じてみない?」
カナヲ君は怯えているような顔をしていて、肯定しそうな顔には見えない。
私を失うのが怖いんだと思う。
すると、お母さんが私の横を通り抜け、カナヲ君に近寄り抱き締めた。
カナヲ君は目を見開いて驚いて固まっている。
「まだ子供なのに何を抱えてきたの? 大丈夫。私はキミを傷付けないわ。心も体も。だから、、、ヒメちゃん、おいで」
お母さんはいきなり私を呼んだ。
私がお母さんに近寄ると、カナヲ君を左腕で抱き締め、私を右腕で抱き締めた。
「大丈夫。もう、傷付かないで」
お母さんは私にも言っている。
お母さんの腕の中は温かい。
昔から安心できる場所だった。
幼い頃は、両親がいないことに寂しさを感じる時は、お母さんが抱き締めてくれていた。
お母さんの愛情は私の心を守ってくれていた。
本当に、お母さんが大好きで嬉しくて、私はお母さんに抱き付いていた。
カナヲ君はただ固まっていた。
でも、目尻は下がっていた。
嬉しいんだ。
お母さんみたいに優しくて強い大人だっているんだよ。
「今日は遅いから、また後日に話をしようか?」
お母さんが私とカナヲ君を腕の中から解放し、暗くなった空を見ながら言った。
「あの、少し質問をしてもよろしいですか?」
カナヲ君がお母さんに真顔で言う。
お母さんはキョトンとした顔をしながら頷く。
「姫華さんが、この場所に居るのだと、なぜ分かったのですか?」
「それは、メールがきたのよ。知らない番号だったけど嘘でも罠でもいいって思いながら来たの。少しでも可能性があるなら行くって迷わず決断したわ」
「お母さん。それは危ないわよ。これからは気を付けてよね」
私が呆れながら言うと、お母さんは申し訳なさそうにしながら“そうね”と言った。
「そのメールを見せてもらってもよろしいですか?」
「えっ、あっ、うん、いいわよ」
お母さんはカナヲ君から言われて急いでスマホを取り出す。
スマホの画面を見てカナヲ君の眉がピクリと動いた。
「カナヲ君、何か分かったの?」
私はカナヲ君の異変に気付き、直ぐに訊く。
「辻だと思う」
「辻さん? どうしてお母さんのスマホに私の居場所を教えるの?」
「俺が長居し過ぎたんだと思う」
「そうかな?」
私は辻さんの行動に違和感があった。
だって、もし私の周りの人を傷付けたいのなら、お母さんが一番ターゲットになる。
だから私が見つからない方が、お母さんを傷付けるにはいいはず。
嘘の場所を言ってもいいはずなのに、正直に私の居場所を伝えるなんて変だ。
でも、そんなことを考えるよりも今は大事なことがある。
これからカナヲ君とは逢えないってこと。
逢えないのに、どうやってカナヲ君を助けるの?
「カナヲ君。これからは連絡は取れないでしょう?」
「そうだね。ヒメや周りの人達に手を出さないという約束の交換条件として今日は最後だとヒメに言いに来たんだよ」
「そうだよね」
「それなら映画館は?」
お母さんが悩んでいたのに、直ぐにニコニコ顔になって言った。
「映画館? 暗くて見えないからいいかもしれないけど、会話なんてしていたら迷惑だよね? だからといって筆談は字が見えないだろうし。お母さんの提案は良いと思うんだけど」
「ヒメちゃん、それが大丈夫なのよ。私の友達が働いている映画館だからVIPルームがあるの。そこを借りましょう」
「借りれるなら、その映画館にしようよ。今の内に日時を決めなきゃ」
それから直ぐに色々と決めた。
「ヒメ。必ず自然に映画館へ入ってよ」
「分かってるわよ。キョロキョロなんてしないわ」
カナヲ君は本当に私の心配をしている。
「それじゃあ、また後日ね。ヒメちゃんとカナヲ君は、それまではいつも通りの生活よ。二人共、大丈夫だからね」
お母さんのしっかりとした強い言葉が私の心を安心させる。
大丈夫。
お母さんがいるから。
カナヲ君がいるから。
お読みいただき、誠にありがとうございます。
~次話つぶやき予告~
11、諦めと後悔
【諦めることは簡単で、後悔することも簡単。諦めるのも、後悔するのも悪いわけではない。でも簡単に、その道を選ぶのはキミが悲しむから、できるだけ抗いたい】




