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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【織田家激震、義弟長政裏切り編】

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第86話 長谷川真昼、姉川で奮闘する

 朝霧が晴れ始めた姉川の冷たい水面は、両軍が放つ殺気によって、まるで煮えたぎる大釜のように波打っていた。


 西側の対朝倉戦線。1万5千という圧倒的兵数を誇る朝倉軍の陣頭に、総大将・朝倉景健が威風堂々と馬を立てていた。

 傍らにいるのは越前朝倉家の宿老、山崎吉家。

 彼の手元で、複数の英霊ボールが不気味な共鳴音を立てて浮遊している。


「景健殿、見ておられよ。これぞ我が手中にある猛虎のレジェンドたちが織りなす、必勝の方程式にございます! 行け、ミノルとヨシオ。真柄兄弟の力となれ!」


 吉家の合図とともに、朝倉軍の先鋒が、姉川の激流を割って突進してきた徳川軍と激突する。

 中心に立つのは五尺三寸もの巨刀、太郎太刀を軽々と肩に担いだ猛将・真柄十郎左衛門直隆と、その弟の直澄である。


「我が太郎太刀の錆にしてくれるわ!」


 直隆が咆哮すると、英霊ボール『ミノル』が激しく上下に明滅した。

 伝説の右腕の「絶対に負けない」という執念が直隆の肉体に注入され、大太刀の一閃は重戦車の如き威力を放つ。

 振り下ろされるたびに徳川方の防柵は木っ端微塵に粉砕され、三河武士たちが次々と空高く舞い上がっていった。


「いかん! あの回避能力は何だ⁉ 蜻蛉切が、あやつの袴の裾すら掠めんぞ!」


 徳川方の猛将、本多忠勝君が焦燥の声を上げた。

 直澄に宿る英霊ボール『ヨシオ』の牛若丸と呼ばれた華麗な守備力が、忠勝君の神速の突きを、軽やかなステップで併殺打を処理するかのように無力化し続けていたのだ。

 さらに側面からは斎藤龍興軍がキヨシの青色の光を放ちながら「ぜっこうちょおおおおお!」と奇声を上げ、ダイビングキャッチやスライディングで徳川軍の陣形をかき乱す。


『やれやれ。家康よ、絶好調の打者は敬遠するのが一番だが、戦に逃げ場はない。ボヤいても始まらん、誰か一人、空気を読まない奴をぶつけるしかないわい』


 家康さんの懐でノムサンがボヤき、半泣きの家康さんが絶叫した。

 

「真昼殿ぉぉぉ! 助けてぇぇぇ! このままでは旭殿への結納金がゼロになってしまうぅぅ!」


「わかってるって。私も半兵衛君から言われた作戦を敢行しないとね!」


 私は家康さんの懐からノムサンボールをひったくり、意を決して姉川の激流へと飛び出した。

 私の手の中で、センイチが怒髪天を突く勢いで吠える。

 

『小娘! あの猛虎のレジェンドども、生意気じゃ! 審判がいねえなら、わしがルールよ! 乱闘じゃあ! ボールを分捕ってこい!』


「了解! ミノルもヨシオも吉家に無理やり使われて泣いてるんでしょ? なら、遠慮無用! 行くよ、センイチ、ノムサン!」


 太郎太刀を構える真柄直隆の背後に、巨大な虎の影が咆哮する。

 私は『闘将』の二文字が刻まれたかのような輝きを帯びたボールを投じた。


「行って、センイチの意地を見せて!」


 私が全力で投げたセンイチボールは、青白い炎を上げながら直隆に宿るミノルボールと激突した。


 ――ガツゥゥゥゥゥン!


