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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【織田家存亡の危機、武田信玄上洛編】

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第113話 長谷川真昼、信玄の連戦連勝を見る

 甲斐の虎が動いた事実は、地鳴りのように東海道を震わせた。

 

 武田信玄が率いる総勢2万5千の大軍の進軍は、緻密にして大胆、豪快にして繊細。

 あたかも伝説の監督たちによるオールスターチームが、弱小球団を蹂躙するために乗り込んできたかのような、圧倒的な絶望感。


 信玄は軍を三つの軍団に分け、同時に徳川領へと雪崩れ込ませた。


 まず、東三河に機動力の塊が投入された。


「どけえええい! 徳川の雑魚ども! 俺の進軍についてこれるか!」


 赤い鎧を纏った騎馬隊が、暴風のように長篠城周辺を駆け抜ける。

 率いるのは武田四天王の一人、山県昌景。

 彼が持つ英霊ボール『アクタロウ』が、毒々しくも鮮烈な赤い光を撒き散らす。


『へっ! チンタラしてんじゃねえ! マウンドは俺のものだ! 誰も俺のボールは打たせねえ!』


 アクタロウの傲岸不遜な性格が乗り移ったかのように、山県隊の進撃は速すぎた。

 奥三河の山家三方衆らは赤備えに恐怖し、戦う前に心を折られた。


「勝てぬ……赤備えには勝てぬ!」

「我らも武田に降るぞ! 徳川なんぞクソ喰らえじゃ!」


 東三河の防衛ラインは、山県昌景の前に脆くも崩れ去った。


 東美濃の岩村城、秋山虎繁と、おつや夫婦も動く。


「……虎繁様。織田からの援軍経路、封鎖いたしました」

「ああ。ご苦労、おつや」


 美濃と三河の国境を完全に遮断し、家康を孤立無援の檻へと閉じ込めていった。

 英霊ボール『ウルフ』の銀色の輝きが、国境で放たれる。


 遠江国の徳川家康の本拠地・浜松城には、信玄率いる本隊2万が、青崩峠を越えて姿を現した。


 難所とされる峠道すら、彼らにとってはウォーミングアップに過ぎない。

 信玄は軍配を掲げ、全軍に檄を飛ばした。


「みんな! いよいよ開幕だ! いいか、細かいことは気にするな!」


 信玄の懐で、太陽のような黄金の輝きを放つ英霊ボール『シゲオ』が激しく脈動する。


『そう! 勝利の匂いがプンプンするね! ここでグワーッと攻めて、ババーンと城を落とす! いわゆる一つの、メイク・ドラマだ!』


「うむ! ビュンと行って、ガツンと勝つ! 王道とは勢いよ!」


 擬音だらけの指示だが、理屈を超越した魔力が宿っている。

 兵士たちは熱狂し、個々の能力が限界を超えて引き出される。

 天方城、一宮城、飯田城……。

 遠江の支城群は信玄とシゲオの前に、為す術もなく押し潰され、開城し、飲み込まれていった。


 ***


 徳川家康の居る浜松城は、すでに葬式が始まっているかのような沈鬱した空気に包まれていた。


「……いかん。これは勝てぬ」


 家康は爪を噛みながら、広げられた地図の上でボヤき続けていた。

 懐の英霊ボール『ノムサン』も、青白い光を明滅させながら、陰気なオーラを垂れ流している。


『……シゲオめ。重量打線で死体蹴りか。何がメイクドラマじゃ。個々の力量だけで優勝して何が楽しんだか』


「ですよね、ノムサン。普通、青崩峠なんて難所、大軍で越えないでしょ。人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なりって、甲州に金山が多いから言える余裕じゃ。ムカつく」


