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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【織田家存亡の危機、武田信玄上洛編】

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第109話 長谷川真昼、梟雄の敗北の真相を知る

 北近江、小谷城周辺では、血が流れないのに残酷な戦いが繰り広げられていた。


「宮部継潤殿。……沈みゆく浅井の泥舟と、黄金の織田の船。どちらに乗るのが賢いか、言わなくてもわかりますよね?」


 木下秀吉が妖艶な微笑みを浮かべながら、小谷城の支城主たちを次々と籠絡していた。

 宮部継潤、田中吉政……。

 浅井家を支えてきた柱たちが、秀吉の甘美な言葉と現実的な利益の前に音を立てて崩れ去っていく。


 日に日に味方が減り、静まり返っていく小谷城内で、浅井長政は焦燥感に苛まれていた。


「おのれ……! 戦わずして我らを孤立させるか、義兄上め!」


 懐の英霊ボール『フミオ』が、主の怒りに呼応して赤く発光する。


 お市の方は狂気を孕んだ瞳で、真昼の似顔絵を指でなぞっていた。


「ふふふ……大丈夫です長政様。もうすぐ逆転します。武田が動けば本願寺もまた動く。裏切り者はその時報いを知るでしょう」


 お市は地図の二カ所、織田家の致命的な弱点、二条御所と岩村城を見つめた。


 ***


 信長が将軍のために築いた壮麗な二条御所は、今や主の心の闇を映すかのように、重苦しい空気に沈んでいた。


 足利義昭は御簾の奥でガタガタと震えていた。

 摂津の白井河原で、幕府の忠臣・和田惟政が討ち死にしたという凶報。

 それは義昭自身の功名心が生んだ悲劇だった。


「余が……余が惟政を殺したというのか? 違う……余はただ、幕府の威光を示そうと……」


 義昭は爪を噛む。

 このままでは世間は余を暗愚と笑うだろう。信長は冷たい目で「だから言わんこっちゃない」と見下すだろう。

 その恐怖が義昭の精神を蝕んでいく。


 そこへ闇に溶け込むように一人の影が囁いた。

 お市の方が放った草か、それとも義昭自身の妄想か。


「……上様。惟政殿が死んだのは、信長が援軍をよこさなかったせいにございます」


「な、なに?」


「信長は幕府の柱石をあえて見殺しにし、上様を孤立させようとしているのです。……悪いのは全て信長。上様は被害者にございます」


 言葉に含まれる甘美な毒は、義昭の罪悪感を瞬く間に正義の怒りへと変質させた。


「そう……そうじゃ! 信長が悪い! 余は悪くない!」


 義昭は立ち上がり、血走った目で叫んだ。


「制裁じゃ! だが、惟政を討った荒木村重は主君を捨てて信長に降った……今は手を出せん。ならば手頃な裏切り者を血祭りにあげよ! ……松永久秀だ! 兄の仇でもある梟雄を討ち、将軍に逆らう者の末路を天下に知らしめよ!」


 恐怖と保身から生まれた義昭の狂気。

 矛先は摂津戦線で孤立し、三好三人衆に降伏していた松永久秀へと向けられた。


 ***


 かつての大和の支配者・松永久秀は多聞山城の天守閣で苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 現在の彼は、宿敵・三好三人衆に膝を屈し、客将という名の実質的な捕虜となっていたからだ。


「……NO、信じられん。シンキング・ベースボールが……あんな非科学的な放物線に敗れるとは」


 久秀の懐にある英霊ボール『ブレイザー』が、青い光を弱々しく明滅させている。

 緻密なデータと連携を重んじるブレイザーにとって、あの日――辰市城の合戦で起きた出来事は悪夢以外の何物でもなかった。


 ――数ヶ月前の辰市城。


 久秀は万全の布陣を敷いていた。

 対する筒井順慶の軍勢は数こそ多いが、所詮は寄せ集め。指揮官の順慶もまだ若い。


「クックック、順慶よ。データは揃っている。お前の攻撃パターンなど、ブレイザーの知略の前では赤子のハイハイよ」


 久秀が勝利を確信していると、順慶の陣から1人の僧侶が進み出た。

 目を固く閉じ、杖をついた盲目の老僧の異様な風体に、戦場がざわめく。


「……木阿弥。頼めるか」


 若き順慶が老僧に深々と頭を下げた。


「我が父・順昭亡き後、其の方は私にとって第二の父上。……筒井の存亡、采配をそなたに委ねる」


「お任せあれ、順慶殿」


 木阿弥と呼ばれた盲目の男は頷くと、懐から黄金に輝く巨大な英霊ボールを取り出した。

 そのボールの名は『タブチ』。

 かつてタイガースの象徴でありながら、ブレイザーに不要と切り捨てられ、追放された天才アーチストの魂。


『ブレイザー……! 組織のために個を殺し、守備や走塁ばかり説く貴様のやり方、このワシのバットで否定してくれよう!』


 木阿弥が杖を掲げると、背後から巨漢の武者が現れた。

 鋭い眼光を持つ猛将、島左近だ。


「師匠。射角、風向き、調整完了しました。……いつでも打てます」


「うむ。左近よ、見せてやれ。我らが描く、最も美しい放物線を」


 木阿弥の号令と共に、タブチボールが強烈な黄金の光を放った。

 

「天を穿つ巨砲!」


 ドンッ! という破裂音と共に筒井軍の投石機から放たれたのは、常識的な軌道を描く石礫ではなかった。

 それは雲を突き抜けるほどの超・高弾道を描き、久秀の計算を遥かに超える滞空時間を経て、頭上から降り注いだのだ。


「な、なんだと⁉ 空から……石が、降ってくるだと⁉」


 久秀は愕然とした。

 ブレイザーの守備シフトはゴロやライナーには滅法強いが、真上からの攻撃には無防備だった。


「角度がおかしい! 物理法則を無視している! ……これが、ホームラン・アーチストの弾道か!」


 ズドォォォォン!

 美しい放物線を描いた岩石が、久秀の本陣を直撃する。


「ギャアアアア!」


 腹心の竹内加兵衛が吹き飛び、久秀の自慢の軍団は壊滅した。

 これが、進退窮まった松永久秀が宿敵である三好三人衆に降伏せざるを得なかった敗北の真実。


 ――現在。


 多聞山城の眼下には、再び筒井順慶の軍勢が迫っていた。

 今度は将軍・足利義昭から賜った錦の御旗を掲げている。

 陣頭には、あの木阿弥と島左近の姿もある。


「クックック……。将軍め、惟政を殺した罪悪感から逃げるために、儂を生贄にするか」


 久秀は『ブレイザー』を強く握りしめ、歪んだ笑みを浮かべた。

 絶望? 否。

 この梟雄の目に宿っているのは、飽くなき野心とリベンジへの執念だ。


「ブレイザー。考える野球は終わりではない。負けたデータすら糧にするのが、儂たちの流儀だろう?」


『……Yes. 失敗は成功のmother. データは裏切らない。タブチの放物線、次は必ず攻略してみせる』


「面白い。三好三人衆、筒井順慶、そして足利義昭……。全員、儂の踏み台にしてやる。信長が比叡山を焼いたように、儂も既存の枠組みをぶっ壊してやるわ!」


 将軍の闇堕ちと、松永久秀の再起。

 そして大和に現れた天才アーチストの脅威。


 信長が気づかぬうちに、京の足元は崩れ去ろうとしていた。

 

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