75.被害妄想殺人事件
俺は、例によって倉持と共に依頼者を連れて「浮気現場」に踏み込んだ。
これは、南部興信所の伝統だ。
○月〇日。
俺は、例によって倉持と共に依頼者を連れて「浮気現場」に踏み込んだ。
これは、南部興信所の伝統だ。
浮気相手を突き止めるだけでなく、依頼者が暴走しない為の処置だ。
場合によっては、刑事事件に発達する恐れがあるからだ。
離婚調停とかの話になれば、本庄弁護士を紹介して、紹介手数料を頂く。
踏み込んだ現場で俺達は異様な光景を目の当たりにした。
依頼者の本間美優は、その場でへたり込んだ。
何と、夫の柳助と、浮気相手は、口が『きなこ』まみれだった。
倉持が救急を呼ぼうとしたが、俺は「待て、倉持。警察呼べ。明らかに死んでる。」と言った。
やがて、所轄署から刑事と鑑識が来た。
俺は手短に事情を説明した。
本間の奥さんは異常に興奮しているので、倉持が懸命になだめている。
午後3時半。
今日は、もう仕事にならないから澄子の店に来た。
おやつだと言って出してきたのが、きなこ餅。
倉持は珍しく怯えた。
俺が事情を話すと、澄子はあっさり『きんつば』を出した。
きんつばと食べ、お茶を飲んでいると、スマホが鳴動した。
所轄署の刑事や。
「え?捕まった??で?????」
電話を切ると、俺は倉持と澄子に話してやった。
被疑者、いや、殺害犯人の引田宗佑は、アパートの隣の住人だった。ガイシャは、窒息死したのだ。大量のきなこで。
1浪中で、「受験ノイローゼ」だった。それは、引田の母親に連絡を取り、今取り調べ中だが、原因は明らかになった。
問題は、動機だ。
物事の『結果』には、『原因』と『理由』がある。原因が受験ノイローゼで、理由は動機だ。
引田のケータイから、それも判明した。『きなこに殺される』という『タイトル』の『フィッシングメール』だった。フィッシングメールとは、コンピュータのプログラムで特定多数の相手に送りつけ、「折り返し返信」した『さかな』を餌食にする、詐欺の手段ことだ。
興味を引くタイトルにして、丁寧な文章でURLを書き込んでいるのが特徴で、引田も『釣られた』クチだ。ところが、URLのアドレスはもう存在しなかった。
殺人事件を耳にしたのか。他にヤバイことがあって引き揚げたかは分からない。
だが、引田の精神錯乱に拍車をかけてしまったのが、そのメールだ。
引田は知っていた。きなこをスーパーで大量に買ってまで殺害した、隣人の女を。
その女の名は「希菜子」だった。
―完―
殺人事件を耳にしたのか。他にヤバイことがあって引き揚げたかは分からない。
だが、引田の精神錯乱に拍車をかけてしまったのが、そのメールだ。




