第104話 長谷川真昼、信長包囲網が完成したことをまだ知らない
閑話休題。
【もしも真昼が毛利家に就職していたら編】
「儂はもう寿命よ。先に逝ってしまったバカ息子の元へ行くわい」
布団に横たわり、苦しそうに虚ろな瞳で呟く元就お爺ちゃん。
「うう〜。私、元就お爺ちゃんに出会ってよかったよ~。今まで、英霊ボール集めの協力ありがとうございました~」
私が泣きべそをかいて布団に突っ伏していると、輝元君も元春さんも隆景さんも、ついでに小一郎も嗚咽して涙を流していく。
「辛気くさい。泣くな。……輝元、元春、隆景、小一郎……これからも仲良く、真昼の英霊ボール集めに協力するんじゃぞ」
「「「はい! 承知しました……」」」
「ウキー……」
「うむ。……ここに矢がある。輝元、1本折ってみよ」
ボキッ。
「お祖父様、折れました」
「うむ。次に3本束ねて折ってみよ」
「ぐぬぬ……ハアハア、折れませぬ」
「元春、隆景、小一郎もやってみよ」
「……ぐぎぎぎぎ! ゼエゼエ、この俺の膂力をもってしても無理です、父上」
「1本は容易いですが、さすがに3本はキツイです、父上」
「ウキー、ウキキノキー」
孫と息子たちと猿の反応に、元就お爺ちゃんは満足そうに頷く。
「毛利はこの3本の矢と一緒よ。これからも毛利、吉川、小早川の三家で……」
ボキボキボキッ!
「……あっ」
みんなの視線が私に向く。
「えっと、私もやってみたら、できちゃいました」
いや、だって仲間外れにされるの嫌じゃん? 私も3本の矢をぐぎぎってしたかったし。
……まさか折れるとは。不良品が混ざってたのかな?
「ウキー、キッキッキ」
「誰が馬鹿力だって? 小一郎」
私が小一郎をしばいていると、元就お爺ちゃんはそっと天井に視線を戻し、今までの流れをなかったことにして最初からやり取りを開始した。
「……ここに3本の金属バットがある。3本同時に折ってみよ、輝元」
「……お祖父様、1本でも無理です」
【もしも真昼が毛利家に就職していたら編】
おしまい。
***
関東。相模国、小田原城。
難攻不落の巨城の奥深くで、歴史の分岐点が訪れようとしていた。
病床に伏せる北条氏康の元に、息子の氏政と、客将として滞在していた朝比奈泰朝が訪れていた。
「……父上。ご決断を」
氏政が低い声で迫る。
泰朝は顔をマスクで隠したまま、説得を重ねていた。
「氏康公。貴殿は義理堅く、信長や家康との同盟を守ろうとされている。……ですが、家中の声は違いますぞ。上杉憎し、甲相駿三国同盟の頃が懐かしい、越相同盟なんぞ我らに利がない、と」
布団に横たわる氏康は、痩せ細った体で苦しげに息をついた。
「……ならん。信長を敵に回すな。あやつは……新しい理を持っておる。武田と結べば、北条は沈むぞ……」
氏康は最期まで、信長の底知れぬ可能性を見抜いていた。
「父上! 信長は比叡山すら焼いた男。新しい理とは、御仏を滅ぼす南蛮の教えだと仰るのですか!」
「……フフ、ハハハハハ」
氏康の笑いに、愉快さなど微塵もなかった。
「氏政よ。本音を言え。……領土を拡大するのに武田が敵は組み難し……と」
「……!」
「泰朝殿も、だ。貴殿は我ら北条の家中も、天下万民もどうでもよい。ただ、今川の無念のみで動いておる」
病人とは思えぬ氏康の気概に、氏政も泰朝もたじろいだ。
沈黙が続く室内で、氏政は全てを振り払うように暗い瞳で首を横に振る。
老いた父の威圧も、愛情も、教えも消し去るように。
「……父は老いた。義理という約定に縛られ、北条の勝利を逃そうとしている」
氏政はゆっくりと立ち上がり、枕元に置かれていた氏康の愛刀を手に取った。
「氏政……何を……」
「北条が勝つためです。……父上、引退の時間です」
――ザシュッ。
障子に鮮血が飛び散った。
一瞬の出来事だった。泰朝は眉一つ動かさず、相模の獅子の最期を見つめた。
『き、貴様!……グワッ』
氏康が所持していた英霊ボール『モリ』が、氏康を守ろうとしたが氏政の懐から飛び出た英霊ボールの殺気に当てられ、壁にめり込んでしまう。
『……テ……テツハル……監督……グフッ!』
『モリよ。ご苦労さん。関東はライオンズじゃない。ジャイアンツのものだ。返してもらうぞ』
モリが降した英霊ボール、ヒガシオ、イトウ、ナベキューが畳の上に転がっていく。
氏政は立ち上がった。
伝説の英霊ボール『テツハル』と、新たに降した英霊ボールたちを宙に浮かせながら。
血に濡れたボールが、冷徹なオレンジ色の輝きを放ち始める。
ボールから響く声は、感情の一切ない、機械のような冷たさを持っていた。
『勝つために手段を選ぶなというワシの教えを忘れたようだな、モリよ。ワシのV9のイズムと、全盛期ライオンズの黄金メンバー。英霊大戦、これでワシが有利よ。身内殺しだろうが、勝った者が正義じゃ』
テツハルの視線は上杉領と武田領に向かう。
『モリとの争いに敗れ、V9メンバーが上杉と武田に流れたようだの。シゲオもワンチャンも情けないのう。……まあよい、まずは関東を完全支配するぞ、氏政』
氏政は父の血を拭うこともせず頷き、泰朝に告げる。
「北条は織田・徳川・上杉との同盟を破棄し、武田信玄と結ぶ。……勘違いするなよ、泰朝。我が家中は反上杉の感情が強い。武田が織田と徳川を叩いているうちに、北条は関東を完全に掌握する」
泰朝は深く平伏した。
「……御意。過程などどうでもいい。織田が滅ぶなら、誰が天下を獲ろうと構わぬ」
それから氏政はテツハルを手にし、諸将を集め、告げる。
テツハルとともに降した、モリ、ヒガシオ、イトウら英霊ボールが氏政を囲むように浮遊していた。
「父、氏康が病に勝てず没した。……父の最期の言葉だ。心して聞け。『織田は信用ならぬ。直ちに織田と徳川・上杉との同盟を破棄し、武田と結べ』と」
涙を流しながら告げる氏政に、北条諸将も落涙し、平伏していく。
この瞬間、最強の戦国武将・武田信玄の上洛を阻む壁が消滅した。
東からの脅威がなくなり、甲斐の虎が解き放たれる。
信長包囲網が、ついに完成したのだった。
――【激ヤバ、信長包囲網結成編】完
【織田家存亡の危機、武田信玄上洛編】に続く




