78.Web小説ライターの受難
「Web小説ライター?」
「コンピュータで小説を書く小説やな。」と、俺の自宅に来た佐々ヤンこと佐々刑事は説明した。
○月〇日。
「Web小説ライター?」
「コンピュータで小説を書く小説やな。」と、俺の自宅に来た佐々ヤンこと佐々刑事は説明した。
「『モノカキ惨状日吉の日常』っていう日記風の小説を書いているらしい。ガイシャは鋤田公平。こっちの方がペンネーム。ネットではアカウント名って言うらしい。で、本名は鎌田吾平。幸田さん、鎌田さんの案件、覚えてます?名刺が現場にあったんやけど。」
佐々ヤンは、大阪府警テロ対策室に配属された刑事や。
他の案件なら、他の刑事が来る。佐々ヤンが言う『現場』は、『空堀通り商店街』を抜けた、古い『文化住宅』だった。
『文化住宅』とは、昔流行った『長屋風の二階建て住宅』だ。二階建ての家がブロック塀のようにくっついている。それぞれの家が二階建てで、アパートのように、一階と二階に別れている訳で無く、無論渡り廊下もない。
流行った頃は、便利な住宅と考えられたのだろう。当時は『文化包丁』などのように『文化』を着けると、格好よかったのだろう。今では、このタイプの建物を建てることは出来ない。火事になると、類焼間違いから建築基準法や消防法で禁止されたからだ。
二昔前、『地上げ屋』が横行した時、軒並み、このタイプの住宅が『強制的に土地転がし』するために、反社は狙い撃ちした。本庄先生によると、今年2025年に建築基準法の改正(施行)が予定されているらしい。
問題の鎌田さんは、『空堀通り商店街』振興会の委員長だった。
鎌田さんの普段の顔は知らなかったから、どこかの会社を定年退職しているに違いない年齢の人という認識だった。
で、俺の名刺を持っていたのは、興信所に依頼があったからだ。
去年の秋だったか、「どうもストーカーがいるらしい」と依頼してきたのだ。
確証がないと、警察は動かないからだ。
俺は、張り込みの結果、『ゴミ袋荒し』をしている、スーツの男に声をかけた。
予め、鎌田さんには、ゴミ袋に目印を付けさせていたのだ。
「生ゴミ、食べられるゴミは入っていないと思いますよ。」
「は?」「大体、捨てたゴミ、開いたらアカンでしょ。」
男は、「こういう者です。」と警察手帳を見せた。
「公安の刑事です。ご内聞に。」と名刺を渡してきた。
「そちらも、お仕事でしたか。」「ええ。不審者がうろついている、と住民から苦情が出ているようです。」
俺は、反射的に自分の名刺を出した。
男が立ち去った後、俺は念の為、警察に確認した。
その警察官は実在したが、その時間、出張ってはいなかった。
やられた、と俺は思った。
佐々ヤンが出した名刺は、その時のものだ。シリアルナンバーは打っていないが、前の取引先の印刷屋で印刷したものだ。
その後、鎌田さんから「あれきり気配がない。取り越し苦労だったかも。」と、電話があった。
取り越し苦労では無かった。やはり、狙われていたのだ。
捜査は、鎌田さんが交際していた?女が指名手配犯だった、元『赤〇派』の女だったことが分かっている。
「ついていない人生だった」とぼやいていた鎌田さんは、『悪い女』に捕まったのだ。
容疑者は上がっていないが、その女が仲間に殺された、と警察では見ている。
佐々ヤンは、『追捜査』で、俺が関係しているかどうかを確認しに来たのだ。
俺は、佐々ヤンに『モンタージュ』の依頼を受けた。
俺は、2つ返事で引き受けた。犯人が捕まれば、少しは鎌田さんも浮かばれるだろう。
「私、あんたを選んで良かったわ。」と、後ろから声が聞こえた。
俺の場合も、『捕まった』ことには違い無い。
―完―
※空堀商店街は、上町~松屋町にかけて東西に延びる800メートルほどの商店街です。
心斎橋から程近いエリアです。昭和20年から続く大阪の伝統あるレトロスポットと言われ、昔ながらの長屋や街並みの景色があり映画の舞台として何度も扱われた場所です。
さらにその雰囲気を生かした現代風のおしゃれなお店などもあり懐かしさや新鮮さを楽しめる空間になっています。
※撮影に使われた主な映画
堤真一さん主演の映画『プリンセストヨトミ』
市原隼人さん主演の映画『ボックス!』
芦田愛菜さん主演の『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』
八嶋智人さん主演『秋深き』など。
実在の場所と映画等を題材にしていますが、フィクションです。
作中の『モノカキ惨状日吉の日常』は、拙作でも書いています。




