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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【激ヤバ、信長包囲網結成編】

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第88話 長谷川真昼、続、織田家親族会議に巻き込まれる

 姉川の激闘を終えた直後、本拠地である岐阜城に帰還した私は……。


「はぁ〜、死ぬかと思った……。やっぱり家が一番! 畳最高!」


 大広間が珍しく空いているのを見て、私はごろんと大の字になっていた。

 信長様や半兵衛君たちは政務や軍議で出払っているんだろう。

 これって思う存分に休めるチャンスじゃね?

 こうして私は、呑気に昼寝を貪り始めた。


「グゴー……八ツ橋、食べ放題……むにゃむにゃ」


 平和な夢を見ていた私だったが、突然お腹の上に「グエッ」と重たいものが乗ったのだ。

 目を開けると、おごとくちゃんが私のお腹に跨っていた。


「うわっ! おごとくちゃん? びっくりしたー。むにゃむにゃ……一緒に寝よっか?」


 微笑みかける私だったが、おごとくちゃんは無言で笑い、私の制服の内側にするすると手を伸ばしてくる。


「……って! なんで脱がそうとしてるの⁉ ちょっと、おごとくちゃん、目が据わってるよ⁉」


 幼児らしからぬ手つきに私が焦っていると、大広間の空気が一変した。


 ピシャァァン!


 四方八方の襖が、まるで示し合わせたかのように同時に開かれたのだ。


「うおっ⁉」


 私が起き上がると、そこには見渡す限りの織田の人間たちがずらりと並んでいた。

 信長様の実兄・信広様を筆頭に、弟の信治様、信興様、信包様、長益様、長利様、秀成様、信照様。

 さらには叔父や従兄弟の信次様、信昌様、信直様、信成様などなど、織田の血を引く親族の男たちが、ヤクザの幹部会のような険しい顔で座り始める。

 ……正月でもこんなに集まらないレベルの異常事態だよ!

 ん? これ、前にもこんなことがあったような?


「えっと……これ、なんの集まりですか? 法事?」


 私がポカンとしていると、隣にフワリと良い香りが漂い、2人の女性が座った。

 1人は信長様の叔母であり、絶世の美女として名高いおつや様。

 もう1人は信長様の妹のお犬ちゃんだ。

 旦那様は知多水軍という海賊で、信長様から一字を貰い佐治為興さん改め、今の名前は佐治信方さん。

 お犬ちゃんは、お市ちゃんやおごとくちゃんと違って教養も礼儀もあり、旦那様とラブラブで私を性的な目で見ない(←ここ超重要!)という、織田家女子の中では奇跡の常識人枠である。


「お疲れ様、真昼ちゃん。今日は身内のちょっとした集まりよ」


 おつや様が妖艶に微笑んでくる。


「身内? えっと、私、参加していいんですか?」


「大丈夫よ。みんな気にしないから。余計なことを真昼ちゃんに言って、面倒くさくなりたくないからね」


「そうそう、みんな真昼のことを兵器としか思ってないから」


 あの~、おつや様、お犬ちゃん? さらっと私をディスってね?


「真昼……ここにいて」


 上目遣いのおごとくちゃんかわええ~。

 いつもこれなら私も安心して、膝の上に乗せられるのに。


「わかったよ。何が始まるのか興味あるしね」


 やがて上座の襖が開き、金属バットを肩に担いだ信長様と、真面目な顔をした奇妙丸君がドカッと座った。

 あっ、これ絶対あかんやつだ。私の野生の勘が警報を鳴らしている。


 織田家親族取締役の信広様が立ち上がり、咳払いを一つして重々しく宣言した。


「皆の者、よく集まった。義弟・浅井長政が裏切り、姉川にて激突したことは周知の通り。だが問題は……市だ。奴は離縁を拒否し、浅井家に残ったままである」


 信広様が扇子で床をバンッと叩く。


「本日の議題はこれだ! 『裏切り者となった市を倒すため、あやつの些細な弱点でもいいから洗い出すこと』! 知っている者は包み隠さず話せ!」


(あっ、救出とか説得じゃなくて、倒す前提なんだ……。実の妹なのに容赦ないな織田家!)


