第129話 長谷川真昼、胡蝶の夢を見る
【もしも真昼が油売りに就職していたら編】
「さあさ、見てらっしゃい! 寄ってらっしゃい! 油を銭の穴に通し、見事一滴も漏らさなければ拍手喝采を! 油をご所望の際は、是非私からお買い上げを!」
「おお! 凄い! 一滴も銭にかかってない! 凄いね、小一郎!」
「ウキー!」
「なんと面妖な……おなごと猿?」
「さっき会った猿だけど、一緒に将軍様の護衛の就職失敗しちゃって仲良くなったんだ。私は長谷川真昼! あなたは?」
「松波庄五郎」
「庄五郎君! その大道芸凄いよ! パトロン見つけて会社興せるレベルだよ!」
「よ、よくわからぬが……お主らが儂の運命を変える気がしてきたぞ。儂の商売を大きくするというのだな?」
「任せて! ついでに英霊ボールも見つけちゃうぞ~」
こうして、真昼、庄五郎、小一郎は共に一生懸命働き、庄五郎は美濃の長井長弘家臣、西村勘九郎と名乗るまでになった。
やがて別れの時が来る。
老齢となり、床に伏せる元松波庄五郎。
「真昼と小一郎と出会って数十年……心残りは英霊ボールを回収しきれなかったことじゃ」
「ウキー……」
「うう~。大丈夫、安心して。新九郎君が協力してくれるから……今までありがとう。庄五郎君」
こうして真昼と小一郎は、庄五郎の息子の新九郎と英霊ボールを回収していった。
「新九郎君ったら、深芳野ちゃんとラブラブなんだから目のやり場に困るよね~」
「ウキー」
そこへ慌てた新九郎改め、美濃国守となった斎藤道三が駆け寄ってくる。
「大変です、真昼様、小一郎様! 朝倉宗滴、六角定頼、織田信秀が美濃へ同時侵攻! 英霊ボールを奪取するつもりとのこと!」
「ほえっ⁉ もう、しつこいんだから!」
真昼は小一郎と道三と共に戦い抜き、強敵を退けることに成功した。
「真昼様、最近家中から『帰蝶』様と呼ばれているそうですな」
平和になったとある日、茶を啜りながら道三が世間話を振ってくる。
「えへへ、蝶々のように美しいって意味かな? 帰るの文字が入ってるのは何でだろ?」
「いずれ『令和』とやらに帰られると仰ってるからかもしれませんなあ」
「おお! なるほど!」
「他に、『胡蝶』と呼ぶ者もおりますなあ」
「胡蝶? どういう意味だろ?」
「荘子の言葉ですな。夢の中の蝶の自分が現実か、現実のほうが蝶の見ている夢なのか、という意味です」
「哲学! 私に一番縁のない言葉だわ~。てか、それを私の呼び名にする意味がまるでわかんない!」
「ウキキノキー」
「ん? 蝶は元々腸だったって? 帰も本来は鬼だったって? 胡は野蛮人て意味? ……どういう意味かな? 小一郎」
私が小一郎をしばいていると、道三君がコホンと咳払いして告げてくる。
「ところで真昼様。織田家の平手政秀殿から、帰蝶宛に縁談が来てるのじゃが……」
「マジで⁉ ついに私にも春が⁉ って、あの平手政秀から⁉ もしや相手って……」
「うむ。信秀の世継ぎ、信長よ」
「あの、大うつけで超変人って噂の⁉」
「どうします?」
「うーん……」
――
「グゴー、グガー……はっ、夢か」
なんか変な夢見た気がする。
なんだっけ……斎藤家?
……龍興の最期を見たからかなあ。
美濃一国を治めるまで上り詰めた斎藤家、それが龍興の死で完全に終わったんだよね……。
あれ? どうして私、1回も会ったことのない道三君の顔を鮮明に覚えてるんだろ……?
まあ、いっか。胡蝶の夢、胡蝶さんの夢だった、っと。
えっと、ここは北近江だっけ?
今は……そうだ。お市ちゃんたちとの最終決戦が控えてるんだった。
「ウキー」
「わっ、小一郎。どうしたの? ピョンピョン跳ねて」
「ウキーウキウキウッキー」
起きたらガチの日本猿が目の前にいるって、私じゃなかったら悲鳴をあげるぞ?
「真昼、ここにいたか。そろそろ軍議が始まるぞ」
「あっ、お姉ちゃんごめん!」
「お姉……?」
あっ、違った。相変わらず、めっちゃ美人な元帰蝶様な秀吉さんだった。
「あはは、なんか一瞬、秀吉さんがお姉ちゃんに見えちゃった。マジマジと見ると、秀吉さんってお姉ちゃんとお母さんの年齢プラスさせて割った感じみたい」
「例えが喜んでいいのか、絶妙に困るなあ」
「あっ、そうだ! 秀吉さんって帰蝶呼びだけじゃなく、胡蝶とも呼ばれてたりしました?」
「ああ、父・道三が存命の時にな。それがどうかしたのか?」
「うーん。ということは、さっきの夢って私の意識と秀吉さんの意識が共鳴合体でもしたのかなあ?」
「何をわけわからないことを。そんなことより、信長様が待ってるから早く支度するんだ」
「ウキー!」
「あっ、やばっ! ありがと、秀吉さん、小一郎」
「ウキキ!」
「秀長って呼べと言っている」
「ごめんごめん。なんか小一郎って、ずっと呼んでた気がしたから」
「おかしな真昼だなあ」
「ウキー」
秀吉さんが笑みを浮かべ、秀長がやれやれと両手を広げた。
ドタドタと走っていく私と、優雅に去る秀吉さん。
――その後ろ姿を眺め、秀長は振り返り、親指を立ててニカッと笑った。
【もしも真昼が油売りに就職していたら編】
おしまい。