 家康とノムサンが愚痴っているところへ、酒井忠次が憔悴しきった顔で報告に飛び込んでくる。


「殿! 武田の先鋒が、二俣城の目と鼻の先まで迫っております!」


「……早すぎる。決戦の地は天竜川にしようと思ってたのに!」


「殿! 愚痴っている場合ではありませぬ! ここは迎撃せねば、浜松城まで一気に押し込まれますぞ!」


「むむむ、信玄め。この儂が武田の連勝を止めてくれるわ!」


 徳川家康率いる徳川軍と、山県昌景率いる武田軍が激突した場所は一言坂。


 地平線を埋め尽くす武田の赤備えによる山県昌景の突撃は、家康の予測を遥かに超えていた。

 瞬く間に徳川軍は蹂躙された。


「退け退け! 無駄死にするな! 決戦の地は浜松にして守りに徹するぞ!」


 家康は即座に馬首を返して逃走するも、昌景の殺気が背後から迫る。


「逃がすか家康! その首、俺の勝利首にしてやる!」


「殿、お逃げくださいッ!」


 本多忠勝が蜻蛉切バットをブンと振るい、迫りくる赤備えの騎馬を薙ぎ払う。


「平八郎(忠勝)! 加勢する!」


 榊原康政も加わった決死の防戦により、家康は命からがら浜松城へ転がり込んだ。


 その後、武田軍に抵抗を見せた北遠江の要衝・二俣城だったが、そこに武田家きっての職人が向かっていた。


「……水の手を断て。派手さは不要。確実に詰める」


 武田の重鎮・馬場信春が持つ英霊ボール『タナベ』は、地味だが決してミスをしない。

 天竜川から城へ水を汲み上げる井戸櫓に、上流から大量の筏を流し込み、物理的に破壊するという、冷徹きわまりない断水作戦を敢行した。


『相手ベンチのスポーツドリンクを没収するようなもんさ。……水分なきアスリートに戦う力はない』 


 二俣城は乾きに苦しみ、陥落した。

 徳川の防衛網は、ズタズタに引き裂かれたのだ。


 ***


 浜松城に戻った家康は、籠城策を選択せざるを得なくなった。


「……信長様は岐阜まで軍を率いて撤退せよと言うが、ぶっちゃけ武田の騎馬軍団に追いつかれて終わりじゃろ。ここは籠城あるのみ! 武田をここで釘付けにすれば、信長様が大軍率いて来てくれる! ……はず」


『そこで弱気になるな家康。籠城するなら兵の士気を高めい。大将が弱気は寝首かかれて終わるぞ』


 ノムサンが励ますも、家康の愚痴は止まらない。


「いや、だって……叔父貴も知多に帰っちゃったし……はあ……」


『武田に様子見するのは生き残るために当然よ。家康……お主も信長を裏切ってもいいのだぞ?』


「個人的に、抹香臭い信玄が嫌いじゃ。三河一向一揆の屈辱、未だ夢に見るのよ」


『フフ……旭の名を出すより、儂にとってもわかりやすい理屈よ』


 勇気が湧いてきたのか笑い合う2人に、石川数正が駆け寄ってくる。


「申し上げます! 織田家より援軍が到着いたしました!」


「来た! 信長様!」


 家康は弾かれたように立ち上がり、城門へ走った。

 そこにいたのは――。


「……織田信長の名代、佐久間信盛」

「平手汎秀にございます。兵3千を率いて参上いたしました」


 現れたのは信長ではなかった。

 織田家の重臣佐久間信盛と、祖父が信長のお守り役だった平手政秀ということで注目されている若手・平手汎秀のみ。


「……え? これだけ?」


 家康の目が点になる。


「い、いえ、信長様ご本人は? 柴田殿や丹羽殿、それに真昼殿は?」


「信長様は岐阜にて各戦線の指揮を執っておられます。……対武田戦の援軍は、我らのみです」


 信盛が申し訳なさそうに淡々と告げた。


 ヒュオオオオ……。

 浜松城に、冷たい木枯らしが吹き抜ける。


「信長様から、急ぎ岐阜まで家康殿と撤退せよ……とのことでしたが、武田信玄の侵攻速度が早く、最早浜松城籠城しか策はないかと」


「……その通りじゃ」


 家康がガクリと膝をつく横で、ノムサンがどす黒く明滅した。


『……信長が動けんのはわかる。家康が武田と決戦を選択して、撤退できなかったのはこっちのミスよ。じゃが、英霊ボールの5,6個でも持ってこんかい! センイチめ。そんくらいの進言もできんのか。あの自己中め!』


 武田軍2万5千に対し、徳川軍8千と織田援軍3千の合計1万1千。

 しかも相手は栄光のジャイアンツ愛に溢れた英霊ボール多数。こちらはノムサンただ一球。


「……儂はどんな挑発も乗らんぞ。みな! 決して罵詈雑言を浴びようが決戦を選択するな! 武田軍が尾張に侵入した瞬間、背後を襲って一網打尽にするために!」


 家康の宣言に、諸将は「「おおっ!」」と叫んだ。

 

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