 姉川の川底が割れ、水柱が天を突く。

 伝説の右腕ミノルと燃える闘将センイチ。

 新旧の猛虎の魂が真っ向から火花を散らす。

 そこへ、弟・直澄の横からヨシオボールが飛び出した。


『ZZZ……ミノルさん、儂に任せよ。牛若丸の華麗な守備で、センイチごとき封じてみせましょう!』


 ヨシオがミノルに加勢しようとするが、そうはさせない。


「行って! ノムサン!」


『……やれやれ。監督を無視して勝手なプレーは困るのう。ヨシオ、ミノル! 暗黒時代にした貴様らの尻拭いをした儂らに、一言礼を言わんかーい!』


 私が投げたノムサンボールが、ヨシオの行く手を遮るように激突する。

 あまりの衝撃に、戦場にいた武士たちは槍を捨てて耳を塞いだ。


『ZZZ……な、何を……! 後の時代の監督が、我らに説教とは!』


 ミノルの困惑を余所に、センイチがボソリと呟く。


『……ノムサンは3年連続最下位じゃったがな』


 センイチの言葉が、ノムサンの逆鱗に触れた。

 ノムサンボールから、どす黒い執念のオーラが噴き出す。


『儂の撒いた種のお陰じゃろがあああああい! あの苦労、あの教育、あのID野球の種があってこその勝利じゃああああ!』


 ノムサンの叫びに呼応し、オーラが膨れ上がる。

 それを受け、センイチが真っ赤な熱風を巻き起こして吠えた。


『違うわ! 最後に種を実らせて、優勝させたのは儂じゃああああああい!』


 姉川の空に朝倉軍をも震撼させる凄まじい咆哮が響き渡った。


「2球ともこっちに来て! 今度は私があんたたちに、天下統一という優勝日本一を見せてあげるからああああああ!」


 私は空中で喧嘩をおっ始めたセンイチとノムサンのボールを両手で掴み直し、力を込めてミノルとヨシオを押し返していく。


『『ぐあああああああああああ!』』


 空間が真っ白になり、切り裂かれたような歪みが生じる中、猛虎レジェンドは地面に叩きつけられ大粒の涙をこぼした。


『……優勝日本一。選手時代に達成したかったなあ』

『……ヨシオはまだええやん。儂なんか経験なしやで』


『『センイチ、ノムサン。猛虎を強くしてくれてありがとうございました。小娘……儂たちの負けじゃ』』


 敗北を認めたヨシオとミノルは、山崎吉家の束縛を自ら断ち切り、光に包まれて私の元へと吸い寄せられてきた。


「……ミノルさん、ヨシオさん。お疲れ様でした」


 2つのボールは私の掌の中で納得したように光を収め、安らかな眠りについた。 


「なっ……我が英霊たちが! 強奪されただと⁉」

 

 朝倉本陣で景健と見ていた吉家が、小娘が英霊ボールを倒した信じられない光景に驚愕する。

 英霊の加護を失い、無双していた真柄兄弟の動きが止まった……が。


「ぜっこうちょおおおおおおおお! 長谷川真昼うううううう! この手で屠ってやるううううう!」


 なっ⁉ あのポジティブバーサーカー元気すぎでしょ!

 そこへ家康さんの絶叫が響いてくる。


「ここじゃ! 小平太(康政)、記録を書き換えろ!」

 

 私が龍興に襲いかかられそうになった刹那、家康さんの号令一閃、榊原康政君が別働隊を率い、朝倉軍のサードベース側へ怒涛の突撃を敢行した。


「今じゃ平八郎(忠勝)! 真昼殿を助けよ!」


「承知!」


 本多忠勝君の愛バット、蜻蛉切が龍興の槍と交錯する。


「クソがああああああ! 長谷川真昼ううううううう!」


「テメエの相手は俺だ! 真昼様には指一本触れさせぬ!」

 

 ふう、忠勝君のおかげで助かった。

 私の役目は終わり! 吉家に恨まれて襲われる前に信長様のところへ戻ろう。

 家康さん、あとはよろしく!


 ***


 織田軍の対浅井戦線は、凄惨な9回裏の攻防を繰り広げていた。

 

 1番 磯野員昌、2番 遠藤直経 3番 海北善右衛門、4番 浅井長政、5番 赤尾孫三郎、6番 雨森弥兵衛、7番 新庄直頼、8番 阿閉貞征、9番 浅井政澄。


 この浅井軍の猛攻撃が、織田軍に大量失点を与え続けていたのである。


 坂井政尚部隊撃破!

 池田恒興部隊撃破!

 木下秀吉部隊撃破!

 柴田勝家部隊撃破!

 森可成部隊撃破!

 佐久間信盛部隊撃破!

 

「義兄上、覚悟!」

 

 浅井長政がフミオの闘魂を宿した物干し竿の如き長槍をフルスイングする。

 さらに猛将、磯野員昌が長政の前方で猛威を振るう。


「者共、続け! 織田の本陣を突き崩せぇぇぇ!」

 

 額の鉢巻に『お市様2人目妊娠中』と書いてある員昌の苛烈な突進は、まさに一直線にスタンドへ突き刺さる弾丸ライナー。

 織田軍が誇るスターティングメンバーが、員昌隊によって次々と粉砕されていく。


「クソがあああああ!」

「クッ! これが英霊ボール『フミオ』の力……やばすぎだろ!」

 

 佐々成政、前田利家ら母衣衆も気迫に弾き飛ばされ、ついに織田の本陣、信長の眼前数メートルまで員昌の槍が迫った。


「させぬ! 員昌殿、ここはバックハンドトスでアウトです!」

 

 竹中半兵衛がモリミチを軍配に宿し、員昌の鋭い刺突を間一髪で逸らし続ける。

 しかし背後から放たれる長政の物干し竿の衝撃波を受け、半兵衛の口から鮮血が漏れた。


「押し返せない……! さすがはフミオ殿の長打力……!」


 本陣陥落の危機。織田家の歴史がここで潰えるかと思われたその時、信長がゆっくりと立ち上がり、金属バットを握り直した。


「……いいだろう。長政、員昌。俺が自ら……エースが代打として登場してやる」


 信長が覇王の光を放ち、姉川の戦場は最終回に向かう興奮状態に陥った。

 

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