59.三途の川
俺は、倉持と依頼者との打ち合わせの帰りだった。
ある橋を渡る途中。靴を脱いで揃えて、橋の欄干、詰まり、手すりを乗り越えようとする男の姿が見えた。
○月〇日。
俺は、倉持と依頼者との打ち合わせの帰りだった。
ある橋を渡る途中。靴を脱いで揃えて、橋の欄干、詰まり、手すりを乗り越えようとする男の姿が見えた。
「倉持、止めろ!」言うが早いか俺はドアを開け、落ちそうになる男にしがみついた。
ところが、勢い余って、男と一緒に落ちてしまった。
俺の耳元で泣いたり喚いたりするのが聞こえた。
「あんた!後のことは心配要らんで。生命保険10口かけてあるサカイに。」
「奥さん、私にも分けてな。妾やさかい。」
「あんた、幸田に、なんぼかけてあったんやっけ?」
「2000万やな。」「自社ビル建てられるな。」
俺は、何とか左手を動かそうとした。重い。
次に右手を動かそうとしたら、動いた!
深呼吸をした。肺が動いた気がした。
目が・・・重い。だが、何とか開けることが出来た。
色んな人間が俺を覗き込んでいた。
「先輩!気がつかれたんですね?」可愛い後輩である倉持の声だ。
「幸田。蘇生術使う必要なくなったな。生還おめでとう。」
辻先輩や。
「良かったな、幸田。お前が助けようとした男は運悪く川底の石に頭ぶつけて死んでもうた。」南部所長や。
「あんたは、悪運強いな。日頃の行い悪いのにな。」
面と向かって悪口言う、『社長夫人』の総子や。
何やら、下半身が濡れている気がして、体を少し起こすと澄子とワコが俺の脚に縋り付いて泣いていたようだった。
涙を拭いもせず、「あんた、お帰り。」「兄ちゃん、お帰り。」と2人は言った。
俺も目から水が出た。
院長が入って来た。
「儲け損なったって、病院で話せんといて・・・幸田、起きたか。三途の川、どんなんやった?点滴終ったら検査な。ワコ、CTの準備をしてくれ。」
ワコは頷いて、汚れたナース服のまま出て行った。
横ヤンと花ヤンが入って来た。
「幸田さん。明日の仕事は、わしらが引き受けるサカイな。」
「良かったな。生還出来て。」
5分ほど雑談した、南部興信所の面々は帰って行った。
「なんぼかけても、社員やサカイな。」
眠ったふりをした俺を後にして、所長が要らんことを言った。
俺は、倉持と横ヤンと花ヤン以外は信用せんことにした。
まさか、昨日の雨で橋の手すりの下にぬかるみがあったなんて・・・佐々ヤンにだけ報告しよう。ところで、俺はいつワコと不倫したんや?身に覚えがないが。
夢やと思いたかったが、点滴の針が妙に痛かった。
―完―
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