 私が心の中で盛大にツッコミを入れる中、親族たちからお市ちゃんのエピソードが語られ始めた。


「市は3歳の頃から長刀を振り回し、庭の木をへし折っておりました」

「5歳で我らの弱みを握り、小遣いを巻き上げておりましたな」

「美貌と狂気が完璧な均衡で、家中の子弟をことごとくたらし込んで駒にするのに長けていて、弱点らしい弱点は……」

「ムサイおっさんは幼い頃から大嫌いでしたなあ、親父殿(信秀)ですら赤子の市に脛毛を毟られ、恍惚としてましたし」


 ……出てくるのは神童にして魔女という、どう考えても弱点ゼロのヤバいエピソードばかり!

 お市ちゃん……長政さんにお嫁に行った時に、親戚一同泣いて喜んでたけど、喜んでいた理由ってこれなんじゃ?


「う〜む。何かないのか? このままでは小谷城を落とすのに手間取るぞ」


 焦る信広様。

 ……そこで次第に親族たちの視線が、なぜか一斉に私へと集まり始めた。

 ん? なにこの視線。すんごい嫌な予感……。


 そこへ、おつや様が優雅に挙手をした。


「ならば、こうしてはどうかしら? 浅井家に真昼ちゃんを単身放り込んでみるの。市は真昼ちゃんに夢中ですから、きっと内側から浅井家が狂って崩壊しますわ。うふふ」


(って! なんで穏やかな笑みでとんでもない特攻作戦提案してんのおつや様! それ私死ぬよ⁉ もしくはお市ちゃんに食べられちゃうよ!)


 すかさず、お犬ちゃんもニコニコと挙手する。


「いえいえ叔母様。それは真昼が危のうございます。ここは市姉様への精神的負担を狙い、剛毛な脛毛を蓄えたむさ苦しいおっさん軍団を真昼に率いさせ、小谷城へ突撃させるのはどうでしょうか? 市姉様は発狂しますわ」


(って! 笑顔でなんでそんなエグい精神的ブラクラ戦法を思いつくの、お犬ちゃん! 織田家の女のDNAどうなってんの!)


 議論が「真昼単身特攻」か「真昼&脛毛軍団特攻」かで真っ二つに割れ、ヒートアップし始める。

 それを見ていた信長様が、バットをドンと突いた。


「であるか。ならば決戦投票だ。無作為で9名を選出する。選ばれた者は、木箱に木札を入れよ!」


「「「異議なし!」」」


 盛り上がる織田一族たち。


(駄目だこいつら。全員アホだ。人の命と脛毛を同列で投票すな!)


 と、私は頭を抱えつつ、選ばれた9人による厳正な投票を見つめていく。

 開票役の信治様が読み上げる。


「……おつや案、4票! お犬案、4票! なんと同点です! ちょ、残り1票を持っているのは誰だ⁉」


 ざわめく大広間を私がドキドキしながら見回すと、私の膝の上からちょこんと立ち上がった影があった。

 9人目に選ばれていたのは、幼児のおごとくちゃんだったのだ。


(マジで? おごとくちゃん……どっちに入れるの? 頼むから私の命を助けて! ……どっちが助かるんだ?)


 おごとくちゃんはトテトテと木箱の前に歩み寄る。

 そして木札を入れる……のではなく。


「ふんっ!」


 小さな拳を振り下ろし、木箱を綺麗に粉砕したのだ。


 バキィィィン!


 木片が飛び散り、大広間がシーンと静まり返る。

 おごとくちゃんは砕けた木箱を振り返りもせず、テクテク歩いて私に抱きついてきた。


「どっちも駄目。まひるは私の」


「……」


 織田一族たちすら、幼児が放った狂気と圧倒的な物理力に言葉を失っている。


 沈黙を破ったのは、仕切り役の信広様だった。


「えー、こほん。というわけで、本日の議題はこれにて終了! みな、くれぐれもおなごには気をつけるように! 特に同じ織田の血が一滴でも入っているおなごにはな!」


(いいのかそれで⁉ 結局浅井家問題何も解決してないんだけど!)


 信広様の教訓じみた謎の締めに、信長様が満足げに立ち上がった。


「であるか! ではこれより飲み会だ! 存分に騒げ!」


「「「おおおおおっ!」」」


 即座に宴会モードに切り替わり、酒樽が運び込まれる大広間。

 私は膝の上でおごとくちゃんにスリスリされながら、遠い目をして呟いた。


「結局、なんだったんだこの時間……。まあ、生き延びたし、お酒のつまみでも食べますか……」


 戦国の世の理不尽と、織田家の血筋の恐ろしさを改めて痛感しつつ、私もヤケクソで飲み会に参加するのだった。

 